王道?邪道?「竜とそばかすの姫」感想
面白くなくはない、でも半端ない消化不良感。
音楽とキャスト陣、映像は素晴らしい
まず、褒めるところから言うと音楽は抜群に良いです。
僕は音楽にはそこまで造詣が深くないので主人公のすず/Belleを演じた中村佳穂の名前は初めて聞いたんですが、彼女の歌唱力、表現力は半端じゃないです。
まず、すず=Belleが50億もアカウントが存在することになっているネットワーク”U”の中で最も注目される歌姫であること、ここに何の疑問も浮かばなかったのがすごい。
ひとえに彼女の歌声に説得力があったおかげでしょう。
それから、キャスト陣の演技のうまさ。
前述の中村佳穂はもちろんのこと、成田凌・染谷将太・玉城ティナの演技の自然さは見事。
特に成田凌は「君の名は。」のてっしーも努めていて声を使った演技の幅が広いことを存分に示してくれた。素晴らしかったです。
佐藤健に関しては竜の声の方はバッチリですが、実際の世界での少年の方はちょっと大人びすぎかな。
ただ竜の持つ強さと怖さ、そして心の弱さはしっかり表現できていたと思います。
主人公の父親を演じた役所広治も存在感バッチリ。
出番は少ないものの、ガッチリ作品を引き締めていた。
物語後半で彼がすずに送るメッセージ内容は泣けました。
あとは映像ですね。これも素晴らしかった。
まさしくスタジオ地図の総決算といった雰囲気で気合が入ってるのを感じました。
花のドレスとかクジラとか、絶対絵作りから入ってそうな感じはしたけどすごく美しかったので全然許せました。
ただ、映像と音の要素が完璧でもやはりストーリーにはちょっと疑問が残る部分があって。
総決算をやろうとした結果、中途半端に
まず、色んなテーマを描こうと手を広げ過ぎて最後まで回収できていないな、というのが第一印象。
この作品って、ストーリー的にも絵的にも今までの細田守作品の総決算的な雰囲気があるんですよ。
学校の描写や堤防のシーンは明らかに「時をかける少女」を意識してるし、牧歌的な田舎の風景やネット世界”U”の雰囲気は「サマーウォーズ」、親子の絆は「おおかみこどもの雨と雪」、竜の半人半獣のキャラ造形は「バケモノの子」と言った具合で。
ただ、大体の部分がどうも中途半端というか描写不足で終わっている気がしてならないんですよね。
主人公・すずと父親の確執は何故生まれたのか、ベルは何故竜に惹かれたのか、自警団ジャスティスのリーダー・ジャスティンは何故ASの創造主しか持ち得ない力を持っていたのか、すずの竜に対する感情は恋愛だったのか共感だったのか親切心だったのか…ここまで「?」が残ると中々感動できず。まあ、僕の察しが悪い部分があるのかもしれませんが。
「サマーウォーズ」や「おおかみこども」の家族愛、「時かけ」の青春の揺めきと言ったように、一つにテーマを絞ってしっかり描き切った方が良かったのでは?と思いました。
王道か邪道かはほぼ二者択一
個人的に、今回の作品からは細田守のヒットを狙いに行く意欲を相当強く感じました。
だからこそ、キャラデザをディズニーのクリエイターに外注したり現代の「美女と野獣」と呼べるようなストーリーとビジュアル、素晴らしい音楽を用意したんでしょう。
ただ、やはり彼はクリエイターとしてはどちらかというと変化球系というか、アングラの香りがする世界を描く方が得意な人なんじゃないかと思います。
「時かけ」もテイストはちょっと変化球だし、「サマーウォーズ」も当時は今ほどSNSが一般化していなかった頃の作品。「おおかみこども〜」に至っては見方によっては結構危ない内容ですから。
こういう作品でこそ、彼のストーリーテリングは冴え渡るのだと思います。
その点、「竜とそばかすの姫」は細田守の得意テイストを残しながら王道に寄せていった結果、中途半端な位置に落ちてしまったなという印象が強いです。
それが顕著に出たのが後半部分の展開。
誤解を恐れず言えばなんじゃこりゃ、という。笑
おそらく細田監督が好きな少年少女の成長・自立と言ったものを描きたかったんでしょうが、あの展開はご都合主義を越えてもはや絵空事ですよね。
すずの強い意志が暴力を跳ね返すというようなシーンもありますが、正直あり得ないだろと思って観ていました。
竜の正体はあれで良かったのか
本作で個人的に一番「え?」と思ったのは竜の正体です。
王道を描くなら、この落とし方は正直微妙かなーと。
センスの有無はともかく、例えば幼馴染の忍にしておくとか、実は心の傷を抱えていた父親にしておくとか。
その方が物語として芯が通ったものになったんじゃないかなーと思ったり。
いくらアカウントが50億あるからといえ、本当に知らない人にするのはどうなの?と僕は思ってしまいました。
この設定のせいで物語のフィナーレが絵的に地味になるのもうーんって感じで…
そもそも、前述の通りすずの竜に対する感情がイマイチ何かわからないっていうのもね。
恋愛じゃなさそうなのはわかるけど、途中コーラス隊の皆さんにいじられて顔を赤らめたりもしてるしなぁ。ようわからんですね。
あの素晴らしい音楽と映像を視聴しに行くだけでも1900円の価値はありますが、ストーリー面でいうと個人的にはイマイチ。
これがこの夏一番のヒット作になりそうなんだから、テレビ局とのタイアップって大事なんだなって思います。笑