そのキャラ・その作品ならではのユニークな比喩を使う ~アニメ「MFゴースト」の場合
◆概要
【そのキャラ・その作品ならではのユニークな比喩を使う】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:アニメ「MFゴースト」(第9話)
▶1
本作の主要キャラの1人・ジャクソン(30歳頃の男性)。
彼は、「MFG」というカーレースのドライバーである。
ある日のレースにて。
・Step1:ジャクソンは、先行する86号車に追いついた。
・Step2:86号車のドライバーはカナタ。新進気鋭の注目株である。
・Step3:とはいえ、車のパワーはジャクソンの方が上だ。彼は直線コースで一気に86号車を追い抜いた。
・Step4:直後、86号車はジャクソンの背後に回り込もうとした。トウの恩恵を受けようというわけだ。
※補足:「トウ」は、別名「スリップストリーム」。前走車のすぐ後ろにつくと空気抵抗が減るという現象を指す。モータースポーツでは、前走車に追いついたり追い越したりするのに利用される。
と、その時だった。
・Step5:ジャクソンの車が小さく揺れた。――「0.001秒でも早くジャクソンの背後につき、トウの恩恵を受けよう」と考えた86号車が、あまりにもすれすれを狙いすぎた結果としてジャクソンの車にわずかに接触したらしい。
・Step6:ジャクソンは驚く「トウの恩恵を最大限に受けるためのギリギリのアクションなのか!?トウに入ろうとする車からフレンチキスをもらうなんて、レース人生で初めての体験だぜ!」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「トウに入ろうとする車からフレンチキスをもらうなんて、レース人生で初めての体験だぜ!」というジャクソンのセリフである。
要するに「トウに入ろうとする車から接触されるなんて初めてだぜ!」とそのあまりにもアグレッシブな姿勢に驚いているわけだが――ストレートにそう言ってしまっては面白みを欠く。
そこで【そのキャラ・その作品ならではのユニークな比喩を使う】という技法の出番だ。
改めてジャクソンのセリフをご覧いただきたい。
「トウに入ろうとする車からフレンチキスをもらうなんて、レース人生で初めての体験だぜ!」。
車同士の軽い接触をフレンチキスに喩えるとは、ジャクソンよ、キザすぎるだろ!それじゃあ何か、激しい接触はディープキスか?それともメイクラブか?
あまりにもキザで笑ってしまう。
というわけで、「トウに入ろうとする車から接触されるなんて初めてだぜ!」を「トウに入ろうとする車からフレンチキスをもらうなんて、レース人生で初めての体験だぜ!」に置き換えたことで、大変にユニークで印象的なセリフになったといえるだろう。また、ジャクソンというキャラにそれまで以上に興味関心を抱き、物語に惹きつけられた鑑賞者は少なくないと思う。