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ストーリィドロップス

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不定期マガジン「ストーリィドロップス」 ちょっと何か読みたい時に、小粒な短編小説集。
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#フィクション

見ていたもの と 見えたもの

見ていたもの と 見えたもの

 私は現実ではない物を見ていた。私が見ていた物は魔法で、嘘だった。存在しない物だった。

 私が見ていた物を再現する為に、私は学んだ。何でも食った。勉強が嫌いなどと言ってられなかった。自分で自分を洗脳して「勉強が好き」と思い込ませる事で、身体を勉強に向かわせた。
 哲学、建築学、数学、文学、物理学、言語学。雑に食って「これも違う」と捨てて、学問を無礼にも食い荒らした。必要な所だけを、文脈を殆ど無視

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雀さんぽ。

雀さんぽ。

 久しぶりに時間が出来た。そんな時、私はお菓子のポッキーと共に近所の公園を散歩する。
 ポッキーをチマチマと食べながら、舗装された道、木漏れ日が揺らめく樹の下を心地よくふらめいていると、一羽の雀が声を掛けてきた。

 「お散歩ですかい。」
 「えぇ。久しぶりに暇ができた物で。」
 顔馴染みの雀だった。最近離婚したばかりだそうだ。
 「よければタバコを一本。」
 「もちろん。」
 タバコとはポッキー

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透き通った海。

透き通った海。

フィクションですので、お気になさらず。

 昔私は、リストカットをした。

 その時、私は自身の血が透き通っていた事を初めて知った。

 私の血は赤色ではなく透明だった。

 金剛石みたいなヘンな虹色の輝きなんて無くて、ただただ透き通っていた。清水が太陽を含んだ時の純粋さにも似ていた。

 それまで私は、私自身の血の色を知らなかった。

 他の子の前で膝を擦りむいた時、誰か解りたくない人間に殴られ

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