DV相談のお仕事11
親のDVを目撃するのも児童虐待。面前DVを防げば次世代のDVは減る。長年現場で働いてきたわたしの持論。
前回のDV相談のお仕事10で紹介した5歳、3歳の姉弟の話。そう、母親は2人を連れて家を出て新しい生活を始めましたとお伝えしました。ここまで行くのに、決してスムーズではなかったのです。
初めてわたしが親子と会ったのは福祉事務所でした。5歳の姉の後を追いかける3歳の弟。まだたどたどしい言葉でお姉ちゃんに話しかけ、お姉ちゃんも嫌がらず相手をしていました。母親とわたしが面接している間もそばで仲良く待っていました。
2、3ヶ月おきにアポなしで来ては話をして帰って行くを繰り返していましたが、1年近く経った時です。母親の話を聞いていると弟がお姉ちゃんを殴り出したのです。
テーブルの下に逃げ込むお姉ちゃんを弟は追いかけ、げんこつでお姉ちゃんの頭をなぐりつけました。何度も何度も。母親とわたしが間に入って2人を引き離すまで続きました。
わたしは衝撃を受けました。4歳近いとはいえまだ幼い男の子がここまでの暴力を振るうのか。姉弟けんかなどというレベルではないのです。
げんこつ。容赦なく。頭部ねらい。何度も執拗に。
書いていて頭がクラクラします。今でも。暴力を目撃するって大変なことです。昨日のことのようにその時の描写が甦り、今目の前で起きているかのように生々しいままです。
なぜそこまでひどい暴力が振るえるのか。
父が母を殴るのを目の前で見て殴りかたを学んだからです。
生まれた時から暴力のある家庭で育ってきた姉、弟。
「わたしが殴られている時、お姉ちゃんは部屋の隅で耳をふさいで小さく丸まって震えていました。」
母親が話していました。お姉ちゃんは年齢よりも小さく、体重も少なく弟と体の大きさがかわりません。弟に殴られた時も真っ青でガタガタ奮えていました。
弟は力でお姉ちゃんを黙らせ、言うことをきかせる方法を3歳で学んだのだと思います。父親が母親にやっていることだから。むずかしい理屈でなく学習しただけなのです。
言葉のやり取りが可能になる3、4歳の時期。「これ貸して」「だめ使ってるから」たとえばこんなやり取りも可能な年齢のはずですが、言葉より先に手が出てしまう子どももいます。男の子なので、言葉のコミュニケーションが苦手かもしれません。でも、あそこまでの殴りかたは尋常ではなかったです。
力ずくで負かす、暴力で黙らせる。
子どもの目の前でDVを見せることも、児童虐待になります。近年児童虐待の件数が大きく増加したのは、面前DVとして警察から児童相談所に通告されるようになったからです。
暴力を見せることで子どもは心身ともに影響を受けます。大人になってからも影響は続きます。
暴力を見て育った子どもはみんな大人になって加害者になるのか?
NOです。妻にも子どもにも手をあげず、穏やかな家庭を築いている人はいます。
その一方で、被害女性の話から、「夫は暴力のある家庭で育った。夫の母はいつも父から殴られていたようだ。」と聴くことが少なくありません。
夫婦の考え方や意見が違った時に穏やかに話し合うことができない。興奮する、口答えされたとカッとなる、おれのことを全否定するのかと手が出る。
話し合う、相手を受け入れる、どうにか折り合う。
そんなコミュニケーションを学ばす、そんな体験がないまま育ってしまったのかもしれません。どこかで自分を振り返り、セルフケアする機会があれば自分も他人も大事にする人になれると思ってます。大人になってからでも、です。
DVを防ぐ、なくすにはDVを目撃する子どもを減らすこと。DVのある家庭から母と子を救い出すことだと考えてます。
母を救えれば子も救える、そう考えてDV相談のお仕事してます。
先の話に出てきた姉、弟はその日のうちに一緒に児童相談所に行きましたよ。でも、でも、昼間の時間帯は職員が手薄で対応してもらえませんでした。職員は訪問や調査に出向いていて、ほとんど席にいないのです。
「大至急の案件ならもちろん受けますよ。」って言ってくれるけど、命に関わる大至急案件ではないと判断して後日改めて相談となりました。タイミングよく介入することが大事だけと…仕方ないか。現場にいると葛藤だらけです。
あの時の弟くんが、DV加害者になりませんように、祈るような想いです。
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