ヴィパッサナー瞑想センターの10日間コース合宿まとめ
はじめに
このレポートは、2019年7月に千葉県にあるヴィパッサナー瞑想センターで開催された10日間コース合宿に参加した体験談です。
ヴィパッサナー瞑想とは
ヴィパッサナー瞑想は、2500年以上前に釈迦が説いたとされる原始的な瞑想法です。呼吸に集中することで心を落ち着かせ、身体の感覚を客観的に観察することで、無常、無我、苦といった真理を体感することを目的としています。
合宿の概要
合宿は10日間で、費用は寄付のみです。参加者は男女別々に生活し、沈黙を守り、一切のコミュニケーションを禁止されます。食事は菜食で、朝と昼のみです。
ヴィパッサナー瞑想について
「Vipassana」はパーリ語で観察するの意味。具体的にヴィパッサナー瞑想では身体と心の「感覚」を観察し平常心と忍耐力を養う。あらゆる感覚を平常心で観察し続けることで無常・無我・苦をリアルに体感できる。
例えば、かゆいから掻く反応の代わりに観察すると痒みが収まったりする。足の痺れに反応して姿勢を変えることを我慢し観察すると、重みや痛みや開放へ感覚の変化を感じられる。
S. N. ゴエンカ師(Satya Narayan Goenka):ミャンマーのレディ僧院の長老・上座部仏教僧侶レディ・サヤドーから受け継いだ瞑想法を弟子の弟子のウ・バ・キンからミャンマーで学ぶ。その後、ゴエンカ師がインドに持ち帰ってから瞑想センターが世界に広まる。
日本では師のアシスタントティーチャーによる合宿形式の指導が瞑想センター「京都ダンマバーヌ」と「千葉ダンマーディッチャ」と「北海道ニセコ」の3拠点で開催されている。
注:レディ・サヤドー>テッ・ジ>ウ・バ・キン>ゴエンカ>瞑想センター
合宿と費用について
合宿には10〜30日間迄あるが長期合宿は熟練者のみ参加が認められる。ここでは初心者も参加できる10日間コースについて記す。費用は合宿終了後「寄付のみ」で参加費等はない。前日夕方着、最終日明け翌朝に片付け後出発・合計12日現地にいることになる。
参加者は男女30名ずつの計60名。「古い生徒」と呼ばれる経験者と「新しい生徒」の割合は1対1。日本人:外国人は5対1で、全てに日本語と英語が用意されていた。男女はエリア分けされ接触禁止。
生徒同士は言葉・身振り・手振りも含めたコミュニケーションを一切行わない「聖なる沈黙」を求められる他、到着初日にスマホや財布を施設に預け、本・MP3プレイヤーなど一切の情報媒体も持込禁止。
スケジュールと10日間コース概要
感想
10日間の合宿は、想像以上に苦しく、同時に楽しい経験でした。長時間座り続けるのは辛く、空腹も感じましたが、瞑想を通して自分自身を見つめ、観察することで、多くの気づきを得ることができました。毎日10時間瞑想する他は寝るか散歩くらい。ご飯は菜食で朝・昼のみ。「新しい生徒」はティータイムに果物が食べられるが「古い生徒」はレモン水のみ!と、よりストイック。
初日から3日目まではアーナパーナ瞑想(Anapanasati):自然な呼吸に気づく集中瞑想を行いつつ、身体の一部の観察を行い4日目からの本格的なヴィパッサナー瞑想への準備期間。と言っても約30時間の瞑想となる。
4~9日目まで「指導・決意の時間」=アディッタナー(adhitthana)朝・昼・夕の各1時間・計一日3時間は、瞑想に集中する目的で姿勢も変えない決意が求められ、困難でも最低限、瞑想ホールに留まるよう促される。
最終日は日常生活へのリハビリ期間。「聖なる沈黙」は解かれる。無言の共同生活を経た生徒同士会話も弾み、共通テーマもあるので趣(おもむき)深い。この日に3つ目のメッター・バーバナー瞑想(metta bhavana sati):慈愛の瞑想の指導も行われる。
体験した感想:とても苦しく同時に楽しかった
私自身の感想もここから率直に書く。確かに10日の文字通りの「修行生活」は辛かったが、考えたり妄想したり観察することは山ほどある。10日間はむしろ短い。
毎日座り続けると足も腰も背中も痛くなるが、座り方は自由なので工夫をすれば痛みにくい座り方も見つかった。これが見つからなかった方は最終日に苦痛について切々と語っていた。
菜食の粗食はお腹が空くが慣れる。空腹の感覚を「痩せてる」と解釈すると嬉しくなるし、客観的に観察し続けるとその中には何もなかった!?(だからお腹が空くんだけど・・・)
学びと気づき:パーリ語と智慧・悟り・観察
ヴィパッサナー瞑想の祖「レディ・サヤドー」から受け継いだ瞑想のため、
S.N.ゴエンカ師によるパーリ語と英語の録音指導が要所で効果的に繰り返しでてくる。夢にも出てくる印象的パーリ語もまとめておく。
パーリ語(巴利語):サンスクリット(梵語)と共に古代中西部インドのアーリヤ系言語。梵語と対比して俗語とされマガダ語と類似する。マガダ国が仏教の保護に熱心だったことから、パーリ語の仏教教典が多数残存する。
無常:すべてのものは常に変化しており、永遠に同じ状態は続かない
無我:自分という固定的な存在はなく、五蘊(色、受、想、行、識)の集まりである
苦:すべての現象には苦しみ(苦・苦諦)の原因(集・集諦)があり、苦しみを滅する道(滅・滅諦)と苦しみを滅するための道(道・道諦)がある
あの仏陀(ブッダ)が悟りを開いた瞑想法であるとされるヴィパッサナー瞑想コース内では、「サンカーラはアニッチャーだというパンニャを自分で経験してダンマを実践する」ように説かれ実践する。
「観察する」最中、観察自体にも変化がおきる過程で、それまでの認識にギャップやズレを体験した事象についても記す。
瞑想合宿100時間の過程で、頭が理解する知識と身体で感じる経験の間にあるギャップに気づいたりズレが起きる。自分自身の観察・実感を経た心身や認識の変化・変容・気付きの機会としても貴重で魅力的だと言える。
コース方式は原始的ヴィパッサナー瞑想に段階的に新技法を追加する。ほぼ毎日瞑想法に発展を加える指導が入る。このため一つの技術のイノベーションも体感でき、指導方法・ファシリテーションの視点でも気づきがある。
効果と変容:仕事や日常生活へのフィードバック
身体:粗食と菜食の生活により、体重が3キロ減った。
仕事:平常心を養うことで、俯瞰視点で見る観察力と忍耐力が向上した。
生活:日常の諸現象にも嫌悪と渇望からの反応より、平静な観察を優先するようになった。
身体へのフィードバック:粗食と菜食の合宿後、体重が3キロ減っていた。食欲も減っているので合宿後さらに1キロほど減っている。ダイエットがうまくいかない。つい食べてしまう癖のリセットにも繋がった。
仕事へのフィードバック:瞑想合宿を経て平常心を養った結果、マネージメントに不可欠な俯瞰視点で見る観察力の向上を実感。忍耐力も付いたので優先タスクの洗い出し・実行も捗り業務推進に不可欠な実行力・リーダシップにも変化が起きる。事実この長文レポートも書けている。
生活へのフィードバック:日常の諸現象にも嫌悪と渇望からの反応より、平静な観察を優先するようになる。元々NVCというコミュニケーション法も取り入れていたが、より本質に近く相手への素直で自然な言葉と行動が出る。
例えば妻が子供に厳しく叱っている場合、妻には休憩を打診し、子供には妻の目的を話しつつ気分転換の外出が自然と誘えるようになる。結果、夫婦仲も良くなり、育児も捗っている。
初参加者へのアドバイス
睡眠対策:耳栓があると良い。
痛み対策:体が硬い方は、入念なストレッチを行う。
講話:事前にブッダに関する書籍を読んでおくと、理解が深まる。
睡眠対策:寝室がドミトリーとなり同室に約15名が寝起きする。長時間の瞑想の疲れによるイビキや潜在意識との対話による寝言は少なくない。寝付きが悪い方には耳栓が必須。
痛み対策:瞑想マットとクッションはあるが100時間に及ぶ長時間の瞑想となる。体が硬い方や、下半身の関節にトラブルがある方は入念な準備を行っておくと良い。
講話:毎日19時からブッダや悟りやニルヴァーナに関する講話が1時間30分ほどあるので手塚治虫の「ブッダ」を。時間がない方は我王が出てくる「火の鳥 鳳凰編」と「火の鳥 宇宙編」をマンガかアニメでチェックするのがオススメ。苦しみ・無常・無我に関してより深く味わえる。
最後に:
10日間という長い時間をかけて行うヴィパッサナー瞑想合宿は、自分自身を見つめ、変容する貴重な機会です。時間がない方でも、1日コースや3日間コースなどもあるので、興味のある方はぜひ参加してみてください。
その他
ヴィパッサナー瞑想センターのウェブサイト:https://www.dhamma.org/ja/
ヴィパッサナー瞑想に関する書籍:
S.N.ゴエンカ著『ヴィパッサナー瞑想の実践』
ジョセフ・ゴールドスティン著『ヴィパッサナー瞑想入門』