魚嫌い?
まあ「鰻」は論外ではあるが、僕は基本……魚嫌いらしい。
ふと考えてみても、この所……全く魚を口にしていない。
特に、「刺し身」は全くである。
もちろん、一人暮らしではなく家族というものがあって、つい食卓に魚が供されるというなら、普通に食するだろうが。
確かに、家族に囲まれていた子供時代には、祖母も母も、同居していた叔父も魚好きとあって、かなり頻繁に魚は食卓に乗っていたと記憶している。
それでも、通が好む焼き魚よりは煮付を好んでいたと思う。
塩焼きが美味しいと思ったのは「鱸」くらいで、「鯛」は美味という印象は薄い。
腐っても「鯛」という言い種があるが、そんなのは嘘だと信じて疑わない。ちと鮮度の落ちるやつや、生焼けなど……変に動物的な臭みを覚えてしまう。
塩焼きや煮付以外では、……粕漬けの類い、後は、鱚や鯵のフライは案外好物であった。
ただし鯵の場合……小鯵でないと受け付けない。スーパーなどでは、かなりデカイ鯵のフライを売っているが、あの臭みが気になってしかたがない。同じく、近頃「白身魚のフライ」と称している商品は、いただけない。「クセがない」と謳っているが、どんな鈍感な舌を基準にしているのだろうか? 泥臭い、ナマズあたりを連想してしまう。
白身魚のフライでの許容範囲は、せいぜい「マダラ」だろう。これが「スケトウ」になると、真っ平ごめん。他には、得体の知れない白身もあるが……一度この冷凍の奴を買ったのだが、一口で中断……残りは全部廃棄した。
貧乏人クセに何をほざく……とお叱りを蒙りそうだが、これが僕のスタンスなのだ。
今、思い出したのだが……そう、塩鮭は好きかもしれない。辛口もいいが、脂の乗った甘口に酒と若干の醤油を垂らして食うのが好きである。
しかし、鮭といって……一番、今食いたいのは、鰻についで高価なスモークサーモンである。
今でも僕史上、伝説的に美味しいと思ったのが、このスモークサーモンを焼いた奴だ。
一般には、そのまま薄切りにしてマリネなどにするのだろうが……僕の場合、これをなんと贅沢に、塩鮭に見立てて焼くわけだ。
もちろん、子供時代の記憶である。確か「ローマイヤ」というメーカーのスモークサーモンの半身を……二人いた叔父の一人が、時に土産として持ってきたことがあった。
これを塩鮭みたいに厚切りにして焼くという発案は……はて? 案外、薫製を生と勘違いした、僕の我が儘だったのかも知れない。
当然、焼いた奴に醤油を垂らす。この美味さは、今でも舌に残っている。文字通り、飯が何杯でも食える。
自分で綴っていて、つい苦笑してしまうのだか……僕の食味感覚はあんがい、我が儘に、かつ甘やかされて育った王侯貴族の子供並なのかも知れない。
どことなく、アニメにでも出てきそうなキャラである。
一度、書いた記憶もあるのだが、貧乏貴族である僕の子供時代の逸話を記しておく。
魚屋で、ふとマグロの刺し身の柵を見かけた時のこと。子供の僕はこれを、煮付にして食いたいと母上に申し上げたのだ。母上もこれを受け、さっそく注文する。
魚屋の主人は愛想よく「では、刺し身に切りましょう」
これに対して母上が言うことに、
「いいの、お煮付けにするんだから」
魚屋の主人が、烈火のごとく怒るのも無理は無い。