#72 20年越しの、私だけの「ゲームボーイ」
(1605字・この記事を読む所要時間:約4分 ※1分あたり400字で計算)
生まれて初めて、自分の為に自分だけのゲーム機を買った。
今流行りのニンテンドースイッチではない。
既に生産終了の横長ゲーム機。
かの「ゲームボーイアドバンス」だ。
通販サイトを漁り、ようやくまだ販売されている店舗を見つけた。
生産終了されているので、もちろん中古。
少々割高だが、なんと機体のカラーを自由に選べる。憧れのスケルトン仕様まであった。
加えてソフトも2本購入。
これで、もう一つ夢が叶った。
私の家は厳しく、ゲーム機は一切持たせてもらえない、そんな家庭環境だった。
学校の友達が放課後、公園で囲んでピコピコ遊んでいるのをいつも羨ましそうに眺めていたものだ。
けれどもいくら親にねだっても、「目が悪くなる!」「学校の成績が下がる!」と絶対に買ってもらえなかった。
どうしても遊びたい時は友達の家に通い、友達のを借りてこっそり遊んだ。
長時間遊ぶことはもちろん出来なかった。友達が退屈でゲームを返してくれと言うのと、不自然なほど友達の家に長居すると親に疑われるのだ。
なのでいつも時計をチラチラと見ては、時間を決めて遊んでいた。
私達の世代は、当初主に白黒画面のゲームボーイが主流だった。
数年後にゲームボーイカラーが出た時は、それはそれは衝撃そのものだった。
ゲーム画面がカラーになるなんて、夢のような体験だった。
加えてその後発売されたゲームボーイアドバンスは機体がこれまでと違って横長。
更に従来の機種と比べ新しい操作ボタンも追加されたということで、ゲーム好きの子なら一度は所有してみたい憧れのゲーム機であった。
その上中身が丸見えのスケルトンデザインなんて、もうかっこよくて仕方がなかったのである。
けれども我が家ではどんな最新でかっこいいものであろうと、ゲームである限り、絶対に買ってもらえない。
「一生自分だけのゲームボーイアドバンスなんて手に入りっこないんだ」と毎日めそめそしていると、見るに見兼ねたのか、親戚が使い古したゲーム機を1台くれた。
どんなものだったのかは、もうあまり覚えていない。
ただゲームボーイではなかったのは確かだ。
それでも自分のゲーム機が手に入ったということで、私は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
親の目を盗んで、皆が寝静まった夜に布団の中で遊んだり、わざわざ遠い公園に出かけで目立たない場所でひっそり隠れて遊んだりした。
ところがある日。
トイレを言い訳にお手洗いに隠れて遊んでいたところ、すっかり夢中になってしまった。
そんな長い時間お手洗いで何をしているのかと親がそっと覗きにきたことでさえも気付かず、ハッと我に返った頃には既に遅かった。
ゲーム機が奪われた。
次の瞬間、強く強く床に何度も叩き付けられ、粉々に壊されてしまったのだ。
一生大事にしたいと思った、私のゲーム機。
それが目の前でガラクタになっていった。
そんなことがあり、私は以後ゲームのことなんて考えなくなってしまった。
心のどこかでずっと怯えていたのだろう。
また壊されてしまうのではないかと。
自分はゲームなんて所有してはいけないのだと。
でもやはり、ずっと忘れずにいたのだ。
「ゲームアドバンス」のこと。
友達の家で遊んだ、あのワクワクするソフト達のこと。
ずっと自分だけのゲーム機が欲しかったこと。
大人になった今、ようやくその夢を叶えられる時が来た。
もう監視するように私を見張る人もいない。
通販サイトの「配達中」を眺めながら、私は思いを馳せるーー
久しぶりに遊ぶゲームボーイはどんな感触だろうか。
友達の家で繰り返し遊んだあの2本のソフトは、今もあの頃と同じトキメキをくれるだろうか。
そしてゲームが届いたら、真っ先に過去の自分に渡したい。
20年前のあの日。
壊された宝物の前で、一人寂しく泣いていたあの頃の私に。
憧れのゲームボーイアドバンスだぞ。
大好きなソフト、2本も買ったぞ。
なんとブルーカラーのスケルトン仕様だぞ!
これからはもう、誰の目も気にせず思いっきり遊べるんだぞ。
📚あの頃の夢を、大人になってからも
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