「アクは強いが、鑑賞者に好かれるキャラ」の描き方!!|『見知らぬ乗客』に学ぶテクニック
名作映画を研究して、創作に活かそう!
本記事では、「見知らぬ乗客」に【「アクは強いが、鑑賞者に好かれるキャラ」の描き方】を学びます。
※「見知らぬ乗客」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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アクは強いが、鑑賞者に好かれるキャラ!!
まずは、「見知らぬ乗客」の冒頭シーンを見てみましょう。
すなわち……とある列車の中のことです。
1人の男がやってきて席に座った。彼の名はブルーノ。
間もなく、別の男もやってきた。彼の名はガイ。ガイは、ブルーノの向かいの席に座りました。そしてガイが足を組もうとして……2人の足がぶつかる。彼らは「おっと」「あっ、失礼」と言葉を交わした。
ガイは本を取り出し、読書を始めました。一方のブルーノは、まじまじとガイを見つめる。もしかしてこの人は……!ブルーノが声をかけた「あの、失礼ですが」。
ガイが顔を上げる。
ブルーノが訊く「ガイ・ヘインズさんではありませんか?」。
ガイが微笑む。
ブルーノは嬉しそうに「おー、やっぱり!試合を見ましたよ。準優勝でしたよね。いやぁ、すごいなぁ!」「あっ、私、ブルーノと言います。ブルーノ・アンソニーです」。
じつはガイは、実力派テニスプレイヤー。その上既婚者ながら、上院議員の娘といい関係にあると報じられている。つまり、新聞のスポーツ欄とゴシップ欄を騒がせる有名人なのです。
ブルーノは有名人と出会い、興奮している様子。一方のガイ。彼は終始穏かな笑みを浮かべています。しかし口数は少ない。困惑しているのが伝わってきます。要するにこれ、「有名人がプライベートの時間にミーハーなファンに声をかけられ、戸惑っている」というシーンです。
普通に考えれば、私たち鑑賞者は「あー、面倒くさいヤツに絡まれてしまって……かわいそうに」と有名人(ガイ)に同情し、その一方でミーハー野郎(ブルーノ)には嫌悪感を抱きそうなものですが……ところがどっこい。実際には、あまり不快な印象はない。
むしろ「このブルーノという男は悪人ではなさそうだぞ」と好意する感じる。
一体なぜか?
理由は、4つに大別できるでしょう。
【理由①】紳士だから
鑑賞者がブルーノに嫌悪感を抱かぬ第1の理由は……「ブルーノが紳士だから」です。
ブルーノは子どもではありません。おそらく30歳頃でしょう。また、彼はいかにも高級そうなスーツと靴を身につけている。ズバリ、人品卑しからぬ紳士なのです。
そんな紳士が、「興奮を抑えきれぬ」といった感じで前のめりになって話しかけているのです。尻の青いティーンエイジャーや、視野狭窄に陥った熱狂的なオタクがワイワイ騒ぐのとは違います。
多くの鑑賞者は、「この人は本当にガイのファンなんだなぁ」と微笑ましく感じる。そして、温かく見守ろうという気になるのです。
【理由②】ガイのことをよく知っているから
鑑賞者がブルーノに嫌悪感を抱かぬ第2の理由は……「ブルーノが、ガイのことをよく知っているから」。
ブルーノは言います「サウスオレンジでファラデーに勝利した試合を見ましたよ!準優勝なさいましたよね!」「これからダブルスの試合なんでしょ?」。
さらに彼は、「ガイが既婚者であること」も、「しかしいま上院議員の娘と恋愛関係にあること」も、「上院議員の娘の名がアンであること」も、そして「ガイが妻と離婚したがっていること」もすべて知っている。
かくして多くの鑑賞者は、「ははぁ。この人は本当にガイのファンなんだな」と微笑ましく感じるのです。
【理由③】ガイに気を遣おうとするが、我慢できないから
鑑賞者がブルーノに嫌悪感を抱かぬ第3の理由は……「ブルーノはガイに気を遣おうとするが、我慢できないから」。
上述の通り、足がぶつかったことをきっかけに、ブルーノはガイに声をかけました。映画開始から2分30秒経った時点での出来事です。
その後、ブルーノは嬉しそうにガイに話しかける。しかし27秒後(映画開始から2分57秒時点)、彼ははたと気づく「あっ、失礼。私のことは気にしないで、読書を続けてください」。
多くの鑑賞者は感じるでしょう「おっ、さすがは紳士。ブルーノは気を遣える男のようだ」。
ガイはうなずく「では、そうします」。ブルーノは口を閉じ、ガイは読書に戻った(映画開始から3分00秒時点)。
……が、しかし。彼が我慢できたのはわずか4秒のみ!すなわち4秒後、ブルーノは申し訳なさそうに、おずおずと口を開いたのです「あのぉ……」。
【理由①②】同様、多くの鑑賞者が「アハハッ。この人は本当にガイのファンなんだなぁ」と微笑ましく感じる演出と言えるでしょう。
【理由④】親思いだから
鑑賞者がブルーノに嫌悪感を抱かぬ第4の理由は……「ブルーノが親思いだから」です。
ブルーノのネクタイには、「Bruno(ブルーノ)」という刺繍が入っています。ブルーノが笑いながら事情を説明した「野暮ったいんですが、これ、母がくれたものなんですよ。付けていると母が喜ぶんです」。
多くの鑑賞者は、「親思いの男だ。悪いヤツではなさそうだぞ」と感じるはずです。
まとめ
以上、「鑑賞者がブルーノに嫌悪感を抱かぬ4つの理由」をご説明してきました。
この結果、「グイグイとガイに迫るブルーノ」を目の当たりにしても、鑑賞者はあまり不快に感じず、むしろブルーノに好意すら抱くというわけです。
アクの強いキャラを描く時には、本作のような「フォロー」を忘れぬようご注意くださいね!(フォローを入れないと、単なる嫌なヤツになってしまうので……)
補足
ちなみに……このブルーノという男、じつは精神異常者(!)。
この後ガイは、ブルーノのせいでとんでもない窮地に陥ることになります。
要するに本作には、「まずは、『ブルーノ = 悪いヤツではない』と印象づける → その後、異常者だと種明かしする → 鑑賞者はその落差にびっくり仰天」というテクニックが使われているのです。
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(担当:三葉)