冬アニメ「ダンジョン飯」の研究 ~センシは大体宮崎駿監督である
🥳本記事では、ポプカルMAXによるオンライン座談会「アニメ語り」(24年2月11日実施)の内容を一部抜粋してお伝えします。なお、完全版は動画でご覧いただけます→ こちら
<座談会の参加者紹介>
👉清水大地 マスター・オブ・アニメ。年120作以上のアニメを見続けて20余年。「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」で好きなのはアイシャ・ベルカ。
👉村上空気 「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」で好きなのは、もちろんリリ(リリルカ・アーデ)。 →X(旧Twitter)でフォローしてね!!
🍙今日のテーマは「ダンジョン飯」!!
村上:今日は「ダンジョン飯」を深堀りしましょう。
村上:現時点で第6話まで放送されているわけだけれど、清水さん、どうですか?
清水:いやぁ、面白いよね。
村上:わかる!安定して面白い。
🍙「ファンタジー作品あるある」の再解釈という魅力
村上:まずは、「本作は一体何が面白いのか」という点から確認していきたいんだけれど。
清水:うん。
村上:本作の最大の魅力は、ファンタジー作品でよく見かける設定や展開を独自視点から再解釈しているところだと思う。
清水:ほぉ。
村上:例えば、主人公ライオスが持つ剣。
清水:うん。
村上:「意志を持つ剣」「持ち主と共闘する剣」というのは、ファンタジー作品では往々にして見かける設定だよね。
清水:そうね。
村上:今期の「姫様“拷問”の時間です」に登場するエクスもまさにこれに該当する。
清水:うんうん。
村上:では、なぜ剣に意志があるのか。どういう理屈なのか。――本作では「剣の柄の部分に軟体型の魔物が潜んでいる」「剣それ自体ではなくて、その魔物がライオスに危険を伝えるなどしているのだ」と描かれている。
清水:なるほど。
村上:他にもそうだよね。例えばバジリスクや動く鎧。これもファンタジー作品でよく見かける存在だ。そして本作ではそこに独自解釈を付け足している。これが面白いなぁと思うんだよ。
清水:普通なら「それは魔法のおかげです」「魔物ってそういうものなんです」の一言で終わらせてしまうところを、きちんと描いているわけか。
村上:そうそう!しかも、その理屈に説得力がある。
清水:うん。
村上:俺が特に好きなのは聖水の使い方(笑)。
清水:あー、第5話だね。
村上:聖水っていえば、普通は霊に向かってぶっかけるものだけれど、本作では聖水を瓶に詰め、その瓶をぶんぶん振り回すんだよね(笑)。
清水:(笑)。
村上:曰く、「霊は壁だろうが何だろうがすり抜ける性質を持っている → つまり瓶だってすり抜けるはずだ → したがって、瓶入りの聖水をヌンチャクのように振り回してそれを霊にぶつければ除霊できるだろう」というわけだけれど――この理屈(笑)。いいよねぇ。
清水:言われてみれば確かにそうなんだよね(笑)。
村上:そうそう、納得感がある。
清水:うん。
村上:あとは、ゴーレムを畑として使うとかね(笑)。
清水:うん(笑)。
村上:確かにゴーレムは土人形だもんね。畑にしてもおかしくはない――いや、おかしいけど(笑)。
🍙「食」に収斂するからまとまりがいい
清水:さらにさ、「魔物の生態を明らかにする」で終わらずに、「明らかになった生態を踏まえて魔物を倒す」とか「その生態を活かして食う」とか物語が発展していくのもいいよね。
村上:確かに!ただただ「ファンタジー作品あるある」を再解釈して終わりではなくて、それが本作のテーマたる「食」に収斂するのが上手いんだよなぁ。物語としてのまとまりがあって見ていて楽しい。
🍙異世界転生・転移ものの大ブームを経たいまだからこそ楽しめるのかも
村上:とまぁここまで話してきた通り、本作の核心的な魅力は「『ファンタジー作品あるある』を独自の視点から再解釈している」という点だと思うんだけれど。
清水:うん。
村上:これ、既存のファンタジー作品を知っていることが大前提になっているよね。
清水:確かに。
村上:そう考えると、本作は公開時期がドンピシャだったとも言えそうだよね。だってさ、ここ5-10年くらいかな、マンガ界やアニメ界では異世界転生・転移ものが大ブームだった。そのおかげで多くの鑑賞者はファンタジーのお約束に慣れていた。ゆえに本作を面白いと感じられるのかなと思う。
清水:そうだなぁ。ファンタジー作品をまったく知らない人には、本作の魅力はいまいち伝わらないかもしれないな。
村上:そうそう。せめて「ロード・オブ・ザ・リング」などの映画に触れていないときついよねぇ。
清水:そうね。
村上:そういう意味で、異世界転生・転移ものの大ブームを経たいまだから多くの人が楽しめているってのはありそうかな。
🍙ダンジョンとは何なのか?――センシは大体宮崎駿監督である
村上:「『ファンタジー作品あるある』を独自の視点から再解釈している」といえば、忘れてはいけないのがダンジョンの存在だ。
清水:ふむ。
村上:多くのファンタジー作品では「ダンジョン=主人公が修業する場、レベルアップする場」であり、「アイテムを得る場」であり、「魔物などがうろつく危険な場」であり、要するに「征服すべき場所」として描かれている。
清水:うんうん。
村上:それに対してライオスは「ダンジョン=食料調達の場」という新しい解釈を持ち込んだ(笑)。
清水:そうね(笑)。
村上:さらにセンシはすごい。彼にとっては「ダンジョン=地上とは別の生態系が存在する場、独自の調和が存在する場」であり、「ダンジョンで生きていく以上は自分もその調和の中に入らなければ」と考えているっぽい。
清水:なるほど。
村上:これ、かなり重要なテーマだと思うんだ。現実世界でいえば、自然とは何かという話だよね。「自然=人間が征服すべき場所、開拓すべき場所」なのか、それとも「調和して生きていくべき場所」なのか。
清水:うん。
村上:つまりだ。もうおわかりですね?本作はダンジョン版「もののけ姫」なのです(笑)。
清水:えー(笑)。
村上:っていうか宮崎駿監督だね。センシは宮崎駿監督だ(笑)。
清水:(笑)。
村上:対照的なのが第4話に登場した連中。酒場にいたゴロツキとかオークとかね。
清水:うん。
村上:ゴロツキたちは酒を飲み、女をはべらせ、賭けごとをして、さらには「金がなければ何も売らねーよ」なんて言ったりする。一方、オークは被差別種らしく、いまも人間たちへの怒りや恨みを抱いて生きている。
清水:そうね。
村上:つまり彼らは地上を追われてダンジョンにやってきたものの、しかしダンジョン内でも地上と同じ生活を送っているわけだ。
清水:うん。
村上:センシとは違って「ダンジョンには独自の生態系が存在する」「ダンジョンで生きていく以上は自分もその調和の中に入らなければ」なんてことは考えていない。
清水:なるほど。
村上:こう考えると、センシの特異さがよくわかるよね。彼は言わば魔物と共存していこうとしている。つまり――そう、「ナウシカ」だ(笑)。
清水:あっ、話が戻ってきた(笑)。
🍙「ダンまち」との関係
清水:ダンジョンをどう捉えるかという話をしていて、ふと「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」を思い出したよ。
村上:なるほど。
清水:ほら、アニメ第1期では、文字通りダンジョンでヒロインと出会ったり、その後もダンジョンに潜ったりしていたけれど、第2期からはダンジョンがほとんど登場しなくなったなぁなんて。
村上:あっ、そうだっけ?
清水:そうそう。
村上:あー、そうか。第2期はウォーゲームをやっていたのか。いろいろ思い出してきたぞ。第1期はダンジョンのボスを倒すのがクライマックスだったよね。
清水:それそれ。
村上:そうか、「ダンまち」かぁ……。「ダンジョン飯」では「ダンジョン=食欲を満たす場」だけれど、われわれはすでに「ダンジョン=出会いの場、性欲を満たす場」という作品を通過していたのか……。
清水:その言い方は違うだろ(笑)。
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