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江戸の広告作法

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江戸の町人文化に華開いた、あの手この手の宣伝広告。 そこには「粋・洒落」などの美意識の中で洗練された広告の作法がありました。世界に類を見ない独創的なアイデアや表現を当館のコレクシ…
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記事一覧

第11回「江戸の旅ブーム」

江戸時代も旅は憧れ。旅へ誘う広重の風景版画。 しかし、そこにはさりげなく広告の匂いが! 江戸の旅ブームを作った、広重の錦絵はカラービジュアルメディア。 1枚のポスターを見て、「そうだ京都、行こう」なんて思ったことはありませんか? どんなに言葉を尽くすよりも、たった1枚の写真が人の心をつかみ、巧みに旅へと誘う。そんなカラービジュアルメディアは江戸にもありました。ご存じ、北斎や広重の極彩色の錦絵に江戸の人びとは大いに魅了され、旅への憧れに胸を膨らませたのです。 江戸末期は、弥次さ

「えどばたいじんぐ」が書籍になりました!

コラム「えどばたいじんぐ」が書籍になりました! 『江戸の広告作法~えどばたいじんぐ~』 アドミュージアム東京学芸員 坂口由之著 1,850円(税込み)10月1日発刊  *書籍はミュージアムショップのみで販売しています(一般書店では販売していません) (著者より) 粋と洒落と遊び心の江戸の広告を「えどばたいじんぐ」と洒落てみました。 今日の広告のルーツともいえる、あの手この手の広告アイデアが満載です。アドミュージアム東京の常設展示作品をさらに深く楽しく解説した本になっていま

第10回「夏の団扇キャンペーン」

夏はちょっとうれしい、団扇(うちわ)のおまけ。江戸の女性たちのおしゃれアイテム、団扇(うちわ)! 夏になると街かどや店頭でおまけとして配られる広告物に団扇があります。商店街やイベントなどでプレゼントされる団扇は、ちょっとうれしいですね。いまや、日本の夏の風物詩の一つであり、また暮らしの必需品でもありますね。 そもそも団扇は江戸初めころ、京都伏見の深草が名産地でした。最初は割竹に白紙を貼ったままの作りでした。やがて絵や彩色が施され江戸の町にも広がり、庶民の暮らしの中に定着して

第9回「度肝を抜く売り込み口上「外郎(ういろう)売」」

雄弁な長台詞は、全部「ういろう」のコマーシャル。 団十郎の流暢な宣伝口上に、江戸っ子たちは拍手喝采! 2代目団十郎が感謝の意を込めて創作 「ういろう」というのは、小田原の虎屋藤右衛門が売り出した銀色の丸薬です。咳止め、喉の痛み止め、旅の常備薬などとしてよく知られており、約650年の時を経たいまも神奈川県小田原市で製造されています。(注1) 2代目団十郎が喉を痛めていたとき、この「ういろう」を勧められて飲んだところ、すっかりよくなったため、お礼を兼ねてこの薬を舞台で広めたいと

第8回「企業タイアップのルーツ、歌舞伎『助六』」

酒に、薬に、うどんに、せんべい……。「助六(すけろく)由縁(ゆかりの)江戸(えど)桜(ざくら)」は、2代目団十郎が創作した、一大コマーシャル・エンターテインメント! 舞台は広告のオンパレード! 主人公の飲むお酒や机の上に見慣れたパッケージのお菓子がスポンサーの商品だったという、ドラマや映画の企業タイアップ(注1)は、いまや当たり前ですが、そのルーツが江戸時代にあることをご存知でしょうか?  江戸ではあらゆる商店が、歌舞伎とタイアップしたのですが、その始まりは2代目市川団十郎

第7回「いつの時代も「おまけ」は魅力!」

あなたの身の周りにはプレミアムでもらった「おまけ」の一つや二つが、きっとありますよね。どちらを買おうかと迷ったとき、ついつい「おまけ」に惹かれて、買ってしまった…… 。誰もがそんな経験を持っていることでしょう。 マグカップやぬいぐるみ、ポーチとかキャラクターグッズなど、「おまけ」で手に入れた商品が、あなたの部屋にあふれているかもしれません。 現代でも広告・販促物としての「おまけ」は効果的ですが、その手法、実は江戸時代にもあったんです。時代を超えて、人はおまけに弱いんですね(

第6回「コミック ――それはどこから生まれたのか?」

「ONE PIECE」に「名探偵コナン」、「ドラゴンボール」に「ドラえもん」……、世界が注目する漫画やアニメを生み出す「コミック」は、クールジャパンの代表格で、もはや日本が誇るメインの「文化」になっています。かく言う私も、学生時代に創刊された青年コミック雑誌を今に至るまで、なんと50年間も愛読しているんです(笑)。 ただ、そんなコミックのルーツが江戸時代にあることは、みなさまご存じですか? さらに驚くことに、現代で花咲く広告手法の一つ、各メディアの特徴を活かした、企業ブラン

第5回「江戸の流行情報を満載の双六(すごろく)!」

「東海道五十三 駅見立 江都名物当時流行双六」文政~天保年間 この絵双六は江戸で評判のショップやグルメ、流行りものを紹介する最新のニュース報道であり、子供も大人も一緒に楽しめるゲームソフトでした。東海道五十三次の道中(どうちゅう)を題材とする、この「江都名物当時流行双六(えどめいぶつとうじりゅうこうすごろく)」は、遊びと広告の両面を備えた、トレンド情報満載のツールだったのです。そもそも道中双六とは、お伊勢参りなどの旅行ブームにあやかって、宿場町やその土地の名物を紹介し、旅の

第4回「コピーライターの元祖!平賀源内」

※ヘッダー:平賀源内全集上巻/平賀源内先生顕彰会刊より 源内先生、歯磨き粉の広告コピーを書く!それは「嗽石香(そうせきこう)」という歯磨き粉発売の宣伝文です。 1769(明和6)年、平賀源内が恵比寿屋兵助の依頼によって書いた引札(ひきふだ:チラシのこと)でした。 この時代の先端を行く著名な文化人といえども、浪人の身分でした。何がしかの収入を得るために、気軽に町人たちの求めに応じて、筆を執ったのだろうと思われます。 平賀源内(1728-79)は元高松藩の武士でした。本草学は

第3回「駱駝(らくだ)が江戸にやって来た!」

1824(文政7)年8月、珍獣・駱駝(らくだ)が江戸にやって来た! この錦絵は今風に言えば、ラクダの見世物興行を伝えたニュース速報であり、またイベントの告知ポスターでした。興行主が依頼、制作した『駱駝の図』は、当代人気の歌川国安の画、口上文は戯作者(げさくしゃ)・山東京山(山東京伝の実弟)の作。「ラクダは身の丈9尺、頭は羊に似てうなじ長く、脚に3つ節があり、座るときは脚を3つに折る、ゆえに乗る時便利なり。草木類を食すが、特に大根が好みである。重い荷物を背負っても1日100里の

第2回「世界に先駆けたマーケティング」

三井越後屋の斬新な「現金掛け値無し」商法は新しい消費の形を作り出しました。開業した1673(延宝元)年の日本は、右肩上がりの経済成長を遂げ、江戸も巨大消費都市として成長しつつありました。町人層を新しい購買層として獲得することに成功したのは、時代のニーズに合致したからなのです。 社会学者ピーター・ドラッカーは著書『マネジメント』のなかで、東洋におけるマーケティングの始まりを、17世紀半ば「三井家の始祖・三井高利(たかとし)」に見出しています。ドラッカーは、①顧客のための「仕入係

第1回「チラシの元祖、ここに!」

「現金掛け値なし」の新商法を伝えた引札(ひきふだ)1683(天和3)年4月、一枚の刷物(すりもの)が江戸全市中の家々に配られました。その内容は三井越後屋(三越の前身)が店舗を駿河町に移転した際に、革新的な販売方法を、改めて多くの人に知らせるものでした。これが引札と呼ばれ、今日のチラシ広告の始まりです。のれんや看板とちがい、向こうから飛び込んでくる宣伝物に、世間はびっくりしたことでしょう。 「江戸中の家数を知る呉服店」と川柳に詠まれるほどでした。 引札には「今度、私工夫をもって