#431 人を惹きつけるのは結局行動。高校生の探究学習見学で感じた、大人が学ぶべきこと
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
先日、知り合いの方にご案内いただき、高校をまわって「総合的な探究の学習」の授業を見学させていただきました。
探究や情報の授業は、ここ最近の学習指導要領でも大きく変更が入っているところで、文科省としてもこれまでの「暗記型教育・教科学習重視型」の教育から「答えがない中でどのように問いを立てるか」といった「課題設定力」を重視する傾向にあることが分かります。
私自身、この領域における検討状況を知ったのは数年前のことなのですが、知れば知るほど、私の本業におけるデジタル領域の問題解決思考と重なる考え方が多く、日々現場で体験していることを実際に試行的に実装しながら、どのような形態の学習ができると面白いのか?ということを考えてきました。
私自身の課題感は、「学校教育と社会の接続」です。自分が仕事をし始めてから、特に最近では「決まったことをきちんと作り上げること」よりも「何をするか」の「Whatを定義する力」の方がより付加価値が高いことであるとの認識が強まっているのを感じます。
それは、コロナ禍や生成AIの一般的な普及などに見られるように、「これまで自分が経験したことがないこと」が多いという状況の中で、「こうすれば上手くいく」という方程式が通用しなくなっているからです。
そんな時代で強いのは、やはりひたすらトライ&エラーを繰り返して、「こうすれば上手くいくのでは?」という解に地道に近づいていける人です。
私は実際の業務を通じてこれを痛いほど実感してきましたので、こういう考え方・トレーニングをもっと若いときから経験できる社会になれば良いなと考えています。
そんなことを考えている中で、今回見学の機会をいただき「なるほど、ここまで進んできた高校もあるのか!」ということを感じましたので、忘れないうちに文章にまとめておきたいと思います。
やはり「行動」が一番強い
探究学習で割と多いパターンは、「地域探究」のような形で、学校の外にフィールドワークなどで出かけて、事前に設定したリサーチ・クエスチョンに対する答えを検証するという営みです。
私が高校生だった2005年あたりでは、全くそんな授業はなく、大学のゼミなどではじめて経験したような研究について、最近では「探究学習」に割と力を入れている学校であれば、高校の時から経験ができるようになっています。
ここでは、少人数のグループワークを軸として、それぞれのグループで設定したテーマを検証するためにヒアリングに行ったりします。私自身もこれまで高校生がまとめた発表を聞き、アドバイスする機会を持ってきましたが、多くの発表や取り組みを見ていると、改めて人を惹きつけるプレゼンがどういうものか?という気付きがあります。
それは、「机上で考えたことを述べるだけの発表ではなく、実際にここまで動いた」ということがクリアに伝わるものです。
これ、仕事における色んなプレゼンを聞いていても同じなのですが、いかに綺麗なストーリーで組み立てられたプレゼンでも、そこに「実際にここまで動いた」ということがないと、なかなか人を惹きつけることはできません。
私が実際に見て素晴らしいと感じたのは、例えばアメリカでのフィールドワークに参加した高校生3人が作成したカントリーロードの動画です。カントリーロードを歌った現地の方の動画を繋いでいく、という動画だったのですが、字幕やエンドロールなども入った動画で非常に画質もよく、かなりセンスある仕上がりになっていました。これを作成した高校生3人組は別に動画編集を日常的にやっているわけではないと思いますが、自分たちで調べて3日もかからず動画を作ってしまいました。また、この動画を作るためには、アメリカで道ゆく人に声をかけて、カントリーロードのフレーズを歌ってもらうよう交渉しなければなりません。
多くの人に声をかけ、歌ってもらい、動画作成の協力を得たこと。また、途中日本語で話してもらい、日本語でメッセージを言う箇所がありましたが、単純にカントリーロードを歌っている動画を繋げているだけでなく、メッセージ性のある作品に仕上げていました。正直、下手な動画作成会社に頼むよりも全く素晴らしいもので、現在の高校生はこんなにポテンシャルがあるのか!と大変驚きました。
他にも、企業が募集するビジコンに応募するグループや、とある産業のスタートアップの投資ポートフォリオ評価に関する20〜30ページのレポートを提出して審査結果待ちのグループもありました。地元商店街が廃れているので、魅力を対外発信したいとインスタアカウントを作り定期的に情報発信しているグループや、地元商店街の印象店マップを自分たちで作り、実際に色んな店に置いてもらっているグループなんかもありました。私がこれらに惹きつけられたのは、そこに「行動」があるからです。
社内で新規事業の検討をしていた際、国のレポートやビザスクでのインタビューを通じて、ここにビジネスチャンスがあるのでは?と説明するプレゼンを多く聞きましたが、「実際に自分で動いてみる」ことなしに、頭でっかちで綺麗なパワポ資料を並べ立てても、実態としてはほぼ意味がない、彼ら・彼女たちの取り組みから大人が学ぶことばかりであると感じました。
行動と発信の重要性
このような探究学習を推進されている学校の先生と意見交換する時間もいただけたのですが、ここでも素晴らしいと感じたのは、その先生が自ら様々な企業にアプローチして、ビジコンのような機会を紹介してもらったり、かなりの営業力を発揮されていたことです。
正直、学校の先生でここまで広く、自ら外と接続して生徒たちの探究学習機会を創出している先生はあまりいないと感じます。
また、県内で最も学力が高い進学校でもあるその学校は、他校に対する情報開示にも積極的に取り組まれています。数年前に必修化され、どのように探究学習を進めれば良いか手探りの中進めている学校が多い中で、自分たちの探究の取り組みを上手く行ったことだけでなく、失敗したことも躊躇なく開示する。最後の仕上がりの綺麗なところだけを開示するのではなく、不完全な状態こそ開示すべき、という考えに基づき、自ら取り組みの対外発表の場を企画して取り組まれていて、いい意味で学校の先生に対するイメージが塗り替えられました。
どうしても、不完全なものを外に出す、というのは、学校としてのプライドや外からの見られ方を意識して躊躇されることかと思いますが、その先生曰く「上手くいかなかった話の方が、自分たちにも出来るかも?と感じてもらいやすいので喜ばれる」と話をされていて、なるほど失敗も困難もひっくるめて、ありのままを伝えることにこそ、価値があるのだと感じた次第です。
探究学習を面白くする要素
これらの見学から、探究学習を面白くする要素をいくつか発見したので、最後にまとめておきます。
現代の高校生のポテンシャルを改めて感じ、またそのポテンシャルを引き出せるかどうかは、大人側の玉の投げ方によるところも大きいことを学びました。
この分野は非常に面白いので、これからも色々と勉強していきたいと思います。