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半熟日和

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“未熟で、ままならない日々を書く”。毎日書いている400字以上のnoteをまとめています。現在は土日祝日を除く週日更新です。800本を機に「毎日note」から「半熟日和」にマガジ…
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#エッセイ

600本のnoteを書きながら、ずっと頭に浮かんでいた「何のために書いているんだっけ?」が解消された話

毎日更新しているnoteが、600本になった。つまり毎日書くようになって、600日経った。 現在は土日祝日はお休みの週日更新だけど、それでも書き続けている自分をどこか誇らしく感じている。 一方で、苦しいときもある。いや、ほとんどそうで、自分の文章に目をつむりたくなったり、顔から火が出そうになったり、時に開き直りながら、書いている。 魂が抜けたような、死んだ目をしながら、なんとかポチポチとキーボードを打ったり、スマートフォンをスワイプしながら文章を書くことがしょっちゅう。

氷が残っている

目標の電車が過ぎ去ったあとにホームに辿り着いた。青い椅子が5脚、横並びになっていた。両端の椅子にはすでに先客がいたので、その間、3番目に座る。 どっと汗は出ず、じんわりと全身が汗ばんでいく。風通しが良いとはいえ、長袖の服を選んでしまったことを後悔した。 鞄から麦茶の入ったボトルを取り出すと、まだ複数の氷が形を保ったまま、上の方でひしめき合いながら、ぷかぷかと浮かんでいるのが見えた。 ボトルに麦茶を入れてくれたのは彼だった。いつもわたしが入れると大抵駅に着く頃にはほとんど

追い抜いていく猫

「あ、猫ちゃん」 喫茶店に寄った後の帰り道、脇の小道から、猫がてくてくと歩いている。彼は無類の猫好きで、猫を「猫ちゃん」と呼ぶところにその片鱗が見えるなといつも感じ入る。 猫が角を曲がり、少しの間私たちと並んで歩いているのを眺めていると、首輪をしているのが確認できた。飼い猫なんだね、と話していると、すぐに私たちを追い越していく。 先を行く猫に視線を向けていると、それも束の間、また別の脇道に逸れていってそれきり姿は見えなくなった。今年の3月中旬のことだ。 この時期、彼は

エッセイ3本書いたよ

エッセイ。随筆。自分の体験や感想などを、自由な形式で書いた文章。 バトンズ・ライティング・カレッジ(バトンズの学校)1期生(有志)によるマガジン企画『かく、つなぐ、めぐる。』(通称かつめ)に、10月7日、3本目のエッセイを寄稿しました。 あと7本、仲間たちのエッセイが控えているけれど、とりあえず自分のターンは終了したことになります。 ①8月のエッセイ 母方の祖母と8月15日のできごと。 ②9月のエッセイ 記憶にこびりついた、15歳の恋愛相談ループのはなし。 ③10月

戻ってきた のんちゃん #かくつなぐめぐる

「書くこと」を通じて出会った仲間たちがエッセイでバトンをつなぐマガジン『かく、つなぐ、めぐる。』。10月のキーワードは「宇宙人」と「憂鬱」です。最初と最後の段落にそれぞれの言葉を入れ、11人の"走者"たちが順次記事を公開します。 突如、空からUFOに乗ってやってきた宇宙人に攫われてしまいたい。「遅刻だ遅刻だ」と懐中時計片手に走っていく白ウサギの後を追いかけて、穴の中に落ちていきたい。 頭の中で非現実の世界へ逃走を試みようとも、中学校へと続く通学路から逃れることはできなかっ

求ム、梨が入るくらいのポケット

「そのジャケット、かわいいねぇ」。見慣れないおニューのジャケットを羽織っていた後輩に声をかける。なぜかその顔は暗かった。 「騙されました……」 物騒な導入である。どしたの、と聞くと彼女は悔しそうに 「ポッケが無いんですよー!」 と返した。近くで一緒に話を聞いていた同僚は、「それは違うの」と体で言うとおへその横あたりにあたる、ジャケットに縫われた線を指差す。「ダミーですよ……」とまた悔しそうに後輩が答える。 同僚とわたしで「ああ〜」と共感の声をあげる。「確認し忘れてた

恋愛相談ループ #かくつなぐめぐる

あのとき、まるで台風の真ん中にいるみたいだった。巻き起こる暴風雨のせいで、周りで起こっていることが認識できない、聞く耳を持てない状態。逆にわたしが大声をあげても、周りには届かない。 行きつけのカフェ、斜め前のテーブル席で女性2人が向かい合って会話をしている。たぶん大学生くらい。 どうやら、恋愛相談をしているらしい。女性の1人がヒートアップしてきて、そこそこ大きめの声量で話している。心なしか、目が血走っているように見えた。ぼんやりしていると、結構ダイレクトに言葉が耳に入って

束の間の再会

「のんちゃん? わー! 久しぶり!」 美容院の待合室にあるソファに腰掛け、順番が回ってくるのを待っていた時のこと。 顔を上げると、グレーのジャケットを着た青年が立っている。髪は短くさっぱりとしていて、ヘアカットが終わった後のようだ。マスクをしているので、顔をしっかりと確認することはできない。けど、彼がだれかはすぐにわかった。 「みーくん!」 みーくんは、わたしの幼なじみだ。1つ年上の男の子。いや、もう男の子という年齢ではないのだけれど。小学校1年生まで暮らしていた社宅

8月15日 #かくつなぐめぐる

車の後部座席から降り、夏の強い日差しに目を細める。額から流れる汗を、Tシャツの袖に押し付けた。ファンデーションがつかないことを祈る。 2019年の8月、祖母が旅立って1年経ったころのこと。そのまま、先にゆっくりとお墓に向かって歩いている祖父のあとを追う。その後ろ姿が、なんだか愛しいと思った。彼の隣で、背の低い祖母が一緒に歩いている姿を想像しながら、スマートフォンで写真を撮る。 *** 「例年以上の猛暑日となりそうです」、「今日の熱中症予防を見てみましょう」……テレビの天

道具を変えて、書ける!と錯覚させてみる試み。

Bluetooth式のキーボードを買おうと思い立ったのは昨日のこと。Amazonで検索し、注文したものが今日届いた。こういう時プライム会員だと便利だ。そして今、そのキーボードでこのnoteを打っている。 流石にまだ慣れない。ボタンを押した時の音とか、クッション性とか。結構打った時の音が大きくて、ちょっと笑える。私の押す力にも問題があるかもしれないけど……。 普段noteを書くときは、iPhoneでフリック入力か、ノートパソコンのキーボードを打つ。どちらかといえば、キーボー

引き出しからハト。

やらかしちまった。 詳しくは書けないけれど、仕事で、最後の最後にミスをしてしまった。そのあとやれることはやったし、起こしてしまったことはどうしようもない。けど、自分のツメの甘さに凹んでしまう。横っ腹がジクジクして、デスクの席に縫えつけられたように動けない。 周りからの「だいじょうぶだよ」の声に頭を下げる。ただただ情けなかった。 終わりが見えてきて、勝手に有頂天になった。そこでのうっかりミス。自分を呪わずにはいられなくなりそうになる。頭の中はミスそのものや、それによって引

食事の記録を見ていたら、あんパンが恋しくなってきたけれど。

28。iCloudのメモ帳のフォルダ「食事の記録」に保存してあるメモの件数だ。一つのメモに1か月分、朝昼晩で自分が食べたものを記載している。28、ということは28か月分=2年4か月分ということ。ダイエットがきっかけで始めたけれど、ずいぶん続いているなあと我ながら感心してしまう。 2年4か月前、ジムに週2~3回のペースで足を運んでいるのに、体重に変化がないどころか増加傾向にあった。「ジム辞めちゃおっかなあ」とぶーたれていたところ、栄養士の資格を持つ母に「食べ物、気にしていない

普段は怠ける日曜日だけど。

土日どちらかは予定を入れないようにしている。目覚まし時計をかけず、好きなだけ眠りたいから。普段は使っている2個の時計のアラームをオフにする瞬間はニヤニヤする。「私の眠りを妨げるものは何一つないのだ…!」と眠りにつくのが至福の瞬間だ。 一方で、そうはいかない日ももちろんある。今日がそうだった。外出ではなく、オンライン(Zoom)での予定が入っていた。これからはこういった機会が増えていく。少なくとも、これからの5か月間はそれが通常になっていくんだろう。どうしてかというと、THE

お気に入りの色を装備する。

このあと、マニキュアを塗る。 たまにセルフネイルをすることがある。といっても、グラデーションや柄など凝ったことをするわけではなく、基本的に単色を塗るだけのシンプルなものだ。自分の中でドストライクの色と出会えるとしばらくそればかり。ちなみにお気に入りは、日本画用絵具の老舗、上羽絵惣さんの胡粉ネイル。塗りやすいし、カラーバリエーションも豊富。 ネイルで思い出す、大学時代のある先生の話を少ししたい。 その人は、女性の非常勤講師で、文章の書き方についての講義を受け持っていた。厳