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#448 探究学習の基本となる「高次思考スキル」。学習にどのように実装するかを考える

"Higher order thinking skills (HOTS)= 高次思考スキル"とは、批判的思考・論理的思考・内省的思考・メタ認知的思考・創造的思考のようなスキルです。
これらは、認知・理解・定型ルール使用・単純な分析・単純な応用などの"Lower order thinking skills (LOTS) = 低次思考スキル"の高次に存在しており、教育の分野で用いられる概念です。

高次思考スキルは、もちろん私たちの能力開発の基礎を担う教育分野で重要な概念ですが、私たち大人が自分の頭で考える癖を付ける上でも、非常に重要な概念ですよね。

高次思考スキルは、見慣れない問題、不確実性、質問、ジレンマに直面したときに活性化されます。不確実性が高い社会において「自分で状況に応じて考えて判断と行動ができること」というのは、最強のポータブルスキルです。

一方で、少なくとも私自身は、高校卒業まで高次思考スキルを意識的に学んできたことはありませんでした。大学に入ってはじめて、ゼミや部活動の中で、批判的思考・論理的思考を学ぶ機会を得ましたが、「高次思考スキル」を意識的に学ぶ機会は、仕事を始めてから研修の場で初めて持った、自学で学んだ、という方も少なくないのではないでしょうか。

私は「探究的な学び」を軸として、実際に高校生や大学生向けの授業・ワークショップを設計したり、職場における人財育成に活用してきました。これまでは、より実践的な経験を抽象化して「自論」としてまとめてアプローチしてきましたが、今後は先行研究などの「理論」と「自論」を繋ぎ合わせることで、より立体的・体系的なアプローチを構築していきたいと考えています。

今日は、「高次思考スキル」に関連する2つの文献から、私なりに考えたことを述べていきます。

Ways to integrate Higher Order Thinking Skills into primary and secondary education : Pearson
https://www.pearson.com/content/dam/global-store/global/resources/efficacy/ways-to-integrate-higher-order-thinking-skills-into-primary-and-secondary-education.pdf

Higher Order Thinking Skills:FJ King, Ph.D. Ludwika Goodson, M.S. Faranak Rohani, Ph.D.
https://informationtips.wordpress.com/wp-content/uploads/2016/02/higher-order-thinking-skills_.pdf


「高次思考スキル」の組み込み例

まずは、1つ目の文献「Ways to integrate Higher Order Thinking Skills into primary and secondary education」です。

本文献では、「高次思考スキルとは、観察や事実の暗記を超えて、批判的に考える能力」と定義し、Bloomの分類法を用いて以下3つのスキルを特定しています。

分析(Analyzing):情報や証拠を収集、検討、整理する
評価(Evaluating):判断を下し、批評し、長所と短所を特定する
創造(Creating):情報や証拠の源を統合して結論を導き出したり、新しいものを生成したり、改善を行う

私が面白いと感じたのは、これらを特別な科目として実践するわけでなく、通常の教科学習の中に組み込む工夫が言及されている点です。例えば、「歴史」と聞けば、何となく日本の学校教育を受けてきた私たちは「暗記科目」の印象を受けると思います。しかし「高度経済成長が人間の生活スタイル、キャリア形成にどのような影響を与えたか調査し、論拠を構築する」といったテーマとすれば、分析・評価・創造を組み込むことができるほか、単純な暗記科目でなくなり楽しさが出てくるはずです。

以前、「経済白書で読む戦後日本経済」をインプットにして、戦後の1945年〜2000年までを5年おきに当時の状況をアウトプットするということをしていましたが、これが実に面白いんですね。現代に繋がる様々な仕組みが立体的に理解できて、その他の学びの時に繋がる話が出てくるのが面白いです。

「分析・評価・創造」と聞くと、専用の何か小難しい学習が必要なようにも思えるのですが、教科学習と連動させることも十分可能です。

他に分かりやすい例で言えば、「英語でのディベート授業」なんかもありますね。
制服に関する賛否について、賛成派と反対派いずれかに立ち、情報収集したデータを根拠に自らのチームの主張を組み立てる。これらを英語で実施することで、「分析・評価・創造」×「英語」の授業というのが成立する。

昨日ご紹介した「構成主義」の考え方を取り込むことも重要です。

英語の勉強も、受験対策としての勉強になるとひたすら単語と文法を覚えて・・・になりがちです。それ自体をゲーム的に捉えて勉強できる人はいいですが、そうでない人はなかなか苦しいはず。しかし、英語のプレゼンテーションを作るとか、英語でスピーチする機会があれば、英語の試験で高得点を取るだけの学習ではない、語学本来の楽しさに気付く人も出てくるのではないかと考えます。

「構成主義」でいうところの「3. 学習は、能動的なプロセスである」とか「8. モチベーションが学習の鍵である」の考え方ですね。

「高次思考スキル」実装時のポイント

教科学習の周辺に「分析・評価・創造」のプロセスを実装し、「高次思考スキル」を身につけるには、いくつか留意点があります。私なりに理解したポイントは次の3点です。

1. 「高次思考スキル」の説明と、活動とスキルの紐付けを明示する

分析力のトレーニング、創造思考のトレーニングというように、取り組もうとしている学習コンテンツが、何の筋肉を鍛えることを目的としているものなのか、明示的に狙いを伝えることが重要です。
そもそも「高次思考」なんて、日常ではなかなか意識しない概念です。これを明確に伝えて、「何となく取り組まないこと」が大切だなと。「何となく英語でディベートした」という意識で取り組むのと、「英語ディベートの各ワークにおいて、分析・評価・創造のどれを鍛えるか意識して取り組む」のとでは、学習効果はまるで変わってきます。

2. 段階的・個別具体的な支援体制が必要

上述したテーマ学習でもディベート授業でも、個人やグループごとに進捗や内容がバラバラです。大きなゴールに向けて、小さくマイルストンを区切りながら全体をファシリテーションしていく必要がありますから、予めざっくりとしたガイドと強いリーダーシップが求められます。また、"I do → We do → You do"への移行、と表現されている通り、どのようなプロセスで最終成果に近づいていくか、まずはやってみせ、一緒にやりながら徐々に手離れさせる、というステップが必要。
さらに各ステップにおいて、「その主張の根拠は?」「この問題を他の視点から見るとどう見えるか?」「相関はあるかもしれないが、因果関係はあるのか?」という「良い問い」を投げかけ続けるのが大切。このあたりをどう支援するかを設計が肝ですね。

3. 高次思考スキルの習熟度を測り、具体的なフィードバックをする

情報に対する分析力や評価力、そこから主張を導く創造力は、その習熟度がなかなか見えにくいという面があります。なぜなら、1つの答えを求めにいくテストのようなやり方で一律的に点数を出せるものではないからです。
そこで、それぞれの活動を通じて何を学んだかという内省と、相互フィードバックの時間が重要になってきます。

特に、グループワークでは、全体のファシリテーターが個人の動きを全て把握することはかなり難しいですから、実際に一緒に活動に取り組んでいる仲間同士でのフィードバックと、同じ課題に取り組んでいるグループ間での成果物に対する相互フィードバックが大切になります。

どうしても、各グループで最後に発表をして、その場で発表内容に関する質疑をして終わり、となりがちですが、グループワークを通じて、誰が何の「高度思考スキル」を発揮していたか、を振り返ることにより、習得したスキルを認知できるようになると考えています。

ちょっと長くなってきたので、今日は一旦ここで切ります。
ニッチなネタとなり恐縮ですが、どなたかの参考になれば幸いです!

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林 裕也@IT企業管理職 ×「グローバル・情報・探究」
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