#名刺代わりの小説10選 いまむかし
大好きなタグ「#名刺代わりの小説10選」、高校生~大学生~現在の私3人分をお届けいたします。
なんでそんなことやってんの? という経緯はこちらから。
予想以上に好みだったり、その時大事にしているものだったりの変遷が見えて、面白かった。今後も定期的にリストをメンテナンスすると、振り返るのが楽しそう。
以下、題名のみのリスト。
その下の段落から1冊1冊コメントを付けている(とても長い)ので、もしお時間があればどうぞ。
■高校時代の10選
冷静と情熱のあいだ Rosso|江國 香織
高校生の時の私の「こんな大人になりたい」という憧れは、たいてい江國香織さんの書く恋愛小説の主人公からきていた。
なかでも『冷静と情熱のあいだ』のあおいには過分に影響されて、大人になったらぜったいミラノのドゥオモに登るのだ、と決めていた。
ジュエリーについ思い入れを求めてしまったり、夕方のお風呂がやたらうれしかったり、今現在の私の行動にも当時の憧れは色濃く反映されている。
図南の翼|小野 不由美
はじめは『十二国記』と書いていたのだけれど、大学生と現在の10冊にも同じシリーズ名が入ってきてしまったので、ちゃんと1タイトルを選ぶことにする。
私の倫理観は(実践できているかは別にして)高校生の時、十二国記に出会ったことによって形作られた、と言っていいと思う。なかでも12歳(当時の私よりだいぶ年下!)の珠晶が活躍する『図南の翼』は、読むたびに「格好いい大人にならなければ」と背筋が伸びた。
魍魎の匣|京極 夏彦
百鬼夜行シリーズも高校生になってから読み始めて、猥雑で妖しい世界観と、強制的に知識を頭の中に流し込まれる奇妙な快感にどっぷりはまった
(「こんなに分厚い小説を読んでいる」ことに酔う気持ちも、多分にあった)。
なかでも『魍魎の匣』の耽美な雰囲気が好きで、繰り返し読んでいた。
空色勾玉|萩原 規子
小学生のときに『勾玉三部作』に出会って、そこから高校生くらいまではこれがいちばんたくさんの回数、読み返した本だったと思う。
昔から好きだった本のうち、児童書に分類されるようなものはもうほとんど処分してしまったのだけれど、このシリーズだけはまだ本棚にあって、ときどき読み返す。
ブラフマンの埋葬|小川 洋子
小さな謎の生き物「ブラフマン」へのいとおしさと切なさに引き裂かれそうになる話。
取り返しのつかないことがある、ということを、この本で知った気がする。
煙か土か食い物|舞城 王太郎
本棚にあった『阿修羅ガール』の冒頭を読んだ母にしこたま怒られて、反抗心からよけい読むようになってしまった舞城王太郎。スピード感と露悪的な世界観と、だから際立つ作者の「愛」へのこだわり。
めちゃくちゃ暴力的で読んでいて痛いシーンも多いのに、なぜか落ち着くというか、癒される感覚が不思議だった。
放課後の音符|山田 詠美
本が好きな女は思春期にたいてい江國香織か山田詠美に恋愛観を捻じ曲げられている、というのが私の持論ですが(皆様いかがでしょうか)、いざ振り返ると私両方読んでるな。えらいこっちゃ。
『冷静と情熱のあいだ』のあおいが「将来なりたい大人像」だったのに対して、『放課後の音符』に出てくる少女たちは「今すぐそうなりたい」姿だった。大人っぽくて、透明感があって、瑞々しくて。
三月は深き紅の淵を|恩田 陸
それまでも本を読むのは大好きだったけれど、「本」とか「物語」といったものの不思議さ、力というものについて考えるようになったのは、『三月~』に出会ってからだった気がする。
ラッシュライフ|伊坂 幸太郎
「伏線」という言葉は伊坂幸太郎の小説で覚えた。洒脱なセリフ回しと絡まった糸が終盤一気にほどけていく快感が大好き。
これは当時本当に自己紹介代わりに使っていて、なにかというと初対面で本が好きだと話した人から「おすすめとかある?」と言われたときはいつも「ラッシュライフ」と答えていたのだった。今でもわりと正解だったと思う。
カラマーゾフの兄弟|ドストエフスキー
「ドストエフスキーを読んでいる人」だと思われたい(誰に??)がためにカラマーゾフを読んでいる高校生でした。あとツァラトゥストラとか、ドグラマグラとか。細かい話の筋とか文化的な前提とか登場人物同士の関係性の機微とか、ほぼほぼわかっていない状態で闇雲に読んでいた。
でも「世の中の本には自分がぜんぜん歯がたたないような領域があることを知る」「意味はわからないけどなんだかすごいことが書いてありそうなので、とにかく読む」という経験はそれはそれで大事だなあと、今になると思う。
■大学時代の10選
フラニーとゾーイー|J.D.サリンジャー
『ナイン・ストーリーズ』と一緒に、お守りのように持っていた本。
今読んでみると私はもうフラニーのナイーブさや潔癖さを、理解できこそすれ決して自己投影はできなくなってしまっていて(どちらかというとゾーイ―の愛情や葛藤に共感してしまう)、思えば遠くにきたもんだ、と思う。
でも実はnoteのID(URLのところにあるやつです)は、この本から取っている。
月の影 影の海|小野 不由美
小説の中の「つらい展開」に耐性がついてきたせいか、国の中の勢力図や仕組みが理解できるようになったせいか、十二国記シリーズでも1作目の面白さがより理解できるようになった気がする。巧王が他人事だと思えない。
アナ・トレントの鞄|クラフト・エヴィング商會
小説じゃない気がするけれど、一応ストーリーはあるのでそこをなんとか。
大学の図書館で出会って繰り返し繰り返し読んだ本。美意識……というほど大層なものではないけれど、自分の好みの一角を形作ることにつながった本だと思う。
↓本に寄せて、こんな記事も書いていました
惜夜記|川上 弘美
短編集『蛇を踏む』に収録の1編。
初めて読んだときに衝撃を受けた小説ランキングを作ったら、だいぶ上位に来るんじゃないかと思う。
とりとめがなくて、不条理で、かわいらしい、夜の賛歌。キウイが走り回るところと、ごちそうを詰め込まれるところが好き。
嗤う伊右衛門|京極 夏彦
百鬼夜行シリーズからほかの京極夏彦作品も読むように。
ほの暗さと切なさがたまらない。
これを読んでから昔話や童話を翻案したものの面白さに開眼して、それらしきものに吸い寄せられるようになった。
流しのしたの骨|江國 香織
大学生になると、江國香織作品は恋愛小説よりもエッセイや家族を書いたもののほうが好きになった(たぶん、自分には江國さんの書くような恋愛をする可能性はない、ということが身に沁みたんじゃないかと思う)。
小さな弟「律」が持っている、「平らかな心」が死ぬほどうらやましかった。
華々しい鼻血|エドワード・ゴーリー
これも小説じゃないね。許してください。
「副詞」を主役にするというシュールなコンセプトとかわいらしく不穏な絵に加えて、柴田元幸さんの絶妙すぎる訳が大好き。
こういう本を本棚に置いて、友達や家族から「なにその本!?」と言われるのを喜ぶタイプの大学生だった。今でもそのケは結構あるけれど、おかげで愉快な本にたくさん出合えたので自己顕示欲も役に立つわね。
ポーの話|いしい しんじ
いしいしんじさんの本を読むと、物語というものの底知れなさに身震いする。
『ぶらんこ乗り』とか『トリツカレ男』とかの、人の善性やあたたかさを前面に出した話も好きだけれど、『ポーの話』の、不幸と幸福が混沌と入り混じった世界の中で一瞬うつくしいものがきらめくさまを目撃する体験は、唯一無二だったと思う。
少女七竈と七人の可愛そうな大人|桜庭 一樹
耽美で独特な言い回し、特別でそれゆえ孤独な主人公。この小説を好きになるときは、「かぶれる」とか「傾倒する」という言い方がぴったりだと思う。そこそこ好き、とか、まあいいんじゃない、とかは選択肢にない。好きになるとしたらもう、傾倒するほかなくて、大学生のときの私もそんな感じだった。
海に住む少女|シュペルヴィエル
透明な水底をたゆたうような、しずかで透き通った短編集。当時は宮沢賢治の書くものもとても好きで、違う国なのにこんな手触りの似た話を書くひともいるんだなあ、と思った。
■2024年1月現在(33歳)の10選
抱擁、あるいはライスには塩を|江國 香織
引き続き江國さんの家族小説が好き。優雅で、へんてこで、残酷で、あたたかい家族とその周りの人々の話。上下巻あるのでたくさん読めてお得です。
柳島家の様子はとても浮世離れして奇妙に見えるけれど、でもそういえば家族ってもともとそういうものだよなあ、ということが、読んでいくうちに胸に迫ってくる。
大きな鳥にさらわれないよう|川上 弘美
滅びに抗う人類と、それを見守る存在の話。
無宗教だけど、こういう話に出会うと自分のための神話を見つけたようでうれしくなる。
猫を抱いて象と泳ぐ|小川 洋子
とてもしずかな話。物語の隅から隅まで、世界の隅っこにいる人々への優しいまなざしと、主人公たちのひたむきさと、しんとした冷たい場所の気配が同居していて、読むたび感情が激しく揺さぶられる。
結ぶ|皆川 博子
幻想小説というジャンルを教えてくれた1冊。
私の場合、小説を楽しむ要素ってストーリーや登場人物の心の機微のほかに、「文章の美しさやリズム」「文章から想起されるイメージや印象(情景や出来事よりもっと曖昧模糊とした、ムードのようなもの)」がかなり大きいのだけれど、皆川さんの文章は後者の力がとても大きくて、吞まれそうになる。耽美で、力強くて、深い海の底をのぞき込んだら怪物と目が合ったような、そんな気持。
ハルカ・エイティ|姫野 カオルコ
人生を美しいものだと感じたい、という気分のときにきまって手が伸びる小説が3冊あって、その中でもいちばん元気が出る話がこれ。(ちなみにほかの2冊は桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」と同じく姫野カオルコの「リアル・シンデレラ」)。
BUTTER|柚木 麻子
食べることの喜びと、自分を慈しむことの難しさと、一筋縄ではいかないのに愛おしい人間関係と、つまりは「生きること」そのものについて書いた話なのだと思う。
柚木さんの食べものの描写を読んでいると、自分のそれがあまりに即物的なものに思えてもどかしくなる。
ののはな通信|三浦 しをん
大人になってから読んだなかで、いちばん泣いた本だと思う。
読み心地はちょっと、『ハルカ・エイティ』に近いかも。
プロジェクト・ヘイル・メアリー|アンディ・ウィアー
激アツという言葉はこういう小説のためにあるんじゃなかろうか。
主人公の人間臭さと高潔さのバランス、オタク感が大好き。こういう社会人になりたいと読むたびに思う。仕事にくさくさしたときはこれをぱらぱら読んで、自分を奮い立たせることが多い。
風の万里 黎明の空|小野 不由美
十二国記のなかでも政治や社会の在り方が色濃く書かれているものは、大人になってからより刺さるようになったなあと思う。『風の万里 黎明の空』とか、『黄昏の岸 暁の天』とか。
絡新婦の理|京極 夏彦
京極堂シリーズに出てくるおんなたちは誰も彼も一筋縄でいかない感じがして大好きなのだけれど、その様子がいちばん楽しめるのは『絡新婦』だと思っている。
女学校に寄宿舎に旧家の闇にオカルトに、好きな要素がてんこ盛り。
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