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【第37回東京国際映画祭】吉田大八監督『敵』襲来に備えよ



<作品情報>

渡辺儀助、77歳。大学教授の職を辞して10年――妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、友人たちとは疎遠になったが、時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金があと何年持つか、すなわち自身があと何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。だがそんなある日、パソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

https://2024.tiff-jp.net/ja/lineup/film/37002CMP13

<作品評価>

90点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆

<短評>

おいしい水
吉田大八×筒井康隆だとこうなるか!という新しい発見があった。小ぶりな舞台設定ながら予測のつかない展開力で魅せるあたりは流石吉田大八。
慎ましく暮らす元大学教授の下に不穏なメールが届き始める。非常に地味な導入であり、大半はその暮らしぶりを丁寧に映していくだけ。なのだが、後半になるにつれてトンデモ度が上がっていく。
北からやってくる「敵」とは何のメタファーなのだろうか。死というのが一番単純な答えだが、ここでは「自分自身への絶望」としておきたい。自分は果たしてどういう存在だっただろうか。客観視していくとそこに絶望が見えてくる。
映画を観ていて一番連想したのはベルイマン『野いちご』だ。ひょっとしたら自分の存在というのは世間にとって「何でもない」のではないだろうか。そういう諦念に似た感情を描いていると解釈したい。
しかし吉田大八はじめじめした画面にはしない。白黒の画面に頼らない展開力と適度なユーモアが欠かせない。
少しガチャガチャした感は否めないが、吉田大八流『野いちご』と言っていい完成度を備えている。終始とても楽しめた。今年の日本映画のハイライトといって過言ではないだろう。

クマガイ
吉田大八 × 筒井康隆。
もう本作は長塚京三映画ですね。
とにかく演技がキレッキレで、それだけでお腹いっぱいです。
夢と現実の境が崩壊していく、あの独特な雰囲気は必見です。
打算的な主人公が徐々に非合理に傾倒していく様と言いますか、それこそ『敵』の存在に踊らされていく様子には、良い意味でこちらまで混乱させられました。

<私たちについて>

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