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靈韻抄 瑞雪

靜寂(しじま)深き山の奧
雪の衣(きぬ)が夜を纏(まと)ふ
光なき闇に舞ひ降りて
白き息吹(いぶき)が地を覆ふ

風の聲は遙かに遠く
枝葉の影も沈みぬる
雪の結晶(けっしょう)、光を抱き
命の巡りをそに宿す

森の深處(しんしょ)に靄(もや)漂ひ
雪原(せつげん)の廣がりひた靜む
其(その)凜(りん)とした佇(たたず)まひ
天地(あめつち)の律を映すごと

冷たき風が吹き拔けて
凍(し)みる大地に霜(しも)走る
雪の面影(おもかげ)に耳を寄せ
聞こゆる聲に心澄ませ

山路(やまじ)にひそと佇む幹(みき)
其(その)根元に雪積もりて
悠久(ゆうきゅう)の刻を忍び居れば
人の步みも時忘る

溪谷(けいこく)の水は緩(ゆる)みつつ
氷の薄き紋を描く
其のひそけさに心寄せ
山河(さんが)の息吹(いぶき)、肌に滲む

朝日輝き山を照らせば
雪の白光(はっこう)、天に返す
其の眩き耀(かがよ)ひを
瞳(ひとみ)に宿して步を進む

風と共に舞ひ落つ雪は
葉陰(はかげ)の枝に靜かに積む
ひとひらごとに言葉はなく
其の白妙(しろたへ)に美(うるは)し見ゆ

遠山(とおやま)の影、霧に消ゆ
其の稜線(りょうせん)を包む雪
春を待たむと忍ぶ姿
大地の鼓動(こどう)、胸に響く

吹雪の夜に木々は黙し
梢(こずゑ)の影が月を遮(さえぎ)る
其の一瞬の暗がりに
隱れた命、息を止めぬ

小徑(こみち)の隅に咲き殘る
凍えし草花、息づきて
雪の守りに耐へ忍び
春を迎へむ日を待てる

凛風(りんぷう)の聲、遠く響き
山裾(やますそ)覆ふ白き帳
其の薄明(うすあけ)の色彩(しきさい)を
人の心に深く刻む

靄立つ谷に影ひそみ
白き面影(おもかげ)、靜かに舞ふ
足跡無き雪原(せつげん)の中
天地(あめつち)の調和(ちょうわ)、語り掛く

遙か彼方に見ゆる里
屋根の白煙(しろけむり)空に揺る
人の營み、守る如く
雪は優しく降り續く

川の流れも音を絶ち
氷の薄き帳覆ふ
其の透明(すきとほ)る冷たさに
清き心を抱く如し

木洩れ日に濡るる葉末(はなえ)
白き霜花(しもばな)、光放つ
朝の息吹(いぶき)が雪に沁み
山の命を靜かに知る

靜かなる森の奧深く
雪に埋もるる古き祠(ほこら)
其の石に觸れし手の冷たさ
時を超えたる往時(おうじ)の姿語らむ

夕暮れ迫りし空仄(ほの)か
白き雲間(くもま)に陽が消ゆる
其の儚さを目に宿し
人は自然に祈り捧ぐ

雪解け始む山の川
水の音色(ねいろ)が森に戻る
其の柔らかき響きの中
命の巡り、目覺(めざ)むる息吹

ひと冬越えし山の奧
白き帳は靜かに消え
其の後に咲く若葉の影
命の連なり胸に滿つ

夜の帳(とばり)に星明かり降り
雪の面(おも)に銀色宿る
其の輝きを胸に受け
人の心は靜けさ知る

冷たき雪の覆ふ山
其の奧深き靜寂(しじま)には
見えざる力宿り居て
天地(あめつち)の響き、秘められり

風の囁き、雪を運び
森の木々に白き息吹
其の一片(ひとひら)に宿る命
人は知らずとも深く感じむ

春風近き雪解けの音
川の流れが再び巡る
其の喜びの瞬間に
森の息吹を共に見守る

山裾(やますそ)の雪、溶け流れ
清き水面(みなも)に命宿す
其の反映(うつろひ)に心を寄せ
人もまた自然を悟(さと)り行く

遠くの山に雪は殘り
春の兆しを靜かに待つ
其の白銀の廣がりに
大地の意思を讃ふもの

茂る森には鳥影戻り
梢(こずゑ)を揺らす聲高し
其の明るさを胸に抱き
人は再び日を步む

雪の名殘(なごり)、谷間に殘り
冷たき滴が命紡ぐ
其の一滴に心を添へ
靜かに巡る大地の力

遠山白く稜線に映え
其の姿に人は悟り
自然の力と調和の道
共に步まむと胸に誓ふ

雲間(くもま)に浮かぶ薄き月
雪の光を映し出す
其の蒼白(あおじろ)き輝きに
天地の調和、靜かに響く

小川の縁に佇む石
雪に覆はれ、言葉を秘む
觸れし手先に冷たさ沁み
往時(おうじ)の姿が胸に蘇る

凍(い)てつく枝に鳥は鳴かず
雪の重みに耐ふる幹
其の靜寂(しじま)の深き中に
隱れし息吹、夜を染む

谷間に響く風の音
白き帳を揺らし行く
其の囁きは遠く續き
人の心を遙かに誘ふ

雪の消えゆく春の兆し
若葉の芽吹き、綠映ゆ
其の移ろひに抱く思ひ
命の巡り、深く知る

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眞名井 宿禰(眞名井渺現堂)
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