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儘・詠叢 阿呆

ふらりふらりと、影法師
歩むはずれの寂し路
町の灯さえ遠ざかり
何を追うやら、どこへやら

踏み鳴らす音も冷たく
石畳のひび割れに
影のひとつを忍ばせて
風が笑うか、泣くかさえ
知らず知らずに背を向ける

阿呆よ、阿呆よ、ひとり唄
誰が呼ぶのか、名も知らず
薄闇さすらうまぼろしの
顔も曖昧、ただ揺れる

雨が滴り、音を打つ
肩に染み入るその冷たさ
けれど歩みは止まらない
何を背負いし、その足で

足跡消えて、迷いゆく
漂う霧に包まれて
この身さえも霞みつつ
行く先知らず、夜を征く

阿呆よ、阿呆よ、影法師
月の輪郭、薄き夜
行くも戻るも道知らず
ただ歩むことのみで生く

身を裂く風が吹き荒れど
ほつれた髪は気にもせず
鳥のように羽ばたいて
虚空に舞いゆく、夢のなか

見上げる星はかすみつつ
指に触れぬ、遠き灯
手を伸ばせど、届かずに
消えてゆく影、阿呆の夢

冷え冷えとした土の上
命のぬくみ、感じずに
振り返ることも忘れつつ
朧げなる闇の底

阿呆よ、阿呆よ、風の音
どこまでゆくやら、夜の道
言の葉さえも捨て果てて
声なき唄を響かせる

茨の道に足取られ
血の跡さえも意に介さず
ただ、ただ行方知れずに
この身を投げる、その心

痛みさえも喜びと
薄らぐ心の隙間より
染み渡る何かを求め
彷徨う影よ、独り舞え

誰かの傍ら添うことも
振り返ることさえもなく
影の薄れるその果てに
見ゆるものなき孤の道

命の色を飲み込んで
瞳に映るは闇の月
朧に浮かぶ遠き灯り
その揺らぎさえ、幻か

阿呆よ、阿呆よ、行く末は
とめどもなき風の中
命の灯を燃やすことも
誰が覚ゆるや、その姿

独り歌うも、誰も聞かず
空に溶けゆく声の跡
波紋のように消えてゆき
戻ることなき流れ行く

孤独の果てに何がある
彼方に揺れる火の影か
阿呆はただに歩むのみ
影と重なり、霧に消ゆ

人の気配も消え果てて
足跡さえも途絶えつつ
暗き森へと誘われて
彷徨いゆけど、道知らず

凍てつく手足、動かずに
寒ささえも忘れ果て
ただ闇へと埋もれ行く
阿呆の影よ、何を想う

遥か彼方で囁く声
風の向こうに紛れても
阿呆はひたに聞き入るのみ
その音の行方を追いながら

阿呆よ、阿呆よ、振り返る
道には霧と、影のみが
足跡残さぬ旅路ゆえ
行く先もまた、闇の中

浮かぶ月影に身を任せ
彷徨う影は薄れゆき
阿呆の足跡、風に舞い
消え去ることなく、地を行け

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眞名井 宿禰(眞名井渺現堂)
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