なんとなく、そのままでいてよ
なんとなく、はいつまでも続いてくれるんだろうか。なんとなく、わたしとあなたは繋がっている。明確な理由があったはずなのに、確認しないと思い出せないぐらい、意識していないと忘れてしまうぐらい、形だけの答えは無意味なものになってしまった。なんとなく、は、好きだけど、こわい。
はっきりしてほしい、と何度も言ってしまった。今日、会う約束をしているけど、何時になるか分からない、もしかしたら友達に呑みに誘われるかもしれない、と言われ、会えなかったことが続いた。曖昧なら、言わないで、こっちだけ期待して、浮かれて、バカみたい。そういってから、あなたは約束を破らなくなった。一度言ったことは絶対に守るから、と友達に誘われた大事な集まりを抜け出してきたこともあった。それは流石にダメだよ、と言ったら、え、なんで？ごまは会いたくなかったの？って。そうじゃないんだけど、なんか、ごめんね。そんな素直で真っ直ぐなところ、いつまでも変わらないでいてほしいと思う。
たぶん、あなたはわたしに出会わない方がよかったよ、あなたを見えないもので縛りつけて、他の物を見えなくさせて、わたしの好きな色に、あなたを染め上げている、ごめんね、もっと他の女を知るべきだったと思う、でも、もう、あなたを手放せる気もしないの、本当にごめんね。
またなにを言ってるの、とあなたは笑って、優しく抱きしめて、わたしに出会ってからあなたが変わったこと、世界が広がったこと、困難を乗り越える強さを手に入れたことを、嬉しそうに語ってくれる。何度も、同じことを繰り返している、あなたは変わらないね、変わらないことが、こんなにも嬉しくて、罪だとは思わなかった。
あなたがわたしに出会ってから変わったというように、わたしもあなたに出会ってから、随分と大人になってしまった。もう、まだ子どもです、とは言えない年齢になってしまったし、あなたの知らないところで色んな経験を積んでしまった。世界は広い、わたしがあなたの世界を広げられたとして、それは世界のほんの一部に過ぎなくて、あなたにもらえない景色を他で補ってしまったわたしとあなたの綺麗なままの景色が混ざり合うことは、この先一生ないんだろう。ああ、ごめんね。
結婚したい、と言った。まだ学生だから、そんな無責任なこと言えないよ、って言われた。そうだよ、分かってる。けど、世界は広いから、お互い社会人になってしまったら、もっといろんなことを吸収して、もっと魅力的なものに触れて、ふたりの世界は本当にちっぽけなものになってしまって、いつの間にか、消えてしまう、と思う。ふたりの世界を消してしまうのは、ごまの方だと思うよ、と言われた。変化が好きな人間だからね、わたし。だから、小さな世界でもいいと思える、紛れもない、小さな世界を選択しないといけない理由が、証明が、わたしはほしい。
心の距離なんてものは、物理的な距離にも、健康にも、睡眠にも、人間の全部から、影響を受けてしまうから。曖昧な、なんとなくなんて言葉だけでは、離れてしまう気がしている。
わたしの不安を言葉にする。不満も、嬉しいも、期待も、後悔も、全部全部、言葉にする。分からないけれど、なんとなく分かろうとしてくれる、とりあえず受け止めてくれる、でも、っていうわたしを止めてくれる、そんなところが好きで、染まりたくて、ずっと一緒にいたくなった。結局、染められたのはあなたの方で、わたしはあなたを染めるために、自分を磨いてしまっただけで、いつまでもあなたに対して、心の根本の部分で引け目を感じてしまう。ねえ、わたしはあなたの優しさを利用しているだけだねって言ったら、まだあなたが知らないわたしに、気が付いてしまうかな。わたしにとって都合の悪いこと、わたしから離れてしまいそうな言葉、わたしより魅力的で賢い女のこと、わたしはあえて伝えないようにしてる。そんなわたしのずるいところばかり見えるようになったら、わたしは必要なくなるかな。ごめんね、わたし、あなたの弱いところを利用しているだけ。
嘘ついたら怒るよって言われた。男と寝たら許さないよって言われた。煙草吸ったら別れるよって言われた。この前酔っぱらってコンビニに行った。悪いことをしたくなって煙草を買おうとしたけれど、酔いが回って文字が読めなくて、煙草の種類も最近遊んだ男が吸っていたやつしか知らなくて、情けないなあと呟いたらあなたの顔が浮かんで、あと一つだけになってしまった約束を破ってしまうと、わたしにはもうなにも残らない気がして、考えるのをやめて缶ビールを一本だけ買った。この文章を読んでも、あなたは一つも理解できなくて、ただ抱きしめてくれるかな、ねえ、どうか変わらないでいてよ、意味のないなんとなくの答えを、何度も確かめさせてよ。
なんとなく、あなただけは、なんとなくのままでいてよ。
いつか青い鳥になって、あなたの下へ幸せを届けます。