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捨てたわけじゃない | 世界一周の旅に出る

日本を離れたいんだと言った。現実から逃げたいんだと言った。時間が欲しいんだと。これは逃避行なのだと。でも、この現実世界には、大事な人たちがいて、思い出がたくさんあって、日常の中には小さな喜びもたくさんある。なんでもない日のこと、みんなのこと、日本のこと、暮らしのこと、家族のこと、大好きな友のこと、忘れたり捨てたり無かったことにしたいわけじゃない。わけじゃない。明日からわたしは世界一周の旅に出る。

みんなが生きる日々も、わたしのこれからの日々も、なんにも違わないと思う。朝、どこで目覚めるか、たったそれだけが違うこと。

今日までの自分にあった日々も、仕事も、友だちも、なんでもない悩み事も、急に飛行機に乗った途端に忘れてしまうわけがない。楽になるわけがない。決して変わることがないものがたくさんあって。どこに行っても、誰といても、いつも大事に大事に思わない日はない。それだけは伝えたい、あなたに伝えたい。いつも大切に想っているよ。

全然寂しくなんてなかったのに、最後にオフィスへ出社をして、会社のみんなとしばしのお別れをして、オフィスを出たとき、込み上げてくるものがあった。わたしはもう来週になってもここに来ない。ここに来ない。ここには来られない。

10月に入ってから、毎日誰かしらに会って、「またね」と手を握る。別れは、いつだって、どんな理由だって、どれくらいの期間だって、いつも寂しくてたまらない。永遠など、この世にない。

学生の頃は約束なんてしなくても毎日友だちに会えた。今はもうみんなそれぞれの人生が広がって、いろんなところにいて、会える人もいるし会えない人もいる。会えないからもう知らないわけではない。連絡をしないから大切に思っていないわけじゃない。いつも心の中にちゃんといる。思い出せる限り、わたしたちは最高の友達だ。

23時半を回った駅のホームは終電を逃すまいと走り抜ける人たちがたくさん行き交った。みんなどこかへ帰っていく。わたしの帰る場所は、もうどこにもなくなった。

最近知ったバンドの同じ曲を、同じフレーズを何度も何度も聴いていた。まだ未発表だというその曲をたまたま聴かせてもらう機会があって、惹かれて、DMを送って、音源をもらった。この曲を聴きながら大切にしたい人たちのことを想った。今思い浮かぶ人たちのこと、わたしはずっと大切にするんだ。

わたしたちは多くのことを知りすぎている。守られすぎている。守っている。本当は、自分のことを守らなくたって大丈夫。誰かのこと、救えなくたって大丈夫。そう思いたいのかもしれない。

なにも成し遂げられなくても、目的がなくても。それでも大丈夫。ただ、ただ、今だけを必死に生きられれば。他のことはあとからちゃんと付いてくる。わたしはそれをこの世界に証明したい。今がすべてだということを、わたしは命をかけて証明してみせる。

旅に出る理由は変わり続ける。増えたり減ったり新しくなったりしながら、そうしてわたしは何度でも旅に出る。

旅を続ける人々は いつか故郷に出逢う日を
たとえ今夜は倒れても きっと信じてドアを出る
たとえ今日は果てしもなく 冷たい雨が降っていても

時代/中島みゆき

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Yuuri
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