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ダーレン・アロノフスキー監督『レスラー』あるレスラーのワンス・アゲイン



<作品情報>

人気レスラーだったランディも、今ではスーパーでアルバイトをしながらかろうじてプロレスを続けている。そんなある日、長年に渡るステロイド使用がたたりランディは心臓発作を起こしてしまう。妻と離婚し娘とも疎遠なランディは、「命が惜しければリングには立つな」と医者に忠告されるが……。主演ミッキー・ロークの熱演で、第62回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。ローク自身も第81回アカデミー主演男優賞にノミネートされた。監督は「レクイエム・フォー・ドリーム」のダーレン・アロノフスキー。

2008年製作/109分/R15+/アメリカ・フランス合作
原題または英題:The Wrestler
配給:日活
劇場公開日:2009年6月13日

https://eiga.com/movie/54321/

<作品評価>

75点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

おいしい水
思ったより静かで淡々とした映画でした。しかし最後の見せ方が上手く、ミッキー・ローク演じるラムがここしかないと居場所を再認識するのが切なく感動させられました。ワンスアゲインものはジャンルとしてありますが、そういう人生賛歌ではないと思います。外との関係を断ち切ってリングの上だけにしか居場所を見出せない哀しい話です。
『ロッキー』との違いはラムが一度は頂点をとっていること。そしてもう一度関係を見直し、人生をやり直すのではなく、唯一の取り柄にすがるしかないという真逆の方向にいきます。
マリサ・トメイ演じるキャシディは少し「男性が思う自己犠牲的な女性」を感じ、これでいいのかなとは思います。無条件にラムに惹かれ、仕事をなげうって試合を見に来るというのは非現実的です。
しかしマリサ・トメイ自身の魅力には抗えません。トムホ版『スパイダーマン』のメイおばさん役でもお馴染みのリアルな色気は凄まじいですね。そろそろアカデミー賞とってもいい俳優さんだと思います。
静かに落ちぶれヤラセとドラッグ、セックスにまみれたレスラーの日常をみせていく手腕はさすがアロノフスキーです。『ブラック・スワン』にしろ『マザー!』にしろ『レクイエム・フォー・ドリーム』にしろ彼の据える主人公は一貫しています。自己犠牲だ。ラムは背中にキリストのタトゥーを彫っています。ダメな主人公が贖罪をすることによって少し救われるというのが彼のテーマなのだと思います。
ブルース・スプリングスティーンの主題歌も素晴らしいです。ゴールデングローブ賞の歌曲賞をとったようでそれは当然という味わいです。歌詞のハマり具合といい歌声の枯れ具合といい合っています。アカデミー賞になんでノミネートされなかったんでしょう。
思ったよりもすごく地味でプライベートな作品です。だからこそラストの切ない想いに泣かされます。とてもいい作品でした。

吉原
中学生の頃から気になっていた作品を、ようやく鑑賞しました。とても熱い作品でしたが、同監督による「ザ・ホエール」と内容がかなり似通っている点が非常に気になりました。
「ザ・ホエール」は戯曲が原作になっていますが、これが単なる偶然なのか、それともダーレン・アロノフスキー監督が本作を制作した影響で「ザ・ホエール」の脚本に惚れ込んだのか、興味深いところです。
本作でミッキー・ロークが演じるランディは、人間臭くて不器用なキャラクターがとても魅力的でした。この作品が制作された時期が彼の俳優人生のどの段階だったのか正確には分かりませんが、俳優として一線を退いてしまった彼だからこそ、ここまで哀愁漂う役柄を演じることができたのではないかと思います。
最近は長編映画ばかりを観ていたため、100分台というコンパクトな尺で非常にまとまっている本作のような作品の良さが、より際立つように感じました。

<おわりに>

 ミッキー・ローク迫真の演技が素晴らしいです。アロノフスキーらしい演出もみられる秀作です。

<私たちについて>

 映画好き4人による「全部みる」プロジェクトは、映画の可能性を信じ、何かを達成したいという思いで集まったものです。詳しくは↓


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