相手の言葉の「含意・ニュアンス」をわざと無視することで、軽口を叩いたり笑いを誘ったりする ~映画「スナッチ」の場合
◆概要
【相手の言葉の「含意・ニュアンス」をわざと無視することで、軽口を叩いたり笑いを誘ったりする】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「スナッチ」
▶1
本作の主人公は、ターキッシュ(30歳頃の男性)。
彼は裏社会の人間であり、闇ボクシングのプロモーターなどをして金を稼いでいる。
いろいろあってある日のことだ。
・Step1:ターキッシュは、相棒とともにとある野原にやってきた。
・Step2:2人は車を停め、辺りを見回す。
・Step3:間もなく、見知らぬ男たちが近づいてきた。彼らは警察手帳を示すと「何してるんだ?」。
ターキッシュは一瞬、
・Step4:「クソ。刑事かよ……」という顔になる。――何しろ、彼は裏社会の人間だ。脛に傷を持っている。面倒ごとは避けたい。
・Step5:というわけで、ターキッシュは「犬の散歩ですよ」とごまかした。
・Step6:刑事はさらに訊いた「車の中には何がある?」。
・Step7:ターキッシュが答える「座席とハンドルかな」。
その後、
・Step8:刑事たちは車内をひと通りチェックし、しかし特に怪しいものは見つからなかったため、ターキッシュたちは無事解放された。
▶2
ご注目いただきたいのは、「車の中には何がある?」という刑事のセリフ、そして「座席とハンドルかな」というターキッシュのセリフである。
刑事が「車の中に違法なものはないだろうな?」と問うているのは明らかだ。
無論、ターキッシュだってそんなことはわかっている。
ところが彼は「座席とハンドルかな」とボケてみせた。
なぜか?
おそらくは、自らの平静さを示すためだろう。「俺は軽口を飛ばせるくらい平静だ → 悪党が刑事の前でこんなに落ち着いていられるわけがない → したがって俺は悪党ではない」という三段論法である。
要するにターキッシュは、刑事に怪しまれぬように【相手の言葉の「含意・ニュアンス」をわざと無視することで、軽口を叩いたり笑いを誘ったりする】という技法を使ったわけだ。