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儘・詠叢 劫流

深き森の奥に影潜みぬ
枝のざわめき、悠久の調べ
足元に散る枯葉の舞ひ
音は風と共に消ゆる

川面に映る星の輝き
揺るる波紋は全てを呑みぬ
手に触るる水、冷たく澄み
流れは止むことを知らず

暁の空に鳥翔けり
広がる翼は大地を越ゆ
風裂き進むその行方
光と闇の境描かれぬ

遠き山々白く染まりぬ
冬の訪れ静かに告げり
霜降る朝に息白く舞ひ
静寂包む野辺の景色

海鳴り轟く崖の上に立ち
遥か彼方を見つむ影
吹き付ける風、髪乱れ
叫ぶ声すら波間に消ゆる

廃れし街の石畳を行く
足音のみが響きを残す
崩れし塔の影長く
魂の刻印今は絶えぬ

花咲く春の息吹淡く
色とりどりの命揺らぎ
されど時はこれを奪ひ
散りし花びら土に還る

夏の陽射しに木陰探し
蝉の声のみ耳を満たす
乾きたる土滴る雫
命の輪廻また描かれぬ

秋風冷たく木々を揺らし
黄葉の舞ふ刹那の美
空を高みへ群れ飛ぶ鳥も
やがて遥かに消え去り行く

冬の静寂、山包みぬ
雪の絨毯が全てを覆ふ
凍えし指触るる石は
長き時の語り部となる

燃え上がる炎、空焦がし
煙渦巻きて高みに昇る
燃え尽きし跡残るは灰
その熱さえも遠き昔

夜空浮かぶ星の瞬き
広がる宇宙果て知らず
その中に立つ人の小ささ
ただ風が過ぎるのみ

石に刻まれし名薄れゆき
読み取る者の姿絶えぬ
時の流れが全てを奪ひ
無言なる大地が残る

雨に濡れし道を歩めば
足元の泥重たく絡む
遠く響く雷の轟き
自然の力ただ身に浸す

沼地揺れる光隠れぬ
その実いまだ誰も知らず
足を踏み入れし者の行く末
全て静かに飲み込まれぬ

城の廃墟に風吹き抜け
朽ちし壁に蔦絡む
かつて栄えしその姿さえ
今は夢幻の中に眠れる

砂漠の果て見ゆ蜃気楼
近づくほど遠ざかり行く
焼ける大地残る足跡
風さらひ去るその一瞬

雲間射す一筋の光
暗き世界照らす僅か
その光景目奪はれ
ただしばし立ち尽くす

古びた本の頁捲り
綴られし物語に沈む
言葉の海を泳ぎ続け
辿り着く岸未だ見えず

小川せせらぎ耳に響き
清き流れ変はることなし
その水底眠る石たち
時の流れ静かに語る

陽炎揺れる夏の昼下がり
地平の向こう何を見る
熱き風吹き抜ける中
ただ立ち尽くす影ひとつ

深き洞窟に灯る灯火
壁描かれし悠久の絵画
その隠れし事忘れ去られ
静けさが時を見守る

波打つ丘に立つ一本の樹
その根地中深く広がり
幾千嵐乗り越えし姿
黙しつつ空を仰ぎ見る

雪解け水川へ流れ
命の息吹大地に与ふ
その循環尽きることなく
季節巡りまた巡り来る

荒野響く風の囁き
砂粒舞ひ描く模様すら
瞬く間に消え去り行き
初々しき景を生み出さん

森中佇む静けさ
木漏れ日揺れるその下に
耳澄ませば小鳥の囀り
命の調べ広がりゆく

大河流れ止まることなく
山越え谷抜けて行く
その先待つ大海目指し
ただ流れ続けるその姿

煙る雨街を包み込み
行き交ふ人の影も薄れ
その中響く足音ひとつ
それもやがて消え去り行く

星降る夜冷たき大地
広がる空心寄せ
手に触るるもの温もり無く
ただ月のみ微笑み浮かぶ

最後の鐘響き絶ゆる時
静寂全て包み込まん
その瞬間立つ影ひとつ
ただ風が吹き抜ける



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眞名井 宿禰(眞名井渺現堂)
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