「WATCH MOE ANIME」の法則 ~もしもかおすがかおすでなかったら|『こみっくがーるず』(3)
本記事は、アニメ「こみっくがーるず」を徹底分析する特集の……第3回である★
第1回からご覧になることをオススメします!
「オッサンオタク」としてのかおす!
前回、かおすのオタク的な側面を詳述した。
今回はその応用編である!
※以下のツイート内画像の内、右上のかおすにご注目。萌えを熱く語っているシーンである。
【問1】もしもかおすが「ゲスかおす」だったら、どうなっていたか?
前回申し上げた通り、かおすはエロ耐性がない。
……が!
連載開始前の当初の設定では、かおすはもっとゲスなキャラだったという(コミックス1巻の読者プレゼント「こみっくがーるず増刊号」より)。
この頃のかおす、通称「ゲスかおす」は、例えば小夢にセクハラしまくるキャラだったそうだ。
担当編集から指摘を受けて現在の姿になったそうだが……はて、かおすが「ゲスかおす」のままだったら、「こみっくがーるず」はどのような作品になっていたのだろうか?
考えてみよう!
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無論様々な影響が考えられる。
しかし最も重要なのは、かおすが「私たち視聴者とよく似たキャラ」ではなくなってしまうということだろう。
言うまでもなく……私たちは日常的にセクハラしまくったりはしないし、ゲスっぽい言動を連発したりもしないのだから。
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……はて、かおすが「私たち視聴者とよく似たキャラ」ではなくなったとして、何か問題があるのだろうか?
じつに大きな問題がある!
そもそも……(これまた前回申し上げた通り)私見では「こみっくがーるず」の魅力の何割かは、「かおすと視聴者の近さ」に由来する。
かおすは、たいていの視聴者とは性別も年齢も境遇も異なるだろう。
……が、その「オッサンオタク」的な部分は、視聴者とじつによく似ている。
だから視聴者は、かおすにスッと感情移入できる。
そしてかおすのひたむきな姿に心打たれたり、思わず涙したりするというわけだ。
つまり、「オッサンオタク」という点において、かおすと私たちはつながっているのだ(名言風に換言するなら、「『オッサンオタク』……それが、かおすと私たちをつなぐ絆……!」)。
ところが、「ゲスかおす」となると話は違ってくる!
「ゲスかおす」に感情移入するのは難しいだろう。
もちろん、「感情移入できない = つまらない」というわけではないが……少なくとも現在の「こみっくがーるず」のように、心揺さぶられる作品にはなり得なかったのではないかと思うのだ(だって感情移入できないのだから)。
【問2】それなら、「オタクの中年男性」を主役にすればいいのでは?
ここまで、以下のように申し上げてきた。
……ここで1つ疑問が浮かんでくる。
では、最初から「オタクの中年男性」を主役に据えればよいのでは?
性別も年齢も境遇も近い方が感情移入しやすいだろうから、もっと感動的な作品になるのでは?
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なるほど。
中年男性マンガ家が奮闘する作品があってもよいだろう。
……が、多くの「オタクの中年男性」は、「オタクの中年男性」が主役を務める作品を見たいとは思っていない。
いや、たまにはそんな作品があってもよいかもしれないが……やはり積極的に見たいという人は少ないと思われる。
なぜか?
理由はいくつか考えられるが……最も重要なのは「視聴者は、現実の自分に似すぎているキャラを見たいとは思わないから」だろう。
【結論】かおすは、私たちによく似ている。しかし、似すぎてはいない
ここまでの議論をまとめよう。
まったく厄介な話である。
多くの視聴者は、自身と似通ったところを持つキャラに感情移入する。その一方で、似すぎていてはダメだと言う。
要するに……かおすは私たちと「似ているところ」と、「似ていないところ」をバランスよく持ち合わせたキャラであり、だからスッと感情移入できる。
かおすというキャラがすごいのは、そのバランスのよさだと思われる。
【仮説】「WATCH MOE ANIME」の法則
最後に、以上の議論を踏まえ、クリエイターの方に向けて1つの仮説をお伝えしたい。
あなたが「こみっくがーるず」のような「萌え作品」、まぁ端的に言ってかわいい女の子が登場して、視聴者・読者を萌えさせる作品を創作するとしよう。
そんな時に使える(はずの)テクニックだ。
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あけすけもない言い方で恐縮だが……萌え作品の視聴者・読者の大半は「かわいい女の子」ではない。
したがって、「かわいい女の子キャラ」は、必然的に視聴者・読者から遠いところにいる。
感情移入なんてできたものではない。
つまり「かわいい女の子キャラ」を登場させる時には、「この絶対に生じる『距離』をいかに埋めるか」を、何よりもまず考えねばならない。
視聴者が、その「かわいい女の子キャラ」に感情移入できるような「何か」を用意するのだ。
……「何か」?
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ところで……ウルトラ実践的な脚本術の本「SAVE THE CATの法則」をご存知だろうか。
著者のブレイク・スナイダーは言う。「映画という名の旅を一緒に続ける主人公に共感できるかどうか。これが観客をストーリーに引き込むための最も重要な要素」。
つまり、映画において最も重要なのは「観客が共感してくれる主人公」というわけだ。
では……一体全体、どうすれば「観客が共感してくれる主人公」を描き得るのか?
スナイダー曰く、「主人公は、観客が出会ってすぐに好きになり、応援したくなるようなことをしなければいけない」。
……例えば、同書のタイトルにもなっている「SAVE THE CAT」、すなわち主人公が哀れな猫を救ってやるシーンを盛り込むとか。
そのワンシーンで、観客は一気に主人公に好意を抱くようになるというわけだ。
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あなたが萌え作品を作る時にも同じことが言えると思うのだ。
上述の通り、「かわいい女の子キャラ」は視聴者・読者から遠いところにいて、感情移入するのは難しい。
だから、その「距離」をグッと縮める「何か」が求められる。
例えば……そう!物語の冒頭に、萌えアニメを視聴するシーンを盛り込むなんてどうだろう!
そのワンシーンで、一気に視聴者・読者は「かわいい女の子キャラ」に親しみを持ってくれるだろう!
スナイダーの「SAVE THE CATの法則」になぞらえて言えば、「WATCH MOE ANIMEの法則」だ。
主人公を「かわいい女の子」にして、かつ視聴者・読者に感情移入してもらいたい場合には、この「WATCH MOE ANIMEの法則」が有効だと思う。
ぜひお試しください★
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)