書評 #54|旅する練習
その文体は軽やかであり、描かれる風景は美しい。心も、眼に映る景色も。
乗代雄介の『旅する練習』はストイックな物語だ。歩く。書く。蹴る。練習の旅は自己を見つめる旅でもある。好きなものがあれば、歩む道は旅となる。風景も色を帯びていく。重ねる一歩に人生が映る。揺らぐ気持ちが強固な意志へと研磨されていくような感覚を覚えた。
ジーコが説いた「忍耐と記憶」。「本当に大切なこと」を見つける尊さと厳しさがこの言葉に凝縮している。書き記された難解な漢字の数々は世界に未知が数多く残されていることと、細部に意味が宿っていることも教えてくれる。観光地や名所巡りは脇に寄せ、今すぐにでも旅に出たい。そんな思いが身体を支配する。
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