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クリエイティブな脳を作るなら「DMN」が大事 ── 今からはじめるマインドフルネス入門⑥

 このテキストは、瞑想に興味を持っている人、これから瞑想をはじめてみようと思っている人、あるいはすでに瞑想の実践をすでにされている初心者に向けた入門ガイド連載です。

前回は、瞑想がどうして脳のパフォーマンスを向上させるのかを、脳の仕組みからご紹介しました。

 私たちの脳はもし脅威を感じると、扁桃体が活性化し、脳の最高司令部である前頭前野がフリーズ、その結果、頭が真っ白になるシステムを持っていました。つまりもし使徒が襲ってくると、エヴァが暴走し、マギシステムもダウン、ミサトさんが呆然とする、という訳ですね(いや、違う気もします)。

 しかし瞑想をすると、扁桃体の過剰反応が減るので、最高司令部も明晰さを保てる。心理的安全性を確保できるようになります。だから脳のパフォーマンスが向上するというわけです。

 さて今回は、同じ脳内のシステムではありながら、前回とはまた違う角度から瞑想の効果をご紹介したいと思います。今回のキーワードは「クリエイティビティ」と「DMN」です。

 自分のクリエイティビティを発揮したい、最大化したい、と考えている方はぜひ最後まで目を通して頂ければと思います。


あなたも使っている「クリエイティビティ」

 創造性や、クリエイティビティというと、アーティストが必要な力だと思われがちです。「サラリーマンの自分には関係ない話だ」と思うか多も多いでしょう。

 でも実際は、あらゆる人が毎日様々なシチュエーションで自分のクリエイティビティを使っています。

 たとえば営業資料を作るとき、料理を作るとき、運動中、そして好きな人とのデートプランを考えるとき、あなたが使っているのがクリエイティビティです。無数の組み合わせの中から、考えうる最適な組み合わせを選ぶ力です。

 もっと簡単な例があります。
 毎日、洋服を着ていますよね。(着ていない人はこれから寒くなっていくのでくれぐれも風邪に気をつけて頂くか、いますぐ何か身につけてください)
 その洋服の上下を組み合わせを考えた力も、クリエイティビティです。
 あなたの知り合いにセンスが良くてお洒落な人はいますか?
 その人が使っているのも、クリエイティビティです。

「このシャツには、このパンツを試してみよう。あ、もしかしたらこのアクセサリーが合うかも知れない。そういえばあの靴を合わせたら、カッコいいはずだ。それなら鞄はあれを持っていこう」

 クリエイティビティは毎日、必ず使っています。LINEのスタンプひとつ返すのにも、センスがある人がいると思います。あなたのスタンプチョイスが、あなたのセンスであり、あなたのクリエイティビティです。

 そう考えると、クリエイティビティ・創造性はとても身近で、かつ重要な力であることがわかって頂けるかと思います。そしてもちろん、その力はないよりもあるに越したことはありません。

 クリエイティビティがあなたにとっても身近で大切な力だとご理解をして頂けた上で、頭のなかの話を進めていきたいと思います。


人間の脳の3つのモード。CENとDMN、そしてSN

「俺、脳科学についてはけっこう詳しいんだよね〜」
 とクラウドファンディングで購入したコーヒータンブラーを片手にドヤ顔で人に語る人がいますよね(偏見です)。そのような脳科学に詳しい方も、あるいはちょっと興味があるだけの方も、おそらく耳にしたことがあるだろうと思われる脳科学のキーワード、それが「DMN = デフォルト・モード・ネットワーク」です。

 このDMNは近年脳科学でホットトピックとなっている脳の機能であり、瞑想を語る上でもたびたびこのキーワードは登場します。瞑想が、DMNを不活性化させることが知られているからです。

 DMNがなにか、については脳の仕組みについて説明しなければなりません。

 20世紀までは、脳は各部位が独立して仕事をしていると考えられていましたが、近年では脳は「ネットワークで機能している」ことがわかってきました。ネットワークによって連携する部位が異なり、仕事内容も変わってくるということです。


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 代表的な3つのネットワークが、

 ・CEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)
 ・DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)
 ・SN(サリエンス・ネットワーク)

 です。

 CENはトップダウン式の一点集中モードです。
 『進撃の巨人』でいえばリヴァイ兵長のようなカリスマ的リーダーが「この英単語ドリルを勉強する!」と指示を出し、全脳がその指示に従って「わーっ!」と英単語ドリルに突撃していくようなイメージです。
 あるいは注意力をライトに喩えるなら、CENはスポットライトのように一点に絞られた眩しい光と言えるでしょう。その先に輝いているのが英単語ドリルというわけです。

DMNは注意力の全域拡散モードです。
たとえばお風呂やシャワーを浴びているとき、散歩中、トイレ中、そういうときに何かを考えているようで、考えていないことはないでしょうか。まさにあの状態がDMNが活性化しているときです。CENとは対照的に、ボーッとしている、ぼんやりしている、といえばわかるかもしれません。

 でも、ただ「ぼんやりしている」訳ではありません。
 言ってみれば、オートパイロットモード(自動運転モード)となっているだけで、その裏側では大量の情報を脳は処理しています。駅から家に帰るとき、他のことを考えながらボーっと歩いていても(まさにオートパイロットで)家に帰れますよね。あれはボーッとしているバックグラウンドで、脳が家に帰る道順を確認し、その通りに体を動かしているから、あなた自身が能動的に帰り道を考えなくても帰れているわけです。
 もし注意力をライトに喩えるなら、DMNは光を全域拡散してすみずみまで照らすような蛍光灯と言えるでしょう。CENのように一点ではなく、逆に全体をなんとなく視界にいれて情報処理しているというわけです。

最後のSNは気づきのネットワークと言われています。
 CENやDMNの作動状況を観察して、必要があればネットワークを切り替えるスイッチャーの役割も果たします。(今回は詳しくは述べません)


DMNはヒール? それともヒーロー? 

 さて、DMNには大きな特徴があります。
 それはCENとくらべて15倍のエネルギーを消費するという点です。ものすごく燃費が悪い。感覚的には同じ時間を走行してもCENエンジンのガソリン代が1万円のところ、DMNエンジンのガソリン代が15万円かかる、となります。15万て。そう思うと、ギョッとするかもしれません。悪名高きDMN。

 そしてあまりに燃費が悪くて脳のエネルギーが枯渇してしまうと、私たちのメンタルに変化が起きます。抑鬱傾向が強まり、鬱リスクが高まるのです。DMNが暴走しつづけることで、私たちのメンタルが病んでいく可能性がある。そのため近年ではDMNの暴走を抑えることの重要性が知られるようになってきました。
 この点だけを見れば、DMNは脳のヒール(悪役)です。

 でも、DMNがエネルギーを大量に消費するには理由があります。
 先ほども触れたように、バックグラウンド処理でものすごく大量の情報を処理している
のがその理由です。

 前述のとおりCENはライトを絞って一点だけを眩しく照らしますが、DMNでは蛍光灯で全域を照らして、そこに見える様々な情報を取り扱って、自動処理します。『進撃の巨人』でいえば、調査兵団の団員たちが拡散してそれぞれの意思で各自に調査を行っているような状況です。

だからこそDMN活性時には、新しい気づきがあります。
 新発見、思ってもみなかったアイディアが生まれます。

 それはCENで一点集中しているときには生まれないものです。バラバラな断片情報に同時アクセスして、無限の組み合わせを試すような自動処理を行っているからこそ、奇跡的な組み合わせが現れます。
 DMNはクリエイティビティの源泉、あるいは母なる大地というわけです。

 これまで「創造力は右脳を使う」という話を聞いたことはありませんか? だから「私は右脳派かも」「彼は計算が得意だから左脳派」といった会話をしたこともあるかもしれません。でもそれは一昔前の話です。最新脳科学では、創造力は脳の左右という区別ではなく、脳のネットワークによって理解されるようになっています。


DMNをコントロールするための瞑想テクニック

 ・DMNが暴走して、活性化しすぎるとメンタルリスクが高まる。
 ・でもDMNを上手く使えば、クリエイティビティが高まる。
 まるで諸刃の剣のようなDMNですが、上手く扱えるようになればこれ以上心強いものはありません。

 その方法のひとつが瞑想です。


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 瞑想にはいくつもの種類の方法がありますが、それらの内「DMNを不活性化させる瞑想」と「DMNを活性化させる瞑想」の二つを実践することで、メンタルを安定させ、それだけでなくクリエイティビティの向上も実現できます。

 瞑想の種類とその具体的な実践方法については、今後この連載においてご紹介していこうと思っているのでその際にあらためて説明しますが、簡単にいってしまうと

 集中瞑想:DMNの不活性化
 開放瞑想:DMNの活性化

 となります。
 根拠の提示なくこれだけ書いてしまうと、ちょっと神秘的に聞こえてしますかもしれませんね。しかしこれまでの話を踏まえて解説をすると、腑に落ちるかもしれません。

 集中瞑想とは呼吸や音や味や匂い、なんでも構いませんが、注意力を一点に集中して観察を行っていく瞑想です。スポットライトで光を一点に集めて、対象を観察するCEN優位の瞑想です。そのためDMNは不活性化するのです。

 開放瞑想とは、頭の中につぎつぎと浮かんでくる思考、感情、感覚を、まるで空を流れていく雲をぼんやりと眺めるように、客観的に観察する瞑想です。注意力を拡散して全域を眺めるDMN優位の瞑想となります。そのためクリエイティビティが向上します。

 こう考えると、ますます瞑想は科学的で、合理的なメンタルトレーニングであることがわかるかと思います(むしろ神秘的な部分はほとんどなくなってきます)。

 これらの瞑想の実践的プログラムに関しては、後日またご紹介させて頂きます。ただ、瞑想によって脳の疲労を抑え、創造性を高められることは憶えておいて頂ければと思います。


DMNと海馬のクリエイティブな関係

 ところで、DMNがクリエイティビティに深く関わっていることの理由に、「海馬」の存在があります。海馬とは脳で記憶を司る部位で、この連載でこれまで何度もお話ししてきました。実はこの海馬は、DMNのコアシステムの一部です。

 私たちが朝日を眺めながら、散歩をしながら、サウナに入りながらボーッっとしているとき、DMNがアクセスしているのがこの海馬に格納されている記憶情報です。自動運転で海馬内の情報の自動処理を行っているのです。

DMNがいくらオートパイロットモードで仕事をしてくれると言っても、仕事をする材料(=情報)がなければ仕事はできません。私たちのクリエイティビティを発揮するには、前提条件として、海馬に情報を格納しておく必要があるわけですね。

「今日は何を着よう?」

 と朝にコーヒーを飲みながらボーッと考えても、そもそもクローゼットに入っている服や鞄やアクセサリーが頭に入っていなければ、組み合わせを試すことはできません。
 本当ならもっと服を持っていて、もっと数多くの組み合わせを試すことができるのに、どんな服を持っているのかを憶えていないと、組み合わせが自体ができず表現の幅が狭まります。

 これはペンケースに入れられる(入っている)クレヨンの数と同じです。
 白と黒の2種類のクレヨンしか持っていなければモノクロの絵しか描けません。しかし100色のクレヨンを持っていれば、それだけ表現の幅も広がるわけです。ペンケースの性能は、そのままクリエイティビティの品質に直結します。


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 そして、瞑想が海馬の灰白質の密度を向上させるのは、以前にも述べたとおりです。

 この喩えで言えば、瞑想は絵を描く技術を向上させ(DMNを上手くコントロールさせ)、絵の具の数も増やしてくれる(海馬の密度を向上してくれる)ようなものです。瞑想の習慣化は、この視点からも私たちの日常生活を豊かにしてくれるトレーニングと言えます。
 もしあなたがこれから営業資料を作る、料理を作る、運動する、そして好きな人とのデートプランを考えることがあるならば、その基礎体力の向上として瞑想は大きな役に立つでしょう。


 というわけで、今回は私たちの創造性と、脳内のネットワークから見た瞑想の効果についてご紹介しました。
 またCEN(一点集中)とDMN(全域拡散)という注意力の種類についてもご紹介しました。

 次回はこの「一点集中/全域拡散」の集中力を、さらに詳しく見て行きたいと思います。この点を理解できれば、あなたもきっと集中力マスターとなって、スプーンをいつでも曲げられるようになるでしょう(なりません)。

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