
求ム、梨が入るくらいのポケット
「そのジャケット、かわいいねぇ」。見慣れないおニューのジャケットを羽織っていた後輩に声をかける。なぜかその顔は暗かった。
「騙されました……」
物騒な導入である。どしたの、と聞くと彼女は悔しそうに
「ポッケが無いんですよー!」
と返した。近くで一緒に話を聞いていた同僚は、「それは違うの」と体で言うとおへその横あたりにあたる、ジャケットに縫われた線を指差す。「ダミーですよ……」とまた悔しそうに後輩が答える。
同僚とわたしで「ああ〜」と共感の声をあげる。「確認し忘れてたのも悪かったんですけど……ゆったり目だからあると思い込んじゃって……」。でも悔しいしデザインは好きだから着てます、と後輩は続けた。
ポッケ。ポケット。
身にまとう衣服にポケットがあるか? それは大変由々しき問題である。特に女性ものの衣服は、大きく深いポケットがあまり付属していないように思う。
たぶんデザイン性やうつくしいシルエットを実現するために削ぎ落とされていたりするんだろう。だけど。
うつくしいシルエットの前にポケットをください。
たぶん、ウインドウショッピング中に「ポケットたくさんついてます!」というポップがあったら、手にとってしまうと思います。
丸顔めめ先生の漫画『スーパーベイビー』のヒロイン・玉緒はアパレル店員。作中、彼女がお店の同僚の子たちと一緒に、商品であるコートのセールスポイントを話すシーンがある。
コートのポケットを示しながら「何よりもポッケがでかい!」「ポッケまじ大事」「ポッケないと無理」「この深さ絶対スマホ落ちない」「デカい梨くらい入る」と盛り上がるのだ。
たった1コマなのだけれど、めちゃくちゃ共感してしまい、洋服のポケットに手を突っ込むたびに思い出す。梨が入るくらいのポケットを常に求めている自分がいる。
ところで、あとから後輩のジャケットを3人で確認したら、ささやかな名刺が入るか入らないかぐらいの内ポケットを発見した。これだけでいいわけないよ。
いいなと思ったら応援しよう!
