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意外と知られていない接客で大切な「連想」の力

今日は意外と知られていない「連想」の力について、実際に起きたエピソードを基に解説します。

優秀なセールスマンは、皆、この力を巧みに使いこなしています。

早速、まずはエピソードから始めますが、どこの会話が、なぜおかしいのか考えながら読んでみてください。

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去年の大晦日に、家族で宝塚ホテルにあるそこそこ高級な鉄板焼のお店へ行った。

若く爽やかなスタッフに案内されて席に着き、まず飲み物を選ぶ。

僕と姉はお酒を飲まないので、ちょっと贅沢して1杯1600円のぶどうジュースを注文した。

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ワインと見間違うような濃厚なぶどうジュース。

するとこの若くきさくなスタッフの方_____仮にTさんとしよう_____がペラペラと話し始めた。

「あぁこのぶどうジュースはいいですねぇ。僕には甥っ子がいるのですが、このぶどうジュースを一本プレゼントしたら、まだ2才なのに今ではもうこれしか飲まなくなってしまったんですよ~」


この発言に僕はどこか違和感を覚えた。

でもまぁ気のせいかなと何事もなかったかのように、その後、またいろいろな話をしながら一通り料理を出してもらい、

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肉を食らい、

最後にしめのデザートで真っ赤なアイスが運ばれてきた。

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「まぁ真っ赤なこと」
「このアイスは何のアイスなんですか?」

姉が訊ねた。

Tは答える。

「こちら、スーパーなどで売っている赤い果肉で作られたアイスです!」


■無意識に働く恐ろしい「連想」の力

Tさんの接客はなぜいけなかったのか、少しずつ紐解いていきます。

まず鍵となる「連想」の力とは何かを知ってもらうために、「敵意のある言葉」にさらされたら人の攻撃性はどう変化するのかを調べた実験から検討していきましょう。

その実験では、参加者にばらばらの単語を並べ替えて意味の通った文を作るという課題を、30問行ってもらいました。

実験参加者のAグループが取り組んだ課題では、語順を正しく並べると【攻撃性】と結び付く文になるものがほとんどでした。

例えば、「叩く・彼が・彼らを」では「彼が彼らを叩く」になる、といった具合です。

残りBグループが取り組んだ課題は、攻撃性とは結び付きません。例えば、「修理する・その・扉を」では「その扉を修理する」になる、といった具合です。

この課題を終えた後、全員が別の課題に参加しました。その課題で参加者は、別の参加者に20回の電気ショックを与えなければならず、その電気ショックの強さも自分で決めなくてはなりませんでした。


さて、この電気ショックの強さはどうなったでしょうか?

結果は、あなたが今想像しているようなとても不安を覚えるようなものでした。

先に「暴力と結び付く言葉」に触れていたグループの方が、選ぶ電気ショックの強さが48%も大きくなったのです!

……

……

……

もちろん、こんな話を聞かされただけではとても信じられないと思います。

暴力的な言葉に触れただけで、その人の攻撃性が増しただと?そんなわけあるか。エビデンスをただ提示しただけで納得してもらえると思うなよ。

僕は思いました。

しかし、この手の研究は驚くほどたくさんあり、だんだんと自分のことが信じられなくなっていきます。


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例えば、この写真を見てください。マラソンで優勝した瞬間のランナーの写真です。

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この写真はあるイメージを僕たちの無意識に働きかけてきます。


カナダの研究者たちが、コールセンターで行われている募金活動の集金率を上げるためのプロジェクトを実施しました。

オペレーターは皆、始業時に、勧誘しているある地元大学が寄付したくなるような意義の書かれた情報を受けとります。

一部のオペレーターにはその情報を白い紙に印刷して渡し、他のオペレーターには同じ情報を、「優勝した瞬間のランナーの写真を載せた紙」に印刷して渡しました。

研究者たちは、その写真を前もって示しておくことで、「目標達成」と結びつく考えを引き起こそうとしたのです。


さぁ、結果はどうだったでしょうか?

写真を示されたオペレーターが3時間の勤務時間中に集めた寄付金は、それ以外の条件がまったく同じだった同僚より、60%も多くなったのです!

写真を見た人は「目標達成」と結び付いた考えが浮かびやすくなり、同時に生産性も向上したのでした。

他にも、複数の研究が示すところによると、「目標達成」を暗示する単語「勝利、成就、成功、習得」にほんの少し触れるだけで、割り当てられた作業の成績が良くなり、その作業の継続する意欲も2倍になったそうです。


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「連想」についての様々な研究結果を読み進めていくうちに、僕自身、半信半疑になっていました。いや少しずつ気持ちが傾いていたかもしれません。

となると、会社のビジョン・ミッションやスローガンなど、大事にしている価値観の書かれた紙が貼られているのをたまにオフィスで見かけますが、あんなの何の意味があるんだよと内心思っていましたが、実は効果があるのかもしれません。

最初にちょっとした言葉に接しておくだけで、無意識にその言葉が持つイメージを連想し、そのイメージ通りに少し動かされてしまう。

これが恐るべき「連想」の力なのです。


■営業で使ってはいけない言葉

先ほど「目標達成」と結びつく肯定的な言葉やイメージを紹介しましたが、気を付けなければならないのは、否定的な連想も簡単に生じてしまうことです。

例えば、前回UPした記事でありがたいことにたくさんの方にコメントしていただけたのですが、意味は同じでも、僕に与えるイメージが正反対な言葉を使っているコメントがありました。

この二つです。

●「価値観が似ていてすらすら読めました」
●「共感できるところがあり、さささーと全部読んでしまいました」

注目してほしいのは当然「すらすら」と「さささーと」の部分です。

この二文では伝えたいことは同じですが、それでも「さささーと読んだ」と言われると、「あぁ適当に流して読まれちゃったのかな」と一瞬思ってしまいました。

後者の方はとても丁寧にコメントしていただけたので、決してそんな意味で言ったわけではないはずですが、それでもそんなイメージを連想してしまったのも確かでした。

(※もしかしたら後者の方がこれを読んでくださっているかもしれませんので、弁明させてください。ディスっていません!本当に……勝手に出してしまって申し訳ございません。コメントをいただけるだけで本当に嬉しく思っています。じゃあ書くなよって話だと思うのですが、物書きとしての性が発動してしまいました。嫌な気分にさせてしまっていたら本当に申し訳ございません)

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話を戻しますね。

英語圏の中古車・販売員は車の説明を行うときに、「ユーズド」(使い古した)という、くたびれてボロボロというイメージと結びつく言葉ではなく、「プリオウンド」(所有されていたことがある)という、所有することや所有権といった考えへの橋渡しをする言葉を使うように教えられます。

民間航空会社では、飛行中に乗客と話すとき、「死」と結びつくような言葉を避けるために、終末という意味のある「ターミナル」(あなたの最終目的地)ではなく、「ゲート」(あなたの目的地)になるべく言い換えるようにします。

このように、接客では、自分が伝えたいメッセージを相手に受け入れてもらうために、そのメッセージで生じる「連想」を操る言葉を使わなければならないのです。


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最後に、歴史上最も成功した生命保険の営業マンであるベン・フェルドマンの話をしましょう。

彼はメタファーによる連想の達人でした。

例えば、彼が描いてみせる人生の終わりは、人は死ぬのではなく人生から「退場」します。

これは【自分が将来、家族に対して果たすべき責任を成し遂げられなくなる】という連想を有利に働かせるための特徴づけです。

そして、その後すぐに生命保険を解決策として表現します。

「あなたが退場するとき」

フェルドマンは言います。

「あなたの生命保険のお金が入場します」

生命保険を契約することの道徳的責任を、メタファーによって語るこの話に触れると、お客さんの多くが背筋を伸ばして〝正しい道を歩んだ〟のです。


■Tさんの接客はどこがいけなかったのか

少し長くなってしまいましたが、これまでの話を基に、冒頭に書いたTさんの発言を振り返ってみましょう。

今だとどこがおかしかったのか、僕がどういう悪い印象を受けてしまったのかがもうわかるはずです。

「あぁこのぶどうジュースはいいですねぇ。僕には甥っ子がいるのですが、このぶどうジュースを一本プレゼントしたら、まだ2才なのに今ではもうこれしか飲まなくなってしまったんですよ~」


せっかく1杯1600円もする濃厚なぶどうジュースが【2才の甥っ子が飲んでいる】と言われることで、急に子ども向けのジュースのように感じるようになってしまいました。

僕と姉は2才の子どもと同じものを飲んでいるのか、と濃厚さも感じられなくなります。


「こちら、スーパーなどで売っている赤い果肉で作られたアイスです!」


これもどこがおかしいのか一目瞭然ですね。【スーパー】と言われることで、先ほどと同じく急に安っぽく感じられてしまいます。

高いお金払ってるのにそのへんのスーパーで売っとんのかい。産地直送であってくれよ、と。「スーパー アイス」でハーゲンダッツ(≒高級、かつ美味しい)を連想する人はまずいません。

僕は「スーパー」≒この真っ赤なアイスは安っぽくて庶民の味だ、と無意識で連想してしまっていました。


本来なら、

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「こちら、元・宝塚歌劇のスターである紫吹淳さんがお気に召し、1本丸ごと購入されて帰った逸品、濃厚ぶどうジュースでございます」


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「こちら、和歌山県産のブラッドオレンジの赤い果肉を使ったアイスでございます」

などと言うべきだったのです。

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僕たちは食事をするとき、味覚だけでなく、実は視覚、嗅覚、触覚、聴覚などあらゆる感覚を使っています。

例えば、味は同じでも噛んだときの音が悪いとそれだけで「美味しくない」と勘違いしてしまうくらいです。

そして、この「連想」こそが、五感をも支配してしまうほどの強い力を持ちうるのです。

これは情報発信者が自分の有利な方向へ受け手を誘導することができるということです。そして、逆もまた然りなのです。

Tさんは良かれと思っていろんな話をしてくれましたが、「安っぽい」を連想させる言葉を何度も何度も使ってしまうことで、せっかくの高級ディナーが台無し、とはいかないまでも、かなり下げて伝えてしまっていたのでした。

言葉の持つイメージを理解していなかったのです。

なので接客や営業をする際は、この「連想」の力にはくれぐれもご注意ください。

「火の用心 言葉一つで 火事のもと」

ってね。

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📖ここからは〝森井書店〟のお時間です📖

✏記事の内容に合った「10年後もあなたの本棚に残る名著」を5分でさくっと紹介するコーナーです✏(vol.3)

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今回、本文をもう少しコンパクトに説明したかったのですが、内容的に1エビデンスくらいだと一方的な説得になってしまい、納得はしてもらえないだろうなと思い、様々な例を出して書かせていただきました。

自分の論を補強するためにエビデンスを入れる人がいます。エビデンスさえ提示すれば説得できると思ってる方がわりといらっしゃいますが、納得してもらわなければ実は効果はありません。なので長くなりました。

……さぁ、それでも「森井書店」はやりますよ!まだまだ書きます、書かせていただきます!森井書店でございます!

今回のテーマは「連想」

紹介する名著は、本文の参考文献でもあるこちら!

ロバート・チャルディーニの『PRE-SUASION(プリ・スエージョン)』です!

ロバート・チャルディーニとは、あの社会心理学の古典的名著『影響力の武器』の著者です。

『影響力の武器』を読んだことない人は今すぐこれを閉じてジュンク堂へダッシュして買ってきてください。Amazonでは待てません。

いいですか?

買いましたね?


はい、続けます。

『プリスエージョン』は、影響力研究の第一人者であるロバート・チャルディーニによる33年ぶりの単独書き下ろしです。

僕にとって、前作である『影響力の武器』は今まで1000冊以上本を読んできた中でもとびっきりの一冊です。

特に大学生の頃、使い倒しました。そんなバイブルの続編が33年ぶりに出たら、買うっきゃないです。翻訳が少し粗いところは残念でしたが、本当に素晴らしい本でした。


ところで、僕この本が出たとき、かなり驚きました。

なぜかというと、著者のチャルディーニがまだ生きているなんて知らなかったからです。

『影響力の武器』は世界中で翻訳され、僕が生まれる前から読まれ継がれている名著です。

それだけに僕の中で、チャルディーニは『人を動かす』のカーネギーとかと同じ括りに入れていました。

だから、当然もう亡くなっている偉人だとばかり思っていました。
(39歳という若さであの超大作『影響力の武器』を出していたみたいです。本当にすごい!)


そんなチャルディーニがなぜ33年間もだんまりを決め込んでいたのか?

『影響力の武器』は世界的ベストセラーとなったので、おそらくたくさんの編集者から「次うちで出しませんか?」と言われていたはずです。

それを33年間、断り続けたのはなぜか?

これは僕がこれから書くつもりの"チャルディーニの凄み"とも関係してくるのですが、チャルディーニはこう述べています。


「『影響力の武器』の出版以来、多くの人から、私が長い間単著を書いていない理由について尋ねられました。

じつは、単著にするほどの大きなアイデアを持ち合わせていなかった、というのが本当のところです。

『影響力の武器』という一本の木の周りに低木を植えていく作業は、私の性に合いませんでした。もう一本、別の大きな木を植えたかったのです。

そして、ついにこの新しい本のトピックのなかに、大木になる木の種を見つけました。それが、このたび出版の運びになった『プリスエージョン』です」


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一度はベストセラーを出したものの、消えていく自己啓発・ビジネス書の著者はたくさんいます。

その理由は

「1冊目と似たような本を書いてしまうから」

です。

正確に言うと、「1冊目の劣化版」を書いてしまうからです。

例えば、「営業」の本がベストセラーになると、「うちでも営業の本を出しませんか?」となります。(これは新しいコンセプトを提示できない編集者も良くないですが)

それを続けていくと、2冊目、3冊目になるにつれて、どんどん密度の薄い本ができあがっていってしまい、次第に売れなくなってしまうのです。


若干、話は変わりますが、「1を超えられるか」というのは全クリエイターの宿命であって、読者の方も気付いてるとは思いますが、やはりヒット作の続編は面白くない場合がほとんどです。

もちろん、『夢をかなえるゾウ』や映画で言うと『ダークナイト』、アニメだと『トイ・ストーリー3』といった前作を超えた傑作をもちろんあるにはありますが、かなりわずかであり、これは作り手として本当に難しいことでもあります。

それだけに、同じテーマを書くという〝一本の木の周りに低木を植えていく作業〟は、自分の作家寿命を削っていくことにもなりうるとてもリスクのあることなのです。

ではどうすればいいのか?

「しっかりと勉強しなおして、違うテーマで1冊書ききれる分野を見つける」

です。

それをやっている素晴らしい著者さんはわずかですが、間違いなくいます。

例えば、故・瀧本哲史さんちきりんさんがそうです。

お二人は明確に「同じテーマは書かない」と決めて、本作りをしてきました。

たまたま同じゼミの先輩に、ちきりんさんの3部作『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』『自分の時間を取り戻そう』を担当した編集者の方がいまして、あるとき、

「ちきりんさんはなかなか本を書いてくれないんだよー」

とおっしゃっていたことをとてもよく覚えています。

だからこそ、長い期間、売れ続ける本を出すことができ、どの本も面白いんだろうなぁとそのスタンスにとても感銘を受けました。


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チャルディーニの話を戻しましょう。

今日ここで僕が話したかったことは一つ、〝チャルディーニの凄み〟についてです。

チャルディーニの書く本のすごいところは

「本に出てくる話が全て面白い」

です。

『プリスエージョン』は約500ページあります。なので山ほど具体例が出てくるんですね。

翻訳書を読んだことある人ならわかると思いますが、これは翻訳書ではよくあることで、例えば、1つのテーマを説明するために具体例が10個出てくるとしましょう。

もし具体例の3つ目でそのテーマを理解することができれば、4つ目以降の話は読み飛ばしても問題ないのが翻訳書の特徴だったりします。

僕も基本的には分厚い翻訳書は隅から隅まで読むことはあまりしないのですが、チャルディーニ本は別です。

例えば、具体例3つ目で理解できて、4つ目以降読む必要がなかったとしても、思わず全部読んでしまいます。

なぜなら、その具体例がいちいち全部面白いからです!!!

読み物として面白いから、仮にもう読む必要がなかったとしても、読まざるを得ないんですよ。むしろ、もっとくれ!もっとくれ!となってしまいます。

これがチャルディーニの凄みです。

これがどれだけすごいことなのかは、作り手ではない人にはもしかしたらうまく伝わっていないかもしれません。

例えて言うならば、

●幕の内弁当に入っている具材が全て美味しい
●クラスの女子が全員可愛い
●大谷翔平が9人いる野球チーム

みたいなものです。


ここからは僕の勝手な想像ですが、チャルディーニはこれを意図してやっていると思います。

つまり、推敲の段階で

「弱いエピソードを強いエピソードに全て書き直している」

はずです。

そうすることによって、「より強度のあるコンテンツ」を作ろうとしているのです。

これも普段文章を書かない人からしたらちょっとわかりにくいと思いますので、チャルディーニから学んだ僕が実際にやった「弱いエピソードから強いエピソードへの書き直し」をお見せします。

今年noteを始めたとき最初に書いた「もしもこんな数学教師がいたら、勉強を好きになっていただろう」の冒頭での話です。

「何かをする際は、"意味"を理解しておくことが大事だよ」という話を裏付けるためのエビデンスを書き替えました。

「意味」の実験として、どちらがより"強い"のか見比べてみてください。


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【A】(書き替え前)

レゴを使った実験です。

レゴ愛好者である実験協力者を集め、レゴを組み立ててロボットを作ってもらいます。協力者にはロボットを1体作る毎、報酬が支払われます。レゴ好きにとってはこれ以上ない楽しい仕事です。ただもらえる報酬は1体作る毎に、少しずつ減っていきます。

Aグループ、Bグループに分けてこの実験を行いました。

違いは、Bグループだけ、ロボットを作り上げるたびに、目の前でそのロボットを壊され、そのレゴで再びロボットを作ってもらうという点です。

さて、AグループとBグループとでは平均何体作ったでしょうか?差は出るのでしょうか?といった実験です。


結論から言うと、「意味あり条件」のAグループでは平均10.6体ものロボットを作り上げました。

「自分はレゴのファンで、この仕事は本当に楽しかったから、友人にも勧めたい」と、ある協力者は答えました。

それに対して、作り上げたばかりのロボットを目の前で壊されるBグループでは、作る意気ごみやワクワク感は明らかに削がれていました。

Aグループでは平均10.6体作ったのに対し、Bグループでは平均7.2体しか作りませんでした。

「意味なし条件」だと、Aグループのたったの68%しか組み立てなかったのです。

実験協力者は言います。

「レゴで遊ぶのは好きだけど、この実験は、そう楽しいってほどじゃなかった」


このことからわかることは、何かをするのが好きな人たちを集めて、意味のある仕事条件に置けば、仕事をすることの喜びに駆り立てられて、自ら進んで労力を費やすでしょう。

ところが、仕事に同じだけの情熱や意欲を持っていても、意味のない仕事条件に置かれると、仕事から得られるはずの喜びが、いとも簡単に失われることがあるということです。


【B】(書き替え後)

今から14文の文章を読み上げます。記憶力を問う問題です。

一回聞いただけで、どのくらい覚えていられるか試してみてください。

新聞は雑誌よりもよい。
海岸は道路よりもよい場所である。
最初は歩くよりも走るほうがよい。
あなたは何度も挑戦するかもしれない。
ちょっとした技術を必要とするが、それらを学ぶのは簡単である。
幼児でさえ、それを楽しむことができる。
一度成功すれば、厄介な問題はわずかなものである。
烏はめったに近づいてこない。
しかしながら、雨にはすぐにびしょ濡れにする。
同じことをしている人が多いことは、問題の原因となりうる。
たくさんのスペースを必要とする。
厄介な問題がない場合、それはとても穏やかなものとなりうる。
石は錨の代わりとなる。
しかしそれから離れてしまった場合、あなたは二度目のチャンスを得られないだろう。

以上です。どうでしょう?しっかり覚えられましたか?

おそらく一行目も忘れてしまっていると思います。ただ、これ、あることを言うと、今よりもはるかに覚えることができるんです。


そのあることとは……

この文章、実は「凧揚げ」について書かれた文章なのです。

それを踏まえた上で、試しにもう一度、読み上げます。再チャレンジしてみてください。

新聞は雑誌よりもよい。
海岸は道路よりもよい場所である。
最初は歩くよりも走るほうがよい。
あなたは何度も挑戦するかもしれない。
ちょっとした技術を必要とするが、それらを学ぶのは簡単である。
幼児でさえ、それを楽しむことができる。
一度成功すれば、厄介な問題はわずかなものである。
烏はめったに近づいてこない。
しかしながら、雨にはすぐにびしょ濡れにする。
同じことをしている人が多いことは、問題の原因となりうる。
たくさんのスペースを必要とする。
厄介な問題がない場合、それはとても穏やかなものとなりうる。
石は錨の代わりとなる。
しかしそれから離れてしまった場合、あなたは二度目のチャンスを得られないだろう。

どうでしょう?二回目は最初と比べてかなり覚えやすかったのではないでしょうか?

これは記憶心理学の実験で、「凧揚げの文章です」ということを知っているグループと知らないグループに分けて覚えてもらい、結果を比べてみたら、あらかじめ何の文章なのかを知っているグループの方が、はるかに覚えていられることがわかりました。

「凧揚げの文章である」ということを知っているかどうかだけで、たったこれだけで同じ文章を読んでいるにも関わらず、「学習と記憶」に大きな変化が生じるのです。

つまり、学習には「なぜ、それをするのか」という動機がとても大事で、勉強する意味や、何に役立つためのものなのかといったはっきりとした意義や意味を理解していないと、勉強しても身に付きにくいということなのです。


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いかがだったでしょうか?

以上、2つのエビデンスを紹介しました。初稿では、一つ目の話を使っていたのですが、入れ替えることにしました。

「レゴ」の話は、決して悪くないですし、僕の中では使ってもいいラインをクリアしたものです。

ただ、おそらく明日の朝にはあなたの頭の中から消え去り、もう忘れていると思います。


しかし、「凧揚げ」の方はどうでしょうか?

一度聞いたらなかなか忘れられないはずです。少なくとも僕は忘れませんでした。

これを聞いているあなたも、来年のお正月に甥っ子と凧揚げをしたときに、実はこんな実験があってね、と語り出すことができるかもしれません。

なぜなら、あなたの記憶に粘り付いているからです。

このように〝強いエピソード〟とは記憶に粘り付きます。これを「コンテンツとして強い」「強いエピソード」「強度がある」などと僕は呼んでいます。

文章をより面白いものにしていくためには、この弱いエピソードを、より記憶に粘り付くような強いエピソードに書き替えていくことが必要不可欠なのです。


そして、それを500ページかけてやったのがロバート・チャルディーニなのです。

そろそろチャルディーニのすごさが伝わってきましたか?ふふふ。


(ちなみに、これを漫才で徹底的にやったのが芸人・霜降り明星です。

2017年、霜降り明星はM-1に予選で落ちてから、単独ライブを毎月やり、毎回必ず「豪華客船」という設定のネタをやっていました。

特筆すべきなのは、このネタ、毎月、中身のボケは全部変えていたということです。

毎月ネタを変えるのではなく、設定は同じにして中身だけ変えていたのです。

そのため、年末にいくにつれて、単独ライブでの「豪華客船」のネタはどんどん面白くなくなっていきます。当然です。面白いボケを出し尽くしてしまい、ウケるボケが無くなってきたからです。

そして、迎えたM-1本番当日。

ものすごく重要な最初の笑いとなるつかみの「ボラギノールのCMかっ!」というボケは、単独ライブの最後の月に思い付いたものだったのです。

最後の最後の最後まで頭を悩ませ、考え続けたからこそ生まれた笑いだったのです。

そして、彼らのネタがあそこまでウケたのは、毎月やっていた単独ライブでよりウケたものを取り入れ、〝弱いボケ〟を全て〝強いボケ〟に入れ替えていったからこそだったのです。

霜降り明星はチャンピオンになるべくしてチャンピオンになったのでした。

この話を聞いて、分野は違えど一作り手として本当にすごいなと感動しました。これは絶対に真似せねば!!!、と僕はめちゃくちゃ影響を受けたのでした)


(※ちなみに特に物語では全て"見せ場"みたいなシーンの連続はよくありません。逆に単調になってしまい、盛り上がりに欠けることになるからです。

僕の大好きなアクション映画『イコライザー』では、敵をばったばったやっつけるシーンの前に、ものすごくのほほんとした草野球のシーンが出てきます。最初見たとき、なんでこんな不必要なシーンがあるのかなと思っていたのですが、これはこのあとに続く見せ場をより引き立てるためのものだったのです。

あえてつまらない話やノイズを入れることによって強いエピソード(見せ場)をさらに盛り上げることができるのです)


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……熱くなって書き過ぎてしまい、もう約束の5分を余裕で過ぎていました。前回、3分をはるかに超えて話し続けたら、コメントでクレームが入ってしまったのを忘れていました(笑)

本の内容や「連想」についてまったく書けなかったですが、ここでは好き勝手しゃべると決めているので、ロバート・チャルディーニへの熱い想いは伝わったでしょうか?

「ちょっと聞いて聞いて!こんなおもろい本があって、その著者はこんなすごいところがあるねん!」と友達に思わず話してしまうようなテンションでやらせてもらっています。論理性とかわかりやすさより「ちょっと聞いてくれー!!!!」です(笑)

ちなみにダニエル・カーネマンの名著『ファスト&スロー上』の第4章は「連想マシン~私たちを誘導するプライム(先行刺激)~」で、がっつり「連想」についてなのでそこも要チェックです!


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本当にこれで最後となりますが、

先ほど「連想」について書いた本文の最後に、こちらの家族写真を付けて終えました。

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なんで急に家族写真?(しかも自分の映りが悪い)と疑問に思われた方もいるかもしれませんが、

僕の中でこれはしっかりとした意味があります。

なぜこの家族写真を入れたかというと、本文の内容が僕の作り上げたい世界観(「優しくて易しい社会科学」)と少しずれていたためです。

Facebook全盛期時代から家族写真を稀にSNSにあげるのですが、UPするとどうなるかというと、僕が家族と仲が良いと思われます。森井家が幸せな理想の家族だと思われます。

一切、仲が良いなどという発言をしたことがなくても、です。

つまり、(SNSでの)「家族写真」はそれだけで「仲良し」「ほっこり」というイメージを持っているということになります。


今回の記事は、だめな接客をした人を例に出し僕が解説する、という見る人によっては「お前がなんぼのもんじゃい!」と思った方もいるかもしれません。上から目線で何解説とかえらそうなことしてんねんと。

その通りなんですよ。僕も書きながらえらそうだなぁ……と思っていました。

僕が作り上げたい世界観とは少しずれていたので、最後に家族写真を見せることで、

「あぁそうだった、これは家族ご飯での出来事だったんだ。仲良さそうでいいなぁ、ほっこり!」

というイメージを読者の頭の中に連想させて終わらせたかったのです。


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今これを読んだ方は「へぇー!そんな意味があったのか!」と思われたかもしれませんが、

正直言うと、ごめんなさい、効果があるかはまったくわかりません(笑)

でも、いいんです。自分で仮説を立てて検証し、人間理解を深めていく。

この過程こそに本当の意味があるからです。というかこれが面白いんです。

もし良かったら、僕の思い通りのイメージを連想してしまったのかどうか、教えていただけたらとても嬉しいです!(じゃないと検証できないので……)


今回要素を盛り込み過ぎて、何の話をしているのかわからなくなってきたと思うので、まとめると、

本文では
・連想

森井書店では
・同じテーマは書かない
・弱いエピソードを強いエピソードに書き替える
・家族写真の意味

です。


それではまた次回、一緒に人間理解を深めていきましょう。無知から未知へ、いってらっしゃいませ!


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森井悠太
大学生の頃、初めて便箋7枚ものブログのファンレターをもらった時のことを今でもよく覚えています。自分の文章が誰かの世界を救ったのかととても嬉しかった。その原体験で今もやらせてもらっています。 "優しくて易しい社会科学"を目指して、感動しながら学べるものを作っていきたいです。

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