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#356 生成AI利活用を妨げる課題と、生成AI時代に求められる人材とは?

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

今週は、生成AI関連のレポートを通勤時間で読み込んで、ポイントだと感じる部分を記事でまとめています。

今日は、先日触れた「AI人材不足問題」について、特に日本では他国と比べて普段の業務の中で生成AI利活用を考える機会が少なく、個人で学習してもそれを活かせる場所が少ない、と指摘した点の深掘りです。何が生成AI利活用のハードルになっているのか、また生成AIの登場により、いわゆるDX人材と呼ばれる人がどのようなスキルセットが必要なのか、という点について、経産省が2024年6月に公表しているレポートをもとに整理していきます。


企業における生成AI利活用が国際的にも低い日本

PwCの調査によると、2023年春から2024年春の1年間だけでも、「自社の生成AI活用の推進度合い」は大きく増えており、生成AIに対する認知がこの1年だけでも大きく変わってきたことが分かります。

2023年春の段階では、生成AIを自社で「活用中」と答えた企業は0%、「推進中」と「検討中」を合わせても22%程度でしたが、2024年春になると「活用中」が43%、「推進中」と「検討中」もそれぞれ24%で、「未着手・断念」と回答したのは9%に過ぎません。

出所:経済産業省「令和6年6月 デジタル時代の人材政策に関する検討会」
https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006-b.pdf

一方で、「Microsoft・LinkedIn『2024 Work Trend Index Annual Report』」によると、知的労働者における生成AIの国別での業務利用割合比較では、世界平均が75%であるのに対して日本は32%。国内だけを見ていたら割と話題に上がる印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、日本の実際の生成AI利活用は低調で、他国の勢いには達していないことが分かります。

同じアジア太平洋諸国の中で見ても、タイ、インド、インドネシアで92%、中国91%、香港とベトナムで88%、他国も軒並み80%以上の数字の中で、日本は32%と極端に低い数字となっています。

出所:Microsoft "AI at Work Is Here. Now Comes the Hard Part"
https://assets-c4akfrf5b4d3f4b7.z01.azurefd.net/assets/2024/05/2024_Work_Trend_Index_Annual_Report_6_7_24_666b2e2fafceb.pdf

同調査では、「AIスキルのない人材は採用しない」と考えている経営者の割合も公表されていますが、世界平均で66%なのに対して日本は35%と調査対象国で最下位。AI人材ニーズに対する日本の経営者の意識が低いことも明らかになっています。

同レポートでは、「生成AI利活用段階」を定義していますが、個人の壁打ちにように代表されるPh.1の初歩的な使い方はある程度進んでいるものの、自社の通常業務に組み込むPh.2、新たなサービス創出につながるPh.3での利活用については、検討会の議論の中でも、ユースケース生成に苦労していたとのことです。

Ph.1.  個人レベルでの単一業務が、生成AIによって代替・補完・高度化される
Ph.2. 社内業務プロセスが生成AI前提で再定義され、複数業務を横断する形で品質、コスト、スピードを向上させる
Ph.3.  生成AIを活用した既存製品・サービスの付加価値や新規サービスを提供し、顧客体験を変革する

経済産業省「令和6年6月 デジタル時代の人材政策に関する検討会」をもとに筆者作成

生成AI利活用を妨げる課題

では、何が国内での生成AI利活用を妨げているのでしょうか?

理解不足と向き合い方

まず、「生成AIで何ができるか理解し、どう使うか計画するところで躓く」ケースが多いということです。そもそもAIで何ができる分かっていないとか、分かっても自社の業務に落としこむところにハードルがあったり、漠然と利活用領域を構想できても、優先順位をつけて実行計画に落とせないケースです。

これは周囲を見ていても、最も実感できるハードルです。これは「DXが進まない」話と同じだなと。やはり個人タスク起点での改善度合いには限界がありますから、先日まで述べてきている通り、「Ph.2 業務への組み込み」「Ph.3 新サービスへの活用」を前提とした検討・議論が社内で進むようにKPIに組み込むとか、組織の取り組みにしないと状況は変わらない気がします。

経営者の姿勢と関与

もう一つは、経営者やマネジメント層が、生成AIによるハルシネーションや情報漏洩、権利侵害などのリスクや導入コストばかりに目が行き、メリットを享受できる適用領域を適切に見極められないことです。リスクそのものというよりも、上述した理解不足の延長で「あまり自分で使ったことがないから、よく分からない」の表面上の言い訳として、これらのデメリットを並べ立てている、という実態もありそうです。

現場主導の利活用ではPh.1から先に進めず、単一業務での生成AI活用にとどまってしまうケースも多いことから、人材不足を深刻に受け止めているのであれば、経営者やマネジメント層が少なくとも自ら使ってみて、生成AIの得意・不得意を自分で語れることは極めて重要です。

現場側としても、上がそれらしい理由を以て生成AIに否定的な発言をしている時に「ご自身では、どの程度使われましたか?」と聞いてみるのも良いと思ってます。デジタル化がなかなか進まないのと同様、頭ごなしに否定的な人ほど、自分ではそれほど使っていないケースが多く、単純に「知らないことは怖い。かと言って自分から知ろうとしない」のを隠している場合もありそうな話です。

生成AI時代に求められる人材

生成AIの利活用が他国と比べて進まない課題を見ていても、結局は「人」の問題に帰結しているとしか思えないんですよね。「理解できない」のではなく、「理解しようとしていない」。「技術」そのものというより、「技術」をどう使いこなすのか?という「技能」の話です。

経産省のレポートでも、生成AIの登場により「課題解決型」から「課題発見型」のアプローチが重要になり、探究学習の意義が高まっていることが指摘されています。自分で問いを立て、問いを磨く過程で生成AIを積極活用することで、探究学習の質を更に高められるとも指摘されています。

共通的に求められるスキル

生成AIの一般利用への急速な浸透を受けて、国が「DX推進スキル標準(DSS標準)」として定義しているデジタル推進に求められる5つの人材像(ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ)についても、アップデートが入っています。

共通的にこれまで以上に強調されているのは、「問いを立てる力、仮説設定と検証力、成果物を評価、選択する力」です。また、生成AIの利活用ケースを検証するには、技術起点というよりも、事業やサービス起点が鍵。だから、対象の事業ドメインに対する深い専門性と経験は、これまでと同様に求められるでしょう。

出所:経済産業省「生成AI時代のデジタル人材育成の取組について」2024年10月
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/001310736.pdf

個々のDX推進人材に求められるスキル

個別の要求事項もアップデートがかかっていますが、「IT知識」や「技術」というよりも、思考力や行動力などのヒューマンスキルの重要性が強調されていました。
例えば、「ビジネスアーキテクト」は、「ビジネスの変革を通じて実現したい目的・世界観の設定と、それを実現するための事業、製品、サービスをプロダクトと捉えて、社内外を巻き込んでプロダクトの価値を高めるプロダクトマネジメントスキル」とされていますし、「ソフトウェアエンジニア」では「AIスキル、上流スキル、対人スキル」がより重要で、複雑で創造的な仕事をすることが求められる、とあります。

学校教育における「情報」=理系科目、IT企業=理系の企業、みたいなイメージをいまだに持たれがちですが、求められるスキルセットの変化を見ていても、DXや生成AIは理系の仕事、みたいな解釈は、もはや実態に則していないということを示しているように感じます。

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林 裕也@IT企業管理職 ×「グローバル・情報・探究」
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