政府と日銀による「信用創造」の真実
本記事では、政府と日銀による信用創造について説明します。
信用創造の正しい理解のため、順を追って説明します。
信用(債権・債務の関係)の定義
信用創造の「信用」のように、経済学における「信用」の意味について、良い説明があったので引用します。
つまり、「信用」とは「債権・債務の関係」のことです。絶対に意味を取り違えないでください。
インターネット上で「お金とは何か?」と調べてみると、間違って説明している記事がとても多く見受けられます。下記のような言説は、「信用」を一般的な「信じて疑わない」という意味で捉え、「お金の信用」について説明していますが、大いに誤解の含まれる説明なので忘れてください。
信用創造/信用破壊とは
「信用」とは、「債権・債務の関係」のことです。
「信用創造(Money Creation)」とは、債権・債務の関係を創ることで、貨幣を生み出す仕組みのことです。「貨幣創造」ともいいます。
具体的には、銀行が預金者(銀行口座を持つ者)に預金通貨(要求払預金)を貸付することによって、貨幣を創造する仕組みのことです。
この信用創造は、法律や規制が無い場合、無制限に実行できます。
この1つの取引に対し、借方と貸方の2つに分けて記帳するというのが仕訳のルールであり、複式簿記の基本原則です。
預金者の債務(借入金)が、銀行の債権(貸付金)となり、
銀行の債務(銀行預金)が預金者の債権(銀行預金)となりました。
預金者と銀行の間で、信用(債権と債務の関係)を2つ創造することにより、無から貨幣が生まれました。
これが信用創造です。
「信用破壊(Money Destruction)」とは、債権・債務の関係を解消することで、貨幣を消滅させることです。「貨幣破壊」とも言います。
この貨幣破壊は、理論上、貨幣がなくなるまで実行できます。
預金者が借入していた預金を返済すると、信用破壊が発生します。
このとき、預金者と銀行の間における、信用(債権と債務の関係)を2つ破壊、解消します。
帳簿上で債権と債務が相殺処理され、信用創造以前の何も無い状態に戻りました。
以上から、以下の理解ができると思います。
信用創造をすると貨幣が生まれる
信用破壊をすると貨幣が消滅する
日銀の国債「直接」引き受けによる信用創造
銀行と預金者間の信用創造と同様に、政府と日本銀行(以下、日銀)間で、日銀は政府から国債を直接引き受けすることで信用創造ができます。
政府と日銀の2者間で、「債権・債務の関係」を2つ創ることによって、貨幣を生み出せます。
政府の債権(政府預金)と日銀の債務(政府預金) → 貨幣
日銀の債権(国債)と政府の債務(国債)
しかし、日本銀行による日本国債の直接引き受けは、財政法第5条により、原則として禁止されています。
従って、現在は「国債直接引き受けによる信用創造」はできません。
しかし、戦前、大日本帝國時代の日本ではやっていました。
財政支出 2つの方法
日銀の国債「間接」引き受けによる信用創造の説明をする前に、複式簿記で財政支出はどのようになるかを確認します。
財政支出とは
政府支出(Government Expenditure)は政府が直接行う支出活動を指し、財政支出(Fiscal Expenditure)は政府支出に加えて政府が経済に影響を与えるために行うさまざまな財政政策活動を含みます。
財政支出と政府支出は、広い意味では似た概念を指していることが多く、多くの文脈では同じ意味で使われることが多いため、文脈に応じて意味を理解する必要があります。
政府支出:
政府支出は、政府が直接行うすべての支出を指す
GDPの項目では「公的需要」に当たり、「政府最終消費支出」と「公的固定資本形成」が主な構成要素
「政府最終消費支出」は、政府の一般的な活動や社会保障などの支払い
「公的固定資本形成」は、道路や学校の整備といった、いわゆる公共事業が中心
財政支出:
財政支出は、より広い意味での政府の財政政策の一環として実行される支出を指す
政府支出のほか、税制減免や補助金など、政府が直接現金を支出しない形で経済に影響を与える政策も含まれる場合がある
財政支出は、経済のマクロ経済的安定や成長を促進するために、政府が行うあらゆる財政的な介入を広く指す用語として使われる
政府小切手による財政支出
日銀の国債直接引き受けによる信用創造で調達したという前提で、政府小切手で財政支出します。
コンピュータが発達する前は、政府小切手によって財政支出する方法が主流でした。
政府小切手を使った財政支出の複式簿記は以下のようになります。
【定義】
政府:★貨幣の発行者
立法・司法・行政の各機関の総称
日本銀行:★貨幣の発行者
日本の中央銀行
一国の信用制度の中心となる銀行
中央銀行口座を持つのは、政府と民間銀行のみ
民間銀行:■貨幣の利用者
中央銀行に口座のある民間銀行の総称
民間銀行口座を持つのは民間のみ
民間:■貨幣の利用者
政府と中央銀行、民間銀行を除く国内全ての法人や家計の総称
財やサービス:商品とサービスの総称
銀ヨ(民間銀行預金):民間が保有する民間銀行口座の預金
日ヨ(日本銀行当座預金(準備預金)):民間銀行が保有する中央銀行口座の預金
政ヨ(日本銀行当座預金(政府預金)):政府が保有する中央銀行預金の預金
国債:政府が発行する国債
政府小切手:政府が発行する小切手
電子決済による財政支出
日銀の国債直接引き受けによる信用創造で調達したという前提で、電子決済で財政支出します。
日本において、国の会計事務における「予算の執行」から「決算」の過程までの事務作業や管理を統一的に処理できるシステムとして、「官庁会計システム(ADAMSⅡ)」を使用しています。
「ADAMSⅡ」を使う場合は電子決済となり、政府小切手は不要になります。電子決済システムを使った財政支出の複式簿記は以下のようになります。
【定義】
政府:★貨幣の発行者
立法・司法・行政の各機関の総称
日本銀行:★貨幣の発行者
日本の中央銀行
一国の信用制度の中心となる銀行
中央銀行口座を持つのは、政府と民間銀行のみ
民間銀行:■貨幣の利用者
中央銀行に口座のある民間銀行の総称
民間銀行口座を持つのは民間のみ
民間:■貨幣の利用者
政府と中央銀行、民間銀行を除く国内全ての法人や家計の総称
財やサービス:商品とサービスの総称
銀ヨ(民間銀行預金):民間が保有する民間銀行口座の預金
日ヨ(日本銀行当座預金(準備預金)):民間銀行が保有する中央銀行口座の預金
政ヨ(日本銀行当座預金(政府預金)):政府が保有する中央銀行預金の預金
国債:政府が発行する国債
政府小切手と電子決済システム、どちらを使っても財政支出後の複式簿記は同じになることが理解できると思います。
日銀の国債「間接」引き受けによる信用創造
日本銀行による「国債の直接引き受け」については、前述のとおり禁止されていますが、例外として、国庫短期証券は、直接引き受けできるとしています。
また、長期国債の「直接」引き受けは禁止されていますが、政府から民間銀行、民間銀行から中央銀行のような、民間銀行を介した長期国債の「間接」引き受けは禁止されていません。
まとめると以下のようになります。
「国庫短期証券」とは、一年以内に償還しなければならない短期国債
通称「国債」と言っているものは、償還期限が一年以上の長期国債
政府→日銀 の長期国債の直接引き受けは禁止
政府→日銀 の短期国債の直接引き受けは可能
政府→民間銀行→日銀 の長期国債の間接引き受けは可能
信用創造パターン1(短期国債の直接引き受け)
以下の5つの手順で信用創造を行います。
短期国債の日銀直接引き受け(信用創造)
財政支出
長期国債の民間銀行引き受け
短期国債の償還(信用破壊)
長期国債の日銀間接引き受け(信用創造)
【定義】
財やサービス:商品とサービスの総称
銀ヨ(民間銀行預金):民間が保有する民間銀行口座の預金
日ヨ(日本銀行当座預金(準備預金)):民間銀行が保有する中央銀行口座の預金
政ヨ(日本銀行当座預金(政府預金)):政府が保有する中央銀行預金の預金
長期国債:政府が発行する長期国債
短期国債:政府が発行する短期国債
①~⑤終了後の結果は、「日銀の国債「直接」引き受けによる信用創造」と「財政支出」をした結果と同じになっています。
信用創造パターン2(民間銀行の準備預金を使う)
民間銀行に何らかの形で準備預金がある場合、政府はこの準備預金を使って国債発行を行い資金調達をします。
このパターンでは、国債は短期長期どちらでも可能です。
ここでは単純化のために、民間銀行が日銀から準備預金を借り入れした場合を想定しています。以下の5つの手順で信用創造を行います。
民間銀行が日銀から準備預金を借入(信用創造)
国債の民間銀行引き受け
財政支出
民間銀行は日銀に準備預金を返済(信用破壊)
国債の日銀間接引き受け(信用創造)
【定義】
財やサービス:商品とサービスの総称
銀ヨ(民間銀行預金):民間が保有する民間銀行口座の預金
日ヨ(日本銀行当座預金(準備預金)):民間銀行が保有する中央銀行口座の預金
政ヨ(日本銀行当座預金(政府預金)):政府が保有する中央銀行預金の預金
国債:政府が発行する長期国債または短期国債
①~⑤終了後の結果は、「日銀の国債「直接」引き受けによる信用創造」と「財政支出」をした場合、信用創造パターン1と同じ結果になっています。
国債の間接引き受けと「スペンディングファースト」
信用創造のパターン1とパターン2をまとめると、以下の手順を踏んでいることがわかります。
政府が政府預金(日銀当座預金)を調達
財政支出
日銀が国債を民間銀行から引き受け(買いオペ)
国債を民間銀行に一旦引き受けてもらい、その後日銀が買いオペして国債を引き受ける「国債の間接引き受け」の場合、必ず財政支出を伴います。
そして、この信用創造では、財政支出するために税収はどこにも出現していません。「財政支出が先、税収が後」です。
つまり、「政府は財源として税収を必要とすること無く、財政支出が可能」ということです。これを「スペンディングファースト(財政支出が先)」といいます。
租税と信用破壊
信用創造と財政支出をした前提で、民間に租税債務を課し、全ての貨幣を回収するとします。その後、税収を全て国債の償還に充てた場合どうなるでしょうか?
民間に租税債務を課す
民間の納税/政府の収税
国債の償還
【定義】
財やサービス:商品とサービスの総称
税収:政府の税収
納税:民間の納税
銀ヨ(民間銀行預金):民間が保有する民間銀行口座の預金
日ヨ(日本銀行当座預金(準備預金)):民間銀行が保有する中央銀行口座の預金
政ヨ(日本銀行当座預金(政府預金)):政府が保有する中央銀行預金の預金
国債:政府が発行する長期国債または短期国債
貨幣を税として全て回収し、その税収で以て国債を償還(貨幣破壊)した場合、日本から日本円という貨幣は全て消滅します。「貨幣が消滅した国は滅ぶ」ことは想像に難くないでしょう。
全てではないにしろ、政府が民間に供給した貨幣量以上に、民間に課税し貨幣を回収(プライマリーバランスの黒字化)したならば、民間は貨幣不足に陥ります。
GDPと財政支出の関係
国民総生産(GDP)の支出面の計算は、以下の式で表すことができます。
$$
Y = C + I + G + (X - M)
$$
国内総生産(GDP)(Y):一定期間(通常1年間)に、一国内の生産活動によっ て新たに生み出された財・サービスの付加価値額の合計
民間消費(C):家計の最終消費支出。耐久消費財、非耐久消費財、サービスなどが含まれる。
民間投資(I):企業の設備投資、在庫の増加、家計による新築住宅への支出などが含まれる。ただし、既存資産の取引は含まれない。
政府支出(G):政府の消費と投資。公共サービスの公務員への給料、軍事用の武器購入、政府の投資支出など、政府による最終財・サービスへの支出が含まれる。
純輸出(X - M):輸出(X)から輸入(M)を差し引いたもの。輸出は国内で生産された財・サービスが他国で消費される分を指す。輸入は他国から供給された財・サービスが国内で消費される分を指す。
ありえない想定ですが仮に、民間消費(C)、民間投資(I)、純輸出(X-M)が、0円で政府支出が1000兆円ならば、GDPは1000兆円になります。
$$
\begin{align}{}
C&=I=(X-M)=¥0 \nonumber \\
G&=¥1,000,000,000,000,000 \nonumber
\end{align}
$$
$$
\begin{align}{}
Y &= C + I + G + (X - M) \nonumber \\
&=¥0+¥0+¥1,000,000,000,000,000+¥0 \nonumber \\
&=¥1,000,000,000,000,000 \nonumber
\end{align}
$$
従って、政府は信用創造して政府支出を1000兆円行えば、理論上簡単に名目GDPを1000兆円にできます。
しかし、いきなり1000兆円も財政支出するとハイパーインフレの恐れがあるので何も考えずやってはいけません。
現代貨幣理論(MMT)では、何よりインフレ率を重視しており、実物資源の制約、供給側の限界を考慮して政策を決定すべきとしています。
また、世間では、「財政赤字(財政支出-税収)の拡大により破綻する」と騒ぎ立てる記事が出回っていますが、日本は、変動相場制で自国通貨発行権を持っているので、債務不履行(デフォルト)に陥ることは100%ありえません。
政府と日銀による信用創造 まとめ
日本政府は通貨発行権を持っています。
そのため、日本政府は信用創造により、無制限に貨幣を創造できます。
信用創造によって創造される債権・債務の関係は以下の2つ
貨幣:日銀の債務(日銀以外の債権)
国債:政府の債務(政府以外の債権)
税収は財源ではありません。
信用創造で生み出した貨幣が財源です。
政府支出が先、税収が後です。
国債の償還費は、信用創造(新規国債発行)でまかなえます。
日本の30年以上に渡る不況の原因は、大きく2つです。
財政支出の削減(緊縮財政)
増税
つまり、民間部門の貨幣不足です。
従って、日本を好景気にしたければ、逆に
財政支出の拡大(積極財政)
減税
この2つを行い、民間に貨幣を供給すれば済む話です。
これが真実であることは、信用創造の仕組みを理解していれば自ずとわかるはずです。
ここから先は
この記事が参加している募集
よろしければサポートお願いします! 頂いたサポート代は、書籍の購入や活動の継続として還元させていただきます。