秋めく
毛布が気持ちよい季節になって、朝に布団から離れるのが億劫......のはずが、そうでもない。
今朝も、冬の星や金星を見たさに、すぐに布団を剥いで冷たい窓に手をかけた。
細い月と金星の並びが美しかった。
星を知るようになってから、“早朝”は私にとって憧れの時間帯になった。
人々が寝静まっている間、次の季節の星座たちが南の大広間でひっそりと宴をひらく。
まだ会えないと思っていた惑星が、ひょっこりと顔を出して参加することもある。
有明の月や満月の白く透けていく姿に切なさを覚えたり、明けの明星が指揮をとって東の空に魔法をかける瞬間を、今か今かと期待して待ったり。
時には、流星群が多く飛びだすタイミングがその時間帯だったりする。
早起きは苦手だけれど、早い時間にアラームをかけておくことはしない。(アラームを止めるのが遅く、近所迷惑になると困るので)
本当にたまたま目が開いたら、ラッキーチャンス。
眠気におされて瞼がくっ付かないうちに、「はやく見ないと見逃してしまう!」という焦りを信号に変え、頭から足に素早く送る。
どんなに冷え込んだ朝でも布団から一目散に出て、「晴れていますように」と願いながらそっとカーテンを引く。
朝ごはんの時間が待ち遠しい。
温かいものを生みだす前の台所には、足を踏み入れるのにためらうような静かな世界がある。
眠っていた家電製品や出番を待つお皿たちの息づかいが残っているから、蛇口をひねってシンクに水が流れ出すまでの間、いつも少しだけ緊張する。
お湯を沸かし、フライパンをコンロの上に置く。
卵。勢い余って黄身を割らないよう、適度な力で殻を広げてフライパンに落とす。
半熟が好きなので、火加減にも注意。
さくら色のぷるぷるを作るつもりが、うっかりかちかちの黄色いお月さまになっていることもある。
朝はお米派。一杯しっかり食べると、満たされた気分になって力が湧く。
フルーツやヨーグルトを添えることもある。酸味が、ちょうどよい刺激。
夏場は熟しすぎないよう、まとめ買いしたフルーツを冷蔵庫に入れていたので、涼しくなって常温で追熟させる楽しみを感じられるのは嬉しい。
お気に入りはキウイ。
鳥の姿をよく見かけるようになった。
大人たちよりも忙しなく子どもたちよりもはつらつとした甲高い声を響かせて、ヒヨドリやセキレイたちが今日も朝から飛び回っている。
夏の間はぼーっと羽を休めていた公園の鴨たちもすいすいと機嫌良く泳いでいるし、田んぼで直立していた白鷺たちも、真っ白い羽を陽の光に反射させて黄金の田畑をすーぃと横切る。
父の庭の金木犀が、ようやく香りだしたようだ。
街中の陽当たりのよい場所に立つ木々も赤く染まり始めた。
先日公園で見かけたイチョウはまだ若々しい黄色をしていて、点々と灯った葉が真昼のイルミネーションのようだった。
職場の行きと帰りに見かけるコスモスは、ピンクの濃淡が空の青さに映えて、やさしくて可愛らしい。
両手を伸ばして、踵を浮かせて、ゆったり深呼吸。
爽やかな朝を、幸せを噛みしめる。