似て非なる言葉・表現を「Aだがaではない」というふうに並べる ~映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」の場合
◆概要
【似て非なる言葉・表現を「Aだがaではない」というふうに並べる】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」
▶1
本作の主人公はカール(40代後半頃の男性)。
彼は、確かな腕を持つベテラン料理人である。
ところがいろいろあって、
・Step1:ネットで大炎上。
・Step2:かくして彼は、一流レストランの料理長という仕事を失った。さらに名声も急降下。「ぜひうちに来てくれよ」と以前から声をかけてくれていたレストランに再就職の打診をするも、断られてしまう。
・Step3:いまやカールは世間の笑い者になっていた。
そんなある日、
・Step4:知り合いのマーヴィン(同世代の男性)と会った時のことだ。
・Step5:マーヴィンはカールを励ましてくれた。曰く「きみはウンコ野郎なんかじゃないぞ!自分を卑下するな」。
・Step6:さらにマーヴィンは言った「きみは負け犬ではない。ただ負けただけだ。いいな?(You're not a loser but you have lost, okay?)」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「きみは負け犬ではない。ただ負けただけだ。いいな?(You're not a loser but you have lost, okay?)」というマーヴィンのセリフである。
この場合の【負け犬(loser)】は「敗北して尻尾を巻いて逃げる惨めなやつ」という意味だろうから、要するにマーヴィンは「きみは確かに負けた。だが、尻尾を巻いて逃げたりはしなかった。きみは惨めなやつじゃないんだ。それを忘れるなよ」と言っているわけだ。
しかし――ストレートにそう言ってしまっては何も面白くない。
そこで【似て非なる言葉・表現を「Aだがaではない」というふうに並べる】という技法の出番だ。
改めてマーヴィンのセリフをご覧いただきたい。
「きみは負け犬ではない。ただ負けただけだ。いいな?(You're not a loser but you have lost, okay?)」。
字面がよく似ており、意味合いも近しいところがある【負け犬(loser)】と【負けた(lost)】という2つの言葉を並べたことで、格好いい決めゼリフになったといえるだろう。