蓋を開けたら、まさかのロードムービー。「すずめの戸締まり」感想
ある一点を許すか許さないか、それによって大きく評価の変わる作品。
でも、かなり面白かったです。
個人的には「君の名は。」「天気の子」を上回りました。
STORY:
九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽（すずめ）は、「扉を探してるんだ」という旅の青年・草太に出会う。
彼の後を追って迷い込んだ山中の廃墟で見つけたのは、ぽつんとたたずむ古ぼけた扉。
なにかに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばすが…。
扉の向こう側からは災いが訪れてしまうため、草太は扉を閉めて鍵をかける“閉じ師”として旅を続けているという。
すると、二人の前に突如、謎の猫・ダイジンが現れる。
ダイジンがしゃべり出した次の瞬間、草太はなんと、椅子に姿を変えられてしまう。
それはすずめが幼い頃に使っていた、脚が1本欠けた小さな椅子。
逃げるダイジンを捕まえようと3本脚の椅子の姿で走り出した草太を、すずめは慌てて追いかける。やがて、日本各地で次々に開き始める扉。不思議な扉と小さな猫に導かれ、九州、四国、関西、そして東京と、日本列島を巻き込んでいくすずめの”戸締まりの旅”。旅先での出会いに助けられながら辿りついたその場所ですずめを待っていたのは、忘れられてしまったある真実だった。
程よい新海感、程よいジブリ感の好バランス
本作を観て個人的に思ったのは、ちゃんとヒットを狙う作品に仕上げてきたなということ。
ボーイ・ミーツ・ガール、恋愛要素、超自然現象。様々な要素が高次元で融合されており、「君の名は。」や「天気の子」よりもジブリ映画っぽいなという印象。これまでの作品より幅広い世代の人に受けそうです。
しかも、ただ単に宮崎駿のコピーというわけではなく。随所に新海誠監督の良さはしっかりと出ていました。
なんといっても新海監督は現代日本の日常風景を切り取るのがうまいです。
都会も田舎も、彼というフィルターを通すと美しいのにごく自然、尚且つ印象的に視聴者に迫ってくる。
細かいところで言うと、物語全編通してカット割りとかカメラアングルがめちゃくちゃ良かったです。これまでの作品ではそんなに思わなかったんですけど。演出の進化を感じました。
そういえば、前作「天気の子」までは画角が16:9、本作からシネスコ(横長)になったみたいですけど。やっぱ映画はシネスコですね。スケール感も一気に上がった気がしました。
意外性のあるロードムービー要素が好き
この作品、蓋を開けるとめちゃくちゃロードムービーです。
舞台が九州・愛媛・神戸・東京と移り変わっていき、最後はまた九州に戻る。
このロードムービーという構成は、新海監督の美しい風景の演出を活かすには最高の要素だと思いました。
都会と田舎どっちも描けるし、場替えを増やすことで物語が弛緩することも防げる。
各地で出会いや別れがあり、主人公であるすずめの成長も描きやすいだろうし。
まあ、この手法が使えるのは一回きりでしょうね。こればっかやってたらツッコまれるでしょうから。笑
でも、今回は”禁じ手”をうまく活用できていたと思います。実際面白かったし。
あと、今回はちゃんとストーリーに納得感があります。
個人的に「天気の子」は「？？」って感じだったので。そこは良かったかなと。
『閉じ師』設定の妙
本作は、松村北斗が声を演じた草太の設定がとにかく良かったと思います。
まず、『閉じ師』という特殊な家業。これが良かった。
『閉じ師』は、ざっくり言うと災害の原因となる各地に出現する”扉”を締める、という役割。
これだけ聞くとちょっと厨二臭いんですけど、バランスの取り方がうまかった。
『閉じ師』はあくまで家業であり、草太は普通に教師を目指していて大学の友達も普通にいる。そこが良かったですね。
で、この『閉じ師』に絡む『ミミズ』や『要石』の存在。この辺もうまいのでぜひ劇場で確かめていただきたい(書くのがしんどいわけではない)。
とにかく、『閉じ師』を含め未知の世界に関する設定がよく練られていると思いました。
過去の新海監督の作風からすると決してこういうテイストが得意とは思わないんですけど、これをオリジナルで思いつくのはちょっとすごい。
新海監督”らしさ”を許容できるかどうか
ここがねー。本作で最も賛否が割れるところだと思うんですけど。また「震災」がコンセプトなんですよね。
「君の名は。」「天気の子」もかなり震災の影響を受けてましたが、今回が一番かも。
喪失からの脱却、成長のメタファーとして震災が使いやすいのはわかるんです。
でも、正直僕はやめてほしかった。3作連続でそれをテーマに入れるっていうのはいかがなものかなーと思ってしまって。
実際の出来事をフィクションに盛り込んで観客を感動させるって、僕はある意味反則な一面もあると思っているんですよ。
作品の中で表現できないエモーショナルさを、観客の記憶を利用して作るわけですから。
前述の通り「すずめの戸締まり」は基本的によく出来ているので、この要素がなくても全然観客の気持ちを動かせたはず。
これを新海監督らしさと捉えたとしても、人によって許容できるかどうかは分かれるでしょう。
僕はこの作品が好きですが、この演出で自分の中での評価は下がりました。
ただ、こうやってもう一度真正面からエンタメ大作に挑んだ新海監督の姿勢と、かなりクオリティの高い作品を生み出してきたことには敬意の念しかないです。
オリジナルアニメとしては非常にクオリティが高い部類に入るはず。
今ならまだこのビッグウェーブに乗れますので、みなさん是非劇場へ。