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30代からスポーツ始めちゃダメですか

本気でSASUKEを目指そう、と思った頃。
僕は既に30歳になっていた。

4年半前、日々の仕事をこなすことで精一杯だった僕の日常を壊したのは未曾有のウイルスの脅威だった。
屋内イベントの仕切りをやることが多かった僕の業務はほとんどストップし、仕事は何の準備もなく在宅勤務へと切り替わった。
唐突に、自分と向き合う時間が訪れたのである。

あまりにも何もやることがなかった僕は、身体を動かすことにした。
普段から時々筋トレはしていたけど、基本は仕事終わりの夜に外を走ったりするぐらい。早い時間に外を走るのは久しぶりだった。

まだ冷たい空気が色濃く残る4月の朝は、吹き抜ける風が気持ち良かった。
少し離れた公園に辿り着くと、いつも通り大きな鉄棒に飛びつく。
この公園で懸垂等の自重トレーニングを行うのが僕の日課だった。

日課の30回懸垂を行い、肩で息をしながら下に降りる。
すると、そこでご年配の方に声をかけられた。

「すごいですね!
 SASUKEとかに出てるんですか?」

SASUKE。
小さい頃、すごく憧れていた番組。
…いや、それはウソだ。
今もずっと番組を観ているし、憧れ続けている。
多分、だからこそ僕はずっと筋トレを続けてきた。
なんで、この気持ちに気付けなかったんだろう。

違う。気付かなかったんじゃない。
気付かないフリしていただけだ。

ろくにスポーツ経験もない僕が、SASUKEなんて目指せるわけがない。
30歳にもなって、あんなに凄いことができるわけがない。
番組に出演している方の中には30代以上の挑戦者も勿論いるけど、ほとんどがスポーツ経験者か、若い頃からSASUKEに出ていた人ばかりだ。
そんな中に、自分のようなちょっと筋トレをしているだけの凡人が入れる訳がない。
自分には日々の仕事もあるし、トレーニングに全てを捧げることなんてできない。

そう考えて、見えているはずの夢を見ないようにしてきた。
コロナ禍での自分と向き合う時間と通りすがりの方がくれた一言は、僕に本当の夢を思い出させてくれた。

それからの日々は、僕のnoteにもずっと書いている通り。
時には苦しい時もあったけど、楽しくて充実していた。

予想していた通り、年齢を重ねてからスポーツを始めることは辛さもあった。
自分よりレベルの高い人は死ぬほどいて、しかもほとんどの人は自分より歳下。
若い人の能力の伸びは凄まじくて、油断するとすぐ差をつけられる。
怪我は多いし、疲れを抜くのにも時間がかかる。
数えきれないぐらい挑戦して、数えきれないぐらい失敗して、数え切れないぐらい負けた。

それでも、ここ4年は楽しかった。
僕の人生で最も充実していた時間だったと、胸を張って言える。

SASUKEにもっと早く打ち込めていれば、と思うこともあった。
10代のうち、いやせめて20代前半のうちに出会っていれば、もっと早くチャンスを掴めたかもしれない。今自分より上にいる人にも勝てたかもしれない。

でも、今の僕はこう思う。
30歳で今の夢に出会えて、夢を思い出せてラッキーだった。
そうじゃなきゃ、今も仕事だけに忙殺される日々が続いていたかも。

仕事に打ち込む、家族を守る。
30代になると、当たり前のようにそれが求められる。
それ自体は当然だと思うし、すごく大切なことだと思う。
僕自身も仕事を辞めてまで夢に集中したいとは思わないし、家族ができたら当然守ることを最優先すると思う。

でも、年齢や立場を言い訳にして自分の本当にやりたいことから目を逸らすのはすごく勿体無いことだ。
やりたいと思ったら、始めるのに遅いものなんてない。やりたいと思った瞬間が人生で一番早いのだ。

30代からスポーツ始めちゃダメですか。
記事のタイトルにしたこの言葉に、今の僕ならこう返せる。

月並みだけど、始めるのに遅いことなんてない。
もちろんリスクはあるけど、やりたいことはやるべき。
その方が後悔は残らないし、今より充実した生活になるはず。

何歳になっても、始めちゃダメなモノなんてない。
それを忘れないように、これからの人生も生きていきたい。

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