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阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』【基礎教養部】

今月は、今話題の阿部幸大氏による『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を読みました。
大学生協で目立つ位置に売られていたので気になっていたのと、こういうレポートの書き方をちゃんと勉強したことが無かったので、この機会に読んでみようと思いました。
「教科書」とつくからにはアカデミック・ライティングをするための方法論が一通り載っているものですが、本書はそこに留まらず、さらに論文を書くことのハードルを下げることでモチベートしてくれる(しかし、技術を身に着けるためのトレーニングは必要)という点で通常の教科書の役割を超越していると思います。方法論パート(原理編)も、なぜそう書いた方が良いのかというロジックがしっかりしており、読み易く感じました。

800字書評は以下のURLから読むことができます(後日掲載)。


論文を書くハードルが下がる、むしろ何か書きたくなる

本は原理編・実践編・発展編の3パートに分かれています。付録で演習も付いています。原理編では、そもそも論文とは何か?とか、パラグラフ・ライティングとは何か?という話をしていました。パラグラフ・ライティングとはこれこれというルールに従って書くものだ、だからそう書くにはどうしたらいいか?という話で終わっておらず、本書はそれより深く掘り下げ、なぜパラグラフ・ライティングか?そもそもパラグラフとは何か?という話まで書かれています。

論理の飛躍を防ぐために、冒頭に述べたトピックセンテンスを事細かに説明する必要があるため、各パラグラフはある程度の長さを持たざるを得ないということでしたが、これも適宜与えられる演習問題(例えば自分でパラグラフを作る問題)に取り組みながらその実感を得ることができました。方法論を聞いたからといって、そのままそれを活かせるかというと、元々ある程度論文を書くことに慣れています、という人でないとなかなか難しいと思います。だからトレーニングが必要なのですが、誰にでもやれそうな、地道なトレーニングの仕方も教えてくれました。書けるようになるためには読めるようになる必要がある、ということで、実践編では書くことの練習に加えて、そもそも読むことの練習もするべきだろうと書かれていて、僕もその通りだと思いました。

論文を書くというテクニック自体が、研究をする上での思考の切り口そのものにかなり通じているのだと思います。

ただの方法論だけではなく、「論文とは○○である」と主張する論文としての説得力がある

方法論を延々語られていても、段々飽きて眠くなってきますが、本書はまさにその方法論に則って書かれた一つの論文としての側面があるので、とても読み易く(そして面白く)、その方法論に従って書くのが良いという説得力があります。

なぜなら、論文を書くことも含め、公の場でやるようなアカデミックな活動は人に伝わるということ、アカデミックな価値がある(=面白い)ことがより優先されるべきことだろうと僕は思うからです。

パラグラフ・ライティングのルール「大体同じ長さの段落で、同じ情報量(一段落一主張)を持っている」に従っているところが、特に読み易く感じたのだろうと思います。

論文の書き方を越え、研究そのものの価値判断まで

自力で(より優れた)論文を書けるようになるにはどうすればいいか、という技術や考え方の話が原理編・実践編の話で、発展編では、研究の価値や研究を長く続けるには?という話がされていました。

もうすぐ4回生になり、自分の専門分野を決めなければならないということで、どうしようか悩んでいる自分に合った話がされていました。というか僕が自分で考えてやってみたのと同じようなことが書かれていたので参考にならなかったと言われればならなかった。自分がこれまで生きてきて、どういうものを好む傾向があったかとか、リストアップしていって分析してみるのを千葉雅也氏の著書を参考にお勧めされていました。同じようなことを考えていたと言いましたが、ガッツリ取り組んでみたわけではないので、この春休みにでもやってみる価値はあるかなと思いました。


著者は文系の研究者のようですが、文系理系問わず参考になると思いますし、何より読んでいてストレスがあまりかからず(それが良い事かはさておき)面白いので、一読の価値があると思います。ページ数も多くないので、すぐに読めます。

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