(映画感想文/短歌)『めくらやなぎと眠る女』
『めくらやなぎと眠る女』※ネタバレなし感想文
村上春樹原作、フランス他数か国合作のアニメーション映画。村上春樹原作の映画は多くなく(最近はカンヌで賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』などがありますが)、アニメ映画化は「初」だそうです。村上春樹は好きな作家ですし、日本のアニメ作品にはない独特なヴィジュアルも気になって、観てきました。少しずつパンフレットを読んだりしていたので、遅めの感想文です。思えば、映画のパンフレットを買ったのは何年ぶりかわかりません。それだけ、この作品を気に入ったということです(あざやかな、緑色のパンフレット)。
この作品が「村上春樹の6つの短編作品を元に、再構築した映画」ということも知らずに観たのですが、不思議と違和感なく一つの物語になっていました。村上作品を好きな人ならわかると思いますが、村上作品には、文体や登場人物の造形、世界の空気感などに(俗な表現をすれば)「村上ワールド」ともいうべき一定のトーンがあるので、異なる作品を組み合わせても、あまり違和感がないのだと思います。蛇足ですが、この「一定のトーン」からあまり逸脱がないことが良いことなのか悪いことなのか、村上作品を読んでいて、いつも少し気になるところではあります。
本作ですが、アニメ映画として良作でした。ただ、アニメ映画といっても、本作は「ライブ・アニメーション」という独自の手法で、実際に人間が演技しているのをベースに作成されているので、いわゆる日本の一般的なアニメ作品から想像するアニメとは全く別のアニメ作品になります。これがいわば「実写とアニメのいいとこ取り」になっていて、「実写ベースのリアルさ」と「アニメのマジカルで抽象的な表現」がうまく融合されていると感じました。村上作品とアニメーションとの相性の良さも感じましたが、あくまで、このライブ・アニメーションが功を奏しているのかもしれません。村上氏は過去に「アニメーションにあまり良い印象を持っていない」との発言があるようですが、今回のアニメ化に至ったのは、このライブ・アニメーションによるところが大きいのかもしれません。実際、ピエール・フォルデス監督は、作ろうとしている作品のイメージや構想を村上氏に丁寧に伝え、アニメ映画化の許可を得たそうです。村上作品の映像化として、アニメーション映画監督であるピエール・フォルデス監督にしか作り得ない、稀有な作品になっていると思います。
『めくらやなぎと眠る女』個人的評価:★★★★☆
こんな人におすすめ
村上作品が好きな人はもちろんですが、普段、アニメーション映画を観ない人にも観てほしいと思います。実写なら何でもないようなシーンでも、時にスタイリッシュに、時にマジカルにしてしまう映像美があります。逆に普段アニメを観ている人には、人物の造形や表情などに癖があり、抵抗を感じる人がいるかもしれませんが、実写的なアプローチだと思えば、それほど抵抗はないものと思います。自分はオリジナル版しか観れませんでしたが、日本語版もあります。海外映画なので、日本を舞台にした作品でありながら、オリジナルが英語で、日本語版がある形です。単なる吹替ではなくこだわって作られているようなので、そちらも観てみたいと思いました。
(恐縮しつつ)短歌
村上作品に対して詠むのもおこがましいというか恐縮しますが、物語の中に出てくるある「箱」をモチーフに詠んでみました。「中身がある人、中身がない人」「中身がある会話、中身がない会話」など「中身」という表現がありますが、「中身」とは何なのでしょうか。また、中身を「入れているもの」には、それ自体に価値はないのでしょうか。箱という存在には、想像力を刺激されるものがあります。