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書評 #47|小説 孤狼の血 LEVEL2

 残酷な殺人事件から幕は開く。警察と暴力団の間でバランサーの役割を担う、日岡秀一。そのバランスを圧倒的な力と狂気によって破壊する、上林成浩。法整備に代表される取り締まりの強化によって牙を抜かれた暴力団。『小説 孤狼の血 LEVEL2』はそんな流れと現代社会に抵抗する者たち、それを守る者たちの物語である。

 上林は強烈だ。幼少期の過酷な体験を受けてか、人間としての情は霧散したかのような振る舞いを見せ続ける。熱くも、冷たくも感じる。しかし、そこに深みのようなものは感じられない。

 正義と悪は明瞭な構図だ。悪は距離が置かれるべき存在だが、柚月裕子による過去のシリーズには悪の中にも情を浮かべ、悪の中にも正義も描いた。その描写が世の混沌と重なり、作品に厚みをもたらしていた。

 上林、日岡と同じ二軸の狭間でもがくチンタは朝鮮半島にルーツを持つことが作中で描かれている。しかし、人となりを語り得る要素も深掘られることはない。言い換えれば、その要素が作中で存在する意味が提示されない。

 綱渡りのようなスリリングな展開は読者を魅了する。その中で見せる日岡の成長と大上との対比は過去の系譜を継ぎつつ、日岡の像に新たな輪郭を宿す。『孤狼の血』を受け継いでおり、新鮮にも映る。しかし、本作が純粋に血を分けているかと問われれば、そうとも思えない。振り返ると、そんな言葉が頭に浮かぶ。


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