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靈韻抄 空蟬

風渡る聲、遠く
木立の間に響きわたり
蟬の聲、空に消ゆ
儚き音は大地に溶けぬ

夕陽は沈み、朱に染まり
空は紅き染め布のごとく
その色、日々移ろひて
我が身はただ眺むるのみ

薄翅の蟬、梢に殘り
短き命を謳ひつつ
その聲は天に響きて
いづれ消ゆるも運命ならん

石疊に散るは花の影
風の手に遊ばれて
木洩れ陽の中に揺らめき
その舞姿、空蟬の如し

水面に浮かぶ月の影
揺らぎて波紋を描きぬ
時の流れは靜けく進み
大地は變はらず息づかん

竹林に風の聲ぞ
葉擦れの音、耳を撫づ
蟬の鳴く聲、遠く響きて
夏の終はりを告げぬらん

夏の日差しも淡くなり
夕暮れの空、茜の色
この世の中、移ろひゆきて
空蟬の影、儚く消ゆ

川のせせらぎ、聲を忍ばせ
その音に耳を澄ませば
涼風、頬を撫でぬ
夏の終はりの兆しを知る

木々の影、長く伸びて
蟬の聲も遠く消ゆ
靜けき夜の帳の下
月は高く、蒼天に昇らん

その光、清やかにして
闇を照らし、路を示す
人々は何を思ひぬや
空蟬の聲、耳に響かせて

薄命のうちにも
命の光、確かにあり
その光、一瞬の煌めき
人の世に儚く現れん

草の上に佇む影
風に揺らぎ、かき消えぬ
その姿は幻に似たり
空蟬のごとく、消えゆかん

曉の光、東より昇り
新たな朝、命を告げぬ
蟬の聲、再び鳴りて
大地はまた目覺めん

空に殘りし蟬の聲
その響き、世に滿ちて
今ここに在る命の音
消ゆることなく、響き續けぬ

時は流れ、姿は變はりぬ
風の中に在りしもの
空蟬の命、儚けれども
その音は永劫に續きぬ

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眞名井 宿禰(眞名井渺現堂)
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