それは小さな嘘だった
小さな小さな嘘。
すぐ忘れ去られてしまうほどの小さな嘘。
相手にとっては少しずつ少しずつ大きくなる。
あるフラットに宿泊した。
とても親切そうなインド人ご夫婦だった。1日目に交わしたちょっとした会話。
「洗濯機は使えますか?」
「洗濯機は壊れていて使えないの」
あらそれは困った。でも家決める前にこちらから聞かなかったわけだし、ランドリーに持って行けばいいだけの話だった。
数日後のこと。
急に何日も仕事が休みになってしまった私たちは1日家の中にいるわけで。聞こえてきてしまった、洗濯機の音。
「あれ、洗濯機壊れてるんじゃなかったっけ」と数日前の会話を思い出す。
顔を合わせればいろんな話をした。お互いの国の話やこれまでのこと今の生活のこと、心の話。チャイもいただいちゃったり。私は彼女と会話する時間が好きだった。そんな中、ふと浮かんできてしまうのだ。「洗濯機は壊れていて使えないよ」という言葉。
彼女はその後も何事もなかったかのように洗濯機を使う。もし、私たちが毎日朝から夜まで仕事で出掛けていたら気付かなかったのかもしれない。
彼女にとってはほんの「小さな嘘」に違いなかった。でも私にとっては尾を引くようにずるずると心を惑わすものとなった。
彼女は別れ際、
「あなたたちと過ごせた時間はとても楽しかった。1番楽しい滞在者だった。」という内容の言葉とハグで見送ってくれた。
私の気持ちは雲の隙間から太陽が見え隠れするように、明るくなったり暗くなったりした。
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