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フロッピーの中の謎
とっくにブッ壊れてはいるのだが……つい目の届くところに、ワープロが埃を被っている。
それでも、初めてワープロに触れた時のワクワク感は今でも覚えている。もとより、それまでは手書きで文章を綴っていたのだが、元来の悪筆という事情もあって、キーボード入力に移行するのに何ら蟠りはなかった。
当時の漏れ聞いた話として……手書きに固執して、ワープロなんぞではまともな文章は書けないと断言するご仁もいたようであるが、僕は全く異に留めなかった。
そうは言っても、一般に推奨されていた「ローマ字入力」は、確かに使用キーが少ないという利便性はあったにして、頭に閃いた日本語の言葉を一端ローマ字に変換するという作業になじめず、おのずと「カナ入力」に落ち着き、今に至っている。
それでも、ワープロの欠点として、とにかく印刷に時間がかかるということであった。
結果、案外早めにパソコンを導入したのだが……やはり、プリンタによる印刷の早さには感動したものだ。
いずれにしても、ワープロ時代に溜まったフロッピーもケースに埃が被っている。
パソコンではフロッピーのデータは開けないので、ずっと放置していたのだが、つい先だって、……好奇心のまにまフロッピーを取り出してみると……「石の夢」とか「ランプ嬢」とか言うラベルが貼ってある。小説なのだうか? 他にも、なんのラベルも貼付されてい奴も多く……合わせて百枚以上のフロッピーが二つのケースに納まっているのだ。
はて? 当のフロッピーに何を登録したのか?
当然、小説が中心なのだろうが……他にも、思い付くままの雑文や、夢日記も混じっているはず。
ところが、いくら思い出そうとしても、何一つ頭に浮かばない。
当然、頭のハードディスクのどこかには登録されているとは思うのだが……よほど奥の奥に押し込んでしまったのだろう。
多少思い当たるフシがある。そう。ワープロの利便性を過剰評価してしまい……フロッピーに登録したのだから、これは永遠に残る……そんな安心感から、肝心の頭脳への登録が疎かになったのかも知れない。
翻って、パソコンに移行した直後……スリープという機能もよく判らず、始終システム終了を繰り返した祟りか……ハードディスクがクラッシュしてしまったのだ。
当時はまだtime machineなど導入していなかったが、幸い、貴重なデータは別のディスクに移してして事無きを得たが……機械の脆さが身にしみたものである。
手書きをあっさり放擲した身ではあるが……思えば小説なんぞ書く以前の……詩のような駄文を綴ったノートは、今でも押入れに眠っている。押入れというハードディスクは、絶対にクラッシュすることはないだろう。いずれ、シミだらけのノートのページに……改めて恋の辛さを噛みしめるのも一興である。
さて、問題は謎のフロッピーである。
調べてみると、これをテキスト等に変換してくれる業者もあるらしい。
かっては信じていたフロッピーだが、色々調べてみるとかなり脆く、古くなると読み込めないことも珍しくないらしい。
そんなことにでもなけば……記憶にないとは言え、頭脳の一部が切り取られるようにも思えるのだ。
かなり費用が掛かりそうだが……妥当な業者に依頼したいとも考えている。
そうは言っても……大枚はたいたデータが、単なる「戯言」であることは予想できるのだが……
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