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日々のまま

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エッセイ。みたもの、聞いたこと、感じたこと。あの日の旅のこと。日々のままに、そのままに。
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#エッセイ

捨てたわけじゃない | 世界一周の旅に出る

捨てたわけじゃない | 世界一周の旅に出る

日本を離れたいんだと言った。現実から逃げたいんだと言った。時間が欲しいんだと。これは逃避行なのだと。でも、この現実世界には、大事な人たちがいて、思い出がたくさんあって、日常の中には小さな喜びもたくさんある。なんでもない日のこと、みんなのこと、日本のこと、暮らしのこと、家族のこと、大好きな友のこと、忘れたり捨てたり無かったことにしたいわけじゃない。わけじゃない。明日からわたしは世界一周の旅に出る。

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分からないことだらけの日々

分からないことだらけの日々

誰もいない実家で、窓から陽が差し込み、ふわふわと宙に浮いた自分の心ははっきりしない輪郭をしていて、わたしはそれをぼーっと眺めていた。もう10月だというのに驚くほど暑い日だった。予定のない平日の昼間などいつぶりだろう。

9月で会社員を辞め、10月から生活が変わった。いわゆるフリーランスのような働き方になった。時間や場所にしばられず自由になった。これはわたしが探していた自由のうちのひとつなのか、まだ

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優しいところが好きなのは

優しいところが好きなのは

祝日の東京駅の八重洲口は最高だ。スイスイ歩ける。わたしは総武本線からなんとか地下街に這い上がり(まだ地下)、たくさんのスーツケースを持つ人々の間をすり抜けて、やっと八重洲側に辿りついた。なんと空いていることよ。

がらがらのスタバ、タピオカ屋、列をなしていないローソン。祝日の八重洲地下街の朝はスイスイである。これは祝日に出勤しているわたしが知っている秘密である。それほどのものでもないかしら。いや、

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好きなバンドの曲を聴きながら、噛み締めた幸せと決意の話

好きなバンドの曲を聴きながら、噛み締めた幸せと決意の話

サニーデイサービスというバンドのライブに久しぶりに行った。前回行ったときはまだ制限がたくさんあって、行儀良く並べられた椅子に腰掛けて、声も出さず手拍子だけで気持ちを表現していた。今回は好きなだけ歌い、好きなだけ踊り、好きなだけ声を出して笑った。バンドのボーカルの曽我部さんが「最高だねえ」と笑った。

気持ちよさそうに演奏する彼らを見て、歌うことが、奏でることが、好きなのだと思った。音楽を、メンバー

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東京も好きだということ

東京も好きだということ

銀座の夜の街を歩いていた。たくさんの外国人と洗練されたファッションで歩く人々。ネオンがきらり、きらりと、輝いていた。

わたしが今の部署に異動してオフィスに来た頃、この道にはほとんど誰も歩いていなかった。電気は消されていて、レストランには休業の張り紙があって、コンビニだけが賑わっていた。でもみんなマスクをしていて、嬉しそうな人はいなかった。いたのかもしれないけれど、分からなかった。

それがまるで

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日々のなかにあるもの

日々のなかにあるもの

桜はいつの時代も人々の心を魅了したのだと思う。今年も、去年も、おととしも。世界がコロナという脅威におびやかされていたあの春も、わたしたちは桜の開花を待った。

その美しさと、儚さ。満開になったと思えば、いつの間にか散りゆく。その切なさにまた、人々は惹かれているのかもしれない。そんなことを思いながら、徒歩2分ほどのゴミ出しの道を歩いていた。

先週ゴミ出しにここを通った日は、雨が降ったあとで、桜の花

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