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読書日記(2024年7月)

本格的に暑く(という言葉が生易しく思えるくらい、暑く)なってきて、家の中にますます引き籠るようになった7月。読書がはかどるかと思いきや、ついついスマホをいじってしまう。
異動してからほぼ残業ゼロだったのだけれど、ここ最近少しずつ仕事が立て込んできて、働いているなあ、という感じの月だった。残業はもちろんうれしくはないけれど、一応ちゃんと戦力になってきている、という実感をそこで覚えてしまう。よくない。


ひとりでカラカサさしてゆく|江國 香織

だいぶ前に図書館で借りて読んだ本が文庫化していたので購入。
私はこれをはじめて読む前に何かであらすじを読んでしまったのだけれど、今回文庫本裏の「あらすじ」に改めてぎょっとした後、最初は何も情報を入れずに読めばよかったな、と思った。最初から何が起こっているか把握して読むのと、読み進めるうちに何が起こったか、「彼ら」が何をしようとしているのかが見えてくるのとでは全然読書体験の質が違っただろうから。

江國さんの群像劇の、たくさんの人の人生が淡々と描写されるところが好きだ。いくらでもセンセーショナルに描ける出来事を、そうでない出来事と区別せず、そのままの質量で描くところ。それでいて、登場人物(好感が持てる人も、そうでない人も)に対する間違いなくあたたかい眼差しを感じるところ。
読み終わってから本を閉じて、表紙の左端に印字されたタイトルをしみじみ眺め、私がひとりでカラカサをさしてゆくことになる(たぶん長くて、それでいて短くて、この上なく個人的な)道の行く末のことを考えた。

あるようなないような|川上 弘美

川上さんの最初のエッセイ集を、久しぶりに読み返す。後発のものよりも小説に近いタイプの――日常の延長線でしれっと不思議なことが起こる――ものが多くて、掌編集を読んでいるような気分になる。

印象に残ったのは最後の方の「インターネットカフェへ行く」という一編、川上さんとインターネットという取り合わせの妙もさながら、今まで気にならなかったけれどやたらカタカナが多い。驚異のカタカナ率。最初の1ページで「マクドナルド」という単語が18回も出てきて(数えた)、これは書いてて面白くなってきちゃっているな? と察す。真顔でふざけている川上さん、可愛くて好きだ。

都の子|江國 香織

川上さんの初エッセイ集につづけて、江國さんの初エッセイ集を読む。
同じく江國さんのエッセイ集に『とるにたらないものもの』という、身の回りの品への愛着を語ったエッセイばかり集めたものがあるのだけれど、改めて読み返すと『都の子』で扱われるテーマはずいぶんそれに近い。

安っぽい飴の色、雨に濡れたものの色、大理石模様。

あ、それ、私も好き。江國さんの書いたものによって、そんなふうに「発見」したものが、いったいいくつあるのだろう、と思いながら読んだ。

夜は短し歩けよ乙女|森見 登美彦

お盆に憧れの下鴨納涼古本まつりに行く予定ができたので、うきうきと読み返した(ちなみにこの予定は体調不良によりあっけなく頓挫。涙を飲む)。

京都の街で春夏秋冬巻き起こる愉快な事件とオモチロオカシイセリフ回しが何度読んでも痛快。お目当ての第二章『深海魚たち』を読むと、夏の京都の強烈な日差しと糺の森の木陰、古本市の埃っぽい天幕、甘露のようなラムネなどがありありと目に浮かんできて、夏休みここに極まれり、というような気分になった。

古本まつり、行きたかったなあ。

中庭の出来事|恩田 陸

なにかおすすめのミステリはないか、と夫に訊かれて手に取ったが最後、自分で読み返したくなってしまって読んだ。
我ながらどうかと思うけれど、読み返してみたらミステリかどうか自信がなくなってしまったので結果オーライ(?)。

読書に何を求めるか、という問いへの答えとして、私の中には「翻弄されたい」という欲望が明確にあるのだけれど、それを叶えることについては一級品の小説だと思う。複数の殺人事件を軸に物語が何重にも入れ子構造になっていて、その入れ子を縦横無尽に行き来しながら話が進んでいくものだから、読むにつれて物語の渦に巻き込まれ、心の三半規管が無茶苦茶になっていく。
再読でもその感覚が余さず味わえるのだからすごいよなあ(私の記憶力の問題か?)。


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