徒歩通勤
先だって、いつものように通勤のために駅に出てみると……ホームにやたら人が犇めいている。
何事か……と思っていたのだが、アナウンスが言うことに、なんでも線路内に人が侵入したとか……安全を確保するまで、電車がストップしているという。
おいおい……さらに掲示板に目を走らせてみると、運行までにはあと一時間以上もかかるらしい。
これを目にした乗客たちも、ぞろぞろとホームを引き上げてゆく。中にはスマホで連絡を取っている人達もいる。
めんどくせぇから、休んじまうか……と、思い、僕もホームを出、取り合えず責任者に電話を入れ……かくかくシカジカ。
返答は……やれやれ、多少遅れても出てくれ、とのこと。
仕方がない、タクシーでも拾うかと思っても……この状況では不可能。タクシーのアプリも入れていない。
なんとするか。
そう。徒歩で向かうしかないだろう。
たぶん、あくまで多分だが……4、5キロ以上はありそうである。大したこともあるまい。この程度なら、徒歩通勤している人もいるだろう……
ま、いか。 途中で流しのタクシーでも拾おう。
取りあえず、歩き出す。まずは、分かりやすい「目黒通り」を目差す。途中何度もタクシーは見かけたが、例外なく「迎車」。手を上げると、中には「ごめんね」というサインを送ってくれるドライバーさんもいて、これだけで何かホッコリする。
しかし、考えるまでもなく……当方は物の見事な「方向音痴」なのだ。
加えて、目算よりも目黒通りまでの距離がありそうである。
目的地は「白金台」なのだが……へたをすれば、真逆の多摩川の方に行きかねない。
無視されるのも覚悟で、通りがかりの人に確認を求める。
さて、ようやく目黒通りに出る。聞けば、目黒駅までもまだかなりあるらしい。
バスでは……とも考えたが、まどろっこしい。
エイヤ! ……で歩き始める。
とにかく、何人もの通りすがりの人に道を訊ねたのだが……こっちを電柱のように無視する人、立ち止まって、熱心に道順を説明してくれる人、様々であった。
お概ね、五十歳前後のお父さんは無視が多い。もしかしたら悪質のキャッチセールスに見立てられていたのか。七十過ぎの人は案外親切。僕の感じでは三、四十台の女の人は案外親切で、とたんに美人に見えてしまったほどだ。
いずれにしても、元来の運動嫌い、ついては運動不足……早足もあって、息が切れるかと思いきや……あれ? ……あんがい快調じゃん!
やがて「大鳥神社」を過ぎ、「権之介坂」をゆるりと登り……ようやく目黒駅。
ここまで来れば、しめたもの。近くの「自然教育園」には、かって写真撮影にもよく通ったものであった。ここから「白金台」までは、目の前なのだ。
結局、一時間ほどは歩いたのだが、元来早めに出勤してるので、遅れも五分ほどでで済んだ。
運動不足の割りには、息も切れず、足も痛まない。加えて、翌日の休み……自転車で買い物に出かけたのだが……なんだか、いつもより身体が軽いのだ。
自戒した。時には、適度の運動も必要らしい……