あれは、恋だった。
仕事終わり、最寄駅から家への帰り道。
公園の近くを通りかかった時に、ふと昔見た風景がフラッシュバックした。
草木が生い茂る街に、ポツンとある公園。
大学生の頃は、これと良く似た景色をよく見ていた。
隣には、あの人がいた。
学年はもちろん、学部と部活も一緒だった。
授業や部活の帰り道、よく一緒に公園の横を歩いた。
授業の話、単位の話、恋人の話、進路の話。
会話は移り変わっていったけど、景色と君が隣にいることは4年間何一つ変わらなかった。
「好きな人っているの?」
今隣にいる人だよ、って言いたかったけど。
その頃の君には彼氏がいたからさ。
そんなカッコ良いこと、言えなかった。
違うな。
多分、彼氏がいなくても言えなかっただろうな。
僕は、君との関係が気まずくなるのが怖かった。
誰よりも仲良しで。
「付き合っちゃえばいいのに」って、周りに囃し立てられることが心地良かった。
付き合ってはないけど、誰よりも分かり合えてる。
そんな関係が、なんかカッコ良いじゃんって。
そんな風に思ってたんだ。
部活を引退した日。
いつもの帰り道を、二人で歩いた。
「私がこの部活に入った理由、わかる?」
君が唐突に聞いてきたから。
僕は前に聞いていた話を答えた。
「映画が好きだったんでしょ?
前に話してくれたじゃん」
すると、君は少し笑ってこう言った。
「それ、嘘。
本当は、君がいたから」
なんて返して良いか分からなくて。
僕は。
「そうなんだ」
最低の答えだった。
何の感情も入っていない、一番酷い答え。
彼女との仲は、それからも変わらなかった。
時間が合えば、一緒に帰ったし。
就職活動の愚痴も言い合った。
でも、僕は気付いていた。
彼女は、勇気を持って一歩踏み出そうとしてくれたのに。
僕は、それを踏み躙った。
彼女はきっとそう思っている。
でも、僕は何もできなかった。
大学を卒業すると、やがて連絡を取らなくなった。
住む場所も変わった僕にとって、『いつもの帰り道』はもう遠いものになってしまった。
よく似た風景に、そんな記憶がふと蘇った。
あの時、あの場所に帰れたら、僕は言えるだろうか。
言えなかった本当の気持ちを。
あれは、確かに恋だったな。