自由の値段
大学時代の下宿で、カラーボックスを二段に重ねて並べ、壁一面を本棚にしていた。中身はどこでも売っている文庫本と、古本屋で500円ぐらいの単行本ばかりだったけれど、眺めていたらそれなりの満足感があった。
卒業前に、その本を全部ダンボールに詰めたら7箱になった。
パスタ屋に就職して、仕事の都合で何度か引っ越しをしたが、どうせすぐにまた異動があるのだからと思って本はずっと梱包したままにしておいた。そうして結局辞めるまでの数年間、ずっとそのまま開梱せずにいた。
この本は読むためではなく、自由な日々の象徴として、心身ともに社畜にならないために必要だったのだろうと今は思う。
随分大事に取っておいたけれど、仕事を辞めて川崎から引き上げる時、引越し費用を浮かせるのに近くのブックオフへほとんど全部売ってしまった。
この時点では10箱に増えていたが、相変わらずどこでも売っている文庫本がほとんどだったから、全部合わせてせいぜい2,000円ぐらいだろうと思っていたら4,000円になった。
「おい、4,000円になったよ」と、荷造りを手伝ってくれた佐川に言った。
「何か、価値のある本が混ざってたんですかね」
「『デビルマン』の豪華本があったからかな」
「まじですか。言ってくださいよ、欲しかったな、それ」
「欲しかったか、デビルマン」
「欲しかったですよ」
「デビルマンな……」
「……店長、デビルマンって言いたいだけでしょう?」
「デビルマン」
その後でジョナサンへ行って佐川に晩ごはんを奢ったら、4,000円はほとんどなくなった。
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