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読書日記(2024年8月)

長期休暇だ、さあ本を読むぞたくさん読むぞ、と思っていたら、夏風邪にやられてお盆休みまるまるを寝込んで過ごした8月。ウイルスが恨めしい。
読む方にも書く方にもぜんぜん身を入れることができなかったけれど、久しぶりに「めちゃくちゃ好き!!!!!」という作家さんに出会えたのでプラマイプラスとしよう。

ねにもつタイプ/なんらかの事情/ひみつのしつもん|岸本 佐知子

訳文や訳されている作品がすごく好みだなあ、と思っていた、翻訳家の岸本佐知子さん。
彼女がエッセイ本を出されていることを、三毛田さんの記事で知る。

おそらく最初の1冊である『ねにもつタイプ』を読んだが最後、やめられない止まらないで続編の2冊にもつぎつぎと手を出してしまった。少しずつ大事に読もう、と思うのに、ページをめくる手が止まらない。なんか変なもの入ってるんじゃないのかこのエッセイ。
クラフトエヴィング商會の装丁と挿絵がまた絶妙。柴田元幸さんとの共著といい、好きな人同士が仕事でご一緒されているところを見るとむふむふしてしまう性質である。

よく知った道を歩いていたらいつの間にか知らない世界に迷い込んでいくような、現実と思索と妄想が混ざり合ってしっちゃかめっちゃかになっていくような感じがツボすぎる。そしてそんなふうなのになぜか「岸本さんってこんな人」という解像度はどんどん上がっていって(オリンピックへの憎悪とか)、彼女のことをどんどん好きになる。

これはエッセイなんだろうか、と訝りながら、面白いからなんでもいいや、とも思っているうちに、なぜか今手元に最新のエッセイ集『わからない』があります。これは今度こそ、じっくり味わって読むんだ。

図南の翼(十二国記)|小野 不由美

久しぶりの再読。
少女時代は断然主人公の珠晶の活躍に興奮したり、利広や犬狼真君にキャーとなったりしたものだけれど(まあ今もそれはそうなんですが)、最近は読むたびに頑丘をはじめとする黄海のプロフェッショナルに向ける視線の温度が上がっていく。

シェニール織とか黄肉のメロンとか|江國 香織

我慢しきれずに単行本で買って読む。すごく好き。
大学時代の仲良し3人娘と、そのうちのひとりの母親をとりまく人々の話。性格も立場も、人生の中の優先順位もばらばらな50がらみの3人が、それでもおいしいワインと料理を囲んでわいわい楽しそうに話している様を見ていると、月並みな表現だけれど歳をとるのが楽しみになる。あと、最初の会食のシーンで出てくる、レストランの植栽の描写がとても好きだった。目の前が透明な緑色一色になって、さあっと風が吹き抜けるような、うつくしい描写。

タイトルの、シェニール織という言葉になんとなく既視感を持っていたら、物語の中でフェイラーのハンカチ(らしきもの)が出てきてうれしくなってしまった。シェニール織も黄肉のメロンも、「もっと素晴らしいと思っていたけれど、現実はそうではなかったもの」というような意味合いを持たされていて、ああ人生ってそういうものよね、と達観する気持ちと、それでも人生って楽しいんだよ(だってこの三人娘はこんなに軽やかだ)、とメッセージをもらった気持ちとが、同時に湧き上がる。

きっと大切な本になると思う。


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