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架空旅行記A#11

警察沙汰の大騒動を乗り越え
私たちはBENDERに戻っていた。

2つのテーブルにメンバーが2人ずつ座り
私と友人はその様子を見守るように
腕組みをして立っていた。

我々が止めに入った後、
何故だか責任者扱いをされ、
まあこっぴどく叱られた。
檻の中で一晩過ごすか、
しっかり監督するかどちらかだぞ!と。

何故、止めに入った我々が
檻の中なのだ…。
とは思ったが
まあ皆、頭に血が昇っていたのであろう。
とにかくひたすらに謝り
どうにか事なきを得たといったところだった。

友人は何やら怒鳴りながら
メンバーの頭を叩き、
1人ずつ抱きしめていた。
その目尻には薄っすらと涙が溜まっているのを
私は見逃すことが出来なかった。

とりあえずBENDERに行くぞ、
と我々はゆっくりと路地を歩いた。
こんな時、街中に戻れる場所があるって
なんだか素晴らしいな、と
皆の背中を見ながら思った。
だってこれがコンビニの前とかだったら
なんだか格好がつかないじゃないか。

友人は腕組みをしたまま
何やら色々と問いかけていた。
恐らく何があったのかを探っているのだろう。
話を聞いているとどうやら
ドラムの彼とボーカルの彼が
揉めているようだった。

やはり韓国人がガチで話していると
何を言っているかわからないので
私は彼らに仮称をつけることにした。
彼らの名前が入ってこないほど
あの時の私は腹が減っていたのだ。

しかし、まあ、
変な名前を付けて逆にわからなくなっても
良くないのでわかりやすくいくことにした。
ドラムの彼はD、ボーカルはV、
ギターはG、ベースはチャン。
ほら、良い感じではないか。
担当の頭文字ではあるものの
VだのGだの、なんともニックネーム然としている。ベースの彼は顔がチャン顔なので
非常にわかりやすい。
自分を褒めたいところだ。

「ふざけんな!この野郎!」
「うるさい!俺だってちゃんとやってんだ!」

VとDがテーブル越しにまた掴み掛かろうとしている。おいおい!と私と友人が割って入った。
…はぁ、全く収まる気配がないな。

まあまあまあ、と言って
私はひとつ提案をしてみた。
「とりあえずみんな、飲み直そう。私とVでコンビニで酒買ってくるから、ちょっと待っててね!ほら、行くよ!」

と何となく英語で言い、友人が訳した。
持つべきものは友とは
まさにこのことだな。

大量のビールとソジュ、
そして簡単なアテをビニール袋にぶら下げ
私はコンビニの前に立っていた。
なにやらVがお金をおろしたいから
少し待って欲しいとのことだった。

あまりにも袋が重かったので
コンビニ前に設置されたテーブルに袋を置き
椅子に座って待つ事にした。
もういいや。煙草も吸ったれ。
ふぅ…やはり呼ばれていたんだな。
こんなの友人1人じゃ捌ききれないだろう。
吐いた煙が夜の街に溶けていく。

Vが出てきて横の椅子に腰をかけた。
見るとなんだかうつむいている。
私は袋からビールを一本差し出し
自分の分をプシュっと開けた。
頭を冷やすにはやはり時間が有効だ。

どうしたのよ?と聞いてみると
Vはゆっくりと話を始めた。
気を遣ってくれているのだろう。
これならわかりやすい。
どうやらDがちゃんと曲も覚えてこないし
あまり上手じゃないと不満があるみたいだ。

「まあでも、彼もちゃんとやろうとはしてるんじゃない?練習もしてると言ってたじゃん。」

「…、本当はわかってるんです。あいつが努力してることも。みんな気を遣ってくれてることも…」

「じゃあなんでそんなに怒るのよ?慌てても仕方ないじゃない?時間は必要だよ。」
ビールをクッとあおる。

Vははぁっと大きな溜息をついて
頭を抱えて下を向いてしまった。

少し待っていると
鼻を啜っている音が聞こえた。
Vは泣いていた。
泣きながらボソボソと何かを言っているが
あまりよく聞こえない。

「どうしたよ?まあ落ち着けよ。時間はある。」
私はそう伝えるが、頭を抱えたまま溜息をついている。

黙ってビールを飲み待っていると
アイシッと声を張り上げ
体を起こし袖で涙を拭った。
前を向いたまま、呼吸を整え
はっきりと話だした。

「マイ ファーザー ダイド ラストイヤー、アイ ハフトゥ クイッ ザ バンド。アア…チンチャシロヨォ…。」

途中から声を震わせて言った彼の頬を
涙が伝っているのがはっきりと見えた。

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