【アイデアラッシュ】妹は万能!神にも魔王にも、廃ゲーマーにもなる★|「妹」の研究(3)
妹である!
誰が何と言っても妹である!!
本記事は、1975~2018年の44年間に刊行されたラノベの内、「妹」が付くタイトルをピックアップ★徹底分析する特集「『妹』の研究」の……第3回である!
※注:「『妹』が付くタイトル」とは、例えば以下のような作品を指します。
<特集全体の目次>
第1回:「妹」タイトルが2010年に爆発的に増加したのはなぜか?
第3回(本記事):妹は万能!神にも魔王にも、廃ゲーマーにもなる★
第5回:優れたタイトルをタイプ分け → タイトルを付ける際に役立つ図を作る(前編)
第6回:優れたタイトルをタイプ分け → タイトルを付ける際に役立つ図を作る(後編)
第1回からご覧になることをオススメします★
それでは、早速分析を続けよう!
【分析⑦】「妹」が付くタイトルに見られる「属性」の傾向……そして新アイデアの検討★
三葉「ということで」
清水「はい」
三葉「既存のラノベタイトルには見られない新しい属性を探してまいりましょう!」
清水「承知しました」
案1
三葉「最初のアイデアは……これ!」
三葉「『妹刑事』!」
清水「ほぉ」
三葉「『刑事』と書いて『デカ』と読む!」
清水「『いもうと・デカ』ですか」
三葉「語呂がよいでしょ!」
清水「これはどのようなストーリーを想定されています?」
三葉「そうですねぇ……うん。兄が刑事ということにしましょう。そして、お兄ちゃんを愛してやまない妹が無断で捜査を手伝う。兄は迷惑そうだが……冴えわたる妹の名推理!かくして難事件は解決し、妹は『ヘヘッ……これが愛の力だよ♥』なんてウインクする」
清水「ふーむ」
三葉「んー……いま話していて気づきましたが、これ、お転婆でじゃじゃ馬な妹キャラが活躍するという点で、赤川次郎さんの『三毛猫ホームズ』シリーズや、『幽霊』シリーズに似た作品になりそうだな……」
案2
三葉「続いてのアイデアは……こちら!」
三葉「『仁義なき妹たち』!どうです?超クールでしょ!」
清水「……これは、アレですよね?あなたの大好きな映画『仁義なき戦い』シリーズにインスパイアされた『妹もの』と考えればよいですかね?」
三葉「おっしゃる通りです」
清水「なるほど……で、どのようなストーリーになるのでしょう?」
三葉「あー、少々お時間をいただいても?『仁義なき戦い』について簡単にご説明させてください」
清水「……手短にお願いしますね。みんな飽きちゃいますから……」
三葉「そもそも『仁義』シリーズの魅力とは何か!」
清水「……」
三葉「一言でいえばそれは……強烈なリアリティである!『仁義』以前、ヤクザ映画に登場するヤクザやチンピラはやたら美化され、理想化され、要するにヒーローとして描かれていました。寡黙で、渋くて、やたらめったら腕っぷしが強くて、しかし堅気(=一般市民)に手を出すことはなく、また、親分や仲間のためには命を惜しまず馳せ参じ、敵からも一目置かれるような存在……それが銀幕に登場するヤクザやチンピラでした」
清水「ふむ」
三葉「本質的に悪であるはずのヤクザがヒーローというのもおかしな話ですが……まぁ、これが様式美だったわけです。一種の『テンプレ』、『お約束』と言ってよいでしょう。『ドラえもん』でいえば、ひみつ道具を私利私欲のために使ったのび太が痛い目に遭う……何度も繰り返されるパターンですが、私たち視聴者は『<ドラえもん>ってそういう作品だよね』と認識しており、特に違和感を覚えることはない。これと同じです」
清水「なるほど」
三葉「……が!しかし!『仁義』シリーズは違う!全然違う!まったく違う!登場人物は誰も彼もが人間臭い!例えば親分。金子信雄さん演じる山守義雄という親分がいるんですがね、これがもう本当に最高!お金のことばかり考えているケチな野郎で、子分のことなんてちっとも気遣わない。さらに、疑い深くて臆病者……この小者っぷりは必見です!」
清水「ほぉ」
三葉「そして、その他のキャラも……
・カッコつけていたヤツがいざ敵から襲撃を受けると腰を抜かし、コメツキバッタの如くヘコヘコ命乞いをする。
・仲間の仇を取ろうと敵陣に突撃するが、それは早とちり!結局無関係の人を殺すだけ。
・決戦に備えて各地から同志が結集!……するのはよいが、彼らの生活費を捻出する内に組の財政事情が悪化し、破産寸前に追い込まれる!数少ない良心的な男で、なんとかお金をやりくりしようとして頭を抱える武田明というキャラがおり、これを演じるのは小林旭さん。小林さんのシリアスな演技に対して、まぁ周りが揃いも揃ってアホばかり。放蕩を重ねる。……大いに笑えるシークエンスです」
清水「ふむ」
三葉「とまぁ、妙に間抜けでズルくて、でもどこかカッコよい姿にリアリティがあるんですよね。『ダサカッコよさ』というか、『ダサいからこそのカッコよさ』というか……この人間臭さを『妹もの』に持ち込む!こうして爆誕するのが……『仁義なき妹たち』なのです!」
清水「(長い……)」
三葉「さて、それでは『仁義なき妹たち』のストーリーですが、まず……」
清水「ええ」
三葉「12人の妹が登場する!」
清水「(今度は『シスプリ』かよ……節操ないな……)」
三葉「彼女たちは一様に兄に好意を持っているものの、まぁ常識を兼ね備えており、家族仲よく暮らしていた」
清水「なるほど」
三葉「ところがある日、父が再婚し、13人目の妹が加わる!この13人目が曲者でしてね。妙に肌の露出が多い。ボディタッチが目に余る。隙あらば兄と2人きりになろうとする。……そう!彼女が抱いているのは家族愛ではない!異性として兄を篭絡しようとしているのだ!」
清水「ふむふむ」
三葉「かくして穏やかな日々は一転!妹たちの仁義なき戦いの幕が切って落とされたのである!具体的には……
・幾人かの妹は、13人目と徹底抗戦する構え。すなわち、兄を陥落すべく奮起する!彼女たちは他の妹に対して、軍門に下るよう説得する。
・どこの馬の骨とも知れぬ新参者に取られるよりはマシだと考え、素直に従う妹もいる。
・長年引きこもっている妹は、将来に渡って自分の生活を保障してくれる者を支持すると宣す。
・武闘派の妹は、遺産相続の際に色を付けることを条件に、ボディガードを引き受ける」
清水「なるほど」
三葉「また……
・ある妹は、いずれの勢力下に入ることも拒否する。曰く、近親愛は不健全である!かくして彼女は、兄の幼馴染を恋人候補として担ぎ出す。
・家族である。何が悲しくて争わねばならぬのか……と悲嘆し、静かに家を出る妹もいる。
……とね、そんな妹たちの謀略や裏切り、報復にまみれた抗争を描くのです!一見『ハーレムもの』!しかしじつは『仁義なき戦い』!それが『仁義なき妹たち』である!」
清水「……面白いんですかね、それ?」
三葉「んー……とりあえず目新しさという点では図抜けているかと思いますが……」
案3
清水「続いて私のアイデアは……こちら!」
三葉「ほぉ……『CEO妹』ですか。最高経営責任者(Chief Executive Officer)、まぁ、社長みたいなものですよね」
清水「その通りです。そういえば『妹』が付くタイトルには、『社長』や『CEO』といった言葉が見当たらないなと思いまして」
三葉「確かに!」
清水「したがって、妹をCEOにすることで新規性の高い作品が生まれるかもしれないと考えた次第です」
三葉「なるほど。これはどのようなストーリーになるのでしょうか?」
清水「……そうですねぇ……」
三葉「あー、そうだ!こんなのはいかがでしょう?」
清水「伺いましょう」
三葉「女子高生にして、ベンチャー企業のCEOとして辣腕を振るう妹!彼女は忙しい毎日を送っている。ある日、そんな彼女に母が声をかける」
清水「ほぉ」
---
母「あんた、最近調子はどうなの?あのナントカってのは無事終わったんでしょ?」
妹「ん?ああ、シリーズAね。そう、先週完了したよ。ようやく資金が集まったところで、ここからが攻めってわけよ!」
母「ふーん。難しいことはわからないけど……」
妹「で?話って何?」
母「あのね、お兄ちゃんのことなんだけど……」
妹「……」
母「そんな顔しないの!たった2人の兄妹でしょ!」
妹「……お母さんには悪いけど……私の前でクソムシの話はしない約束でしょ」
母「もう!」
妹「……で?」
母「お兄ちゃんをね、あんたの会社で雇ってあげられないかと思って」
妹「……冗談でしょ?」
母「どんな仕事だってよいのよ。ほら、営業の人が足りないって言ってたでしょ。だから……」
妹「……5年も引きこもっているヤツが営業って、どんなブラックジョークよ」
母「じゃあ、ほら!経理なんてどうかしら?向いていると思うの。お小遣い帳を事細かにつけていたし」
妹「……小学生の頃の話をされても……」
母「ん……そうよねぇ……」
妹「お母さん、悪いんだけど、私、わりと忙しいっていうか……」
母「昔から優しい子なんだけどねぇ……」
妹「……そんな顔しないでよ、お母さん……」
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三葉「なんてやりとりがありまして……」
清水「何、この胸を締め付けられる感じ!きっついラノベだなぁ!」
三葉「かくして妹は不本意ながらも、ニートで引きこもりの兄を雇うことになる。本作はそんな兄妹の交流や、やがて芽生える愛、2人を温かく見守る母、そして妹の人間的成長を描いた物語である!」
清水「……ん?『妹の人間的成長』?兄ではなくて?」
三葉「あー、兄はもう手遅れですから。妹が兄の分まで成長して守ってやるしかありません」
清水「クソすぎる……」
案4
清水「それでは次にまいりましょう。……こちら!」
清水「『みんな大好き♥妹先生!』です」
三葉「ほぉ……今度は教師ですか」
清水「そう!」
三葉「『妹もの』においては、兄と妹の交流を描くのが常道。ところで妹が教師となると……」
清水「兄は生徒でしょうね」
三葉「ふむ」
清水「つまりこういうことです。妹は猛烈な天才で、14歳にしてアメリカの大学を卒業!」
三葉「なるほど!フィクションの世界ではお馴染みの天才設定!!」
清水「そんな彼女がどうしたことか不意に来日し、ごくごく平凡な高校の教師になる。……そう!兄のいる高校に赴任してきたのだ!」
三葉「おー!なんかよくわからないけれど、その無茶なご都合主義的展開は、よくも悪くもラノベっぽい!」
清水「あるいは、順序を逆にしてもよいでしょう。つまり……物語冒頭、主人公のクラスに新任の教師がやってくる。14歳にしてアメリカの大学を卒業したという才女である!沸き立つ生徒たち。そんな中、兄だけは興味薄……」
三葉「なぜかクールなところがラノベの主人公っぽい!」
清水「彼が帰宅すると、父が『大切な話がある』と言う。……そう!父が再婚!件のパーフェクト・ティーチャーは義母の連れ子だったのだ!」
三葉「ふーむ!」
清水「ここに開幕!『家でも一緒♥学校でも一緒♥夜寝るときだって……妹先生とのドタバタラブラブライフ!』……ってな具合です」
中間整理
三葉「さて」
清水「ええ」
三葉「ここまで、警察、ヤクザ、CEO、教師を取り上げてきました。これらは、『妹』が付くタイトルには登場しないものです。つまりタイトルを見る限りでは、ラノベの世界にはこうした職業に就く妹は存在してこなかったのです」
清水「なるほど」
三葉「いずれも、フィクションの世界では往々にして見かける職業です。ところがラノベには存在しない!特に『妹警察』なんて実在してもちっとも違和感はないように思いますが……」
清水「ふーむ……おそらくこれは年齢の問題でしょうね」
三葉「『年齢』ですか?」
清水「一般的に、『妹もの』における妹キャラは中高生がメインです。15歳前後の少女がヒロインである以上、『職業もの』には仕立てづらいのでしょう」
三葉「ふーむ」
清水「つまり、特定の職業が存在しないのではなくて、いわゆる『職業もの』と呼ばれるジャンル自体が『妹もの』とは馴染まないのだと思います」
三葉「なるほど!」
清水「これに対して、前掲の一覧表を見ると、『神』『勇者』『魔王』などファンタジー色の強いものか、『廃ゲーマー』『ミリオタ』といった趣味嗜的な肩書きばかりが並んでいます。共通点は、ティーンの少女の属性として成立し得るということです」
三葉「『妹もの × 職業もの』はあまり開拓されていない領域であり、これから『妹もの』を執筆しようという方には狙い目だと思うのです。ただし、それではどんな職業ならば違和感なく物語を進め得るか考えてみると……なかなか難しいものですね」
清水「こう考えてくると、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』や『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』はじつに巧いですよね。これらの作品は『妹もの × 職業もの』ですが、登場するのはラノベ作家やイラストレーター。ティーンが就いていても違和感のない職業です」
案5
三葉「つまり、『15歳前後の少女が就いても違和感のない職業』があればよいわけですよね。何かよいアイデアはないか……」
清水「んー……『職業』とは少し違うかもしれませんが」
三葉「ええ」
清水「これはいかがでしょう?」
清水「ズバリ……『路上生活者妹!』」
三葉「ははぁ……」
清水「ティーンでもぎりぎり真実味のある肩書きかな、と」
三葉「なるほど。しかしアレですね」
清水「何です?」
三葉「妹は路上で生活している。それでは兄はどこにいるんでしょう?」
清水「兄は……うーむ……」
三葉「まぁ、兄の居場所は置いておくとして……どのようなストーリーが考えられるでしょう?」
清水「そうですねぇ……『妹が様々な人と交流し、時には助けられ、時には辛い目に遭いながら、人間的に成長していく話』でしょうか?……ん?これ、どこかで見たことがある気がする……」
三葉「んー」
清水「ああ、『ヒナまつり』だ!」
清水「アンズというキャラのエピソードにあまりに似過ぎているかも……まぁ、味付け次第で全然別ものになるかもしれませんが」
案6
三葉「私も1つ思いつきました」
清水「ほぉ。伺いましょう」
三葉「『妹もの × 職業もの』を描く際、もっともやりやすいのは……実家に家業があってそれを手伝ったり、跡を継いだりする展開ですよ!」
清水「あー、なるほど!それだ!」
三葉「でしょ!」
清水「ふむ」
三葉「具体的な内容としては……」
清水「まぁ、八百屋、床屋、写真屋、農家などなどいくらでもあり得ますが、最も無難なのは……喫茶店ですかね」
清水「すなわち、『妹カフェ ~今日もお待ちしてます♥』」
三葉「うん、喫茶店はよいですね!」
清水「読者に身近だし」
三葉「ええ!」
清水「メイド服っぽい制服を着た妹が登場し得るし」
三葉「ラノベは、イラストによって大きく売り上げが変動するといいます。ヒロインたる妹がかわいい格好をし得るというのは大切なポイントですね」
清水「また、様々なお客を登場させることで、いくらでもストーリーを膨らませることができるのも魅力です」
三葉「確かに!」
清水「ふむ」
三葉「ストーリーはこんな具合でしょうか。すなわち……兄と妹は不仲である。というか、妹が兄を嫌っているように見える」
清水「よいですねぇ……少なからぬ『妹もの』の冒頭において、妹は兄を嫌っている(ように見える)ものです。様式美ですね」
三葉「彼らの母は早世している」
清水「ほぉ」
三葉「一方、父は喫茶店を経営している。大繁盛というほどではないが、妥協を許さぬこだわりの強さや、確かな技術は好評を得ている」
清水「ふむふむ」
三葉「ところがある日……父が倒れる!」
清水「むっ!」
三葉「一命を取り留めたものの、入院は長期に渡りそうだ。そして、退院後に仕事に戻れるとも限らない。……喫茶店の危機である!父は言う。『無理をするな。幸い蓄えはある。店は閉めればよい』……しかし本当にそれでよいのか?父がいまは亡き母と始め、多くのお客に愛されたこの喫茶店……潰してしまってよいのか?兄は悩む」
清水「なるほど」
三葉「そして兄は決意する。オレが店を守る!」
清水「ほぉ」
三葉「当初は冷めた目をしていた妹だが……兄の孤軍奮闘っぷりに心を動かされる!『このぶきっちょ!もう見てらんない!』……かくして兄妹は、時にぶつかり合いながらも喫茶店を切り盛りする。果たして、舌の肥えたお客が、そして頑固な父が納得する一杯を提供することはできるのか!?……とまぁ、こんな具合です」
清水「ふーむ、なるほど。いま聞いていて強く感じましたが……実家に家業があるという設定はやはり使える!比較的未開拓な『妹もの × 職業もの』を作りやすい!今後『妹もの』を執筆しようという方には、ぜひご一考いただきたいですね」
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(分析:清水、三葉 / 文、イラスト:三葉)