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物語に騙されて悔しがりながらスカッとしたい

今年は例年にも増して騙された人が多い気がする。世間を騒がせるニュースを少々かじるたけでも、なんとか詐欺など不穏な用語がちらつく。みんな、まさか騙されたいのだろうか。
そんな物好きがいないとも限らないが、よほどの酔狂だろう。

だから今、そんな酔狂な人にお勧めしたいのは、読書である。
もちろん騙されたくない人にもお勧めしたい。現実の甘い言葉に引っかからないように、日頃から安全に騙されて免疫を作っておきたい。

今回は、私が実際に読んで見事に騙された物語を3つご紹介。

『十角館の殺人』綾辻行人著

1987年に出版されたミステリー小説で、実写化不可能と呼ばれたが、Huluで初映像化されたベストセラー作品。この夏、テレビCMで繰り返し広報されていたため、まんまと口車に自分から乗って原作小説を読んだ。

前評判は聞いていたため、騙されるものかと思いながら読み進めた。30年以上前の小説ということもあって、喫煙場面などで時代を感じつつも、人間関係や物語など古びることもなく、あっという間に夢中になり、ページをめくる手が止まらなくなった。

そして、不意に襲われる衝撃。一行で一変する世界。
これは実写化不可能である。どう考えても無理だ。それ以上は言えないし、誰か他に読んでいる人と語り合いたくなる。悔しいが、映像化作品を見たくなってしまった。

偶然、年末年始に地上波で放送することを知った。

見たいような見たくないような・・・気づけば予約録画ボタンを押していた。


『この闇と光』服部まゆみ著

読んだのは10年以上前だと思うのだが、真実を知った時の驚きは忘れられない。物語の細部はあまり記憶にないが、美しい世界観と印象深い人物描写は鮮明に刻まれている。このような物語を成立させることができるのは、文を紡ぐ人間と、それに導かれる読者がいるからこその奇跡に他ならない。

これもおそらく映像化は難しいだろう。しかしながら、絵画のように美しい物語だった。


『叙述トリック短編集』似鳥鶏著

例えば、僕という一人称の語り手がいて、男性かと思って読み進めていくうち、実は女性だったことが判明する。
例えば、どう考えても実行不可能な犯罪が起こる。登場人物の誰も犯人ではない。犯人は語り手自身だった。
・・・等、読者を、そう思わせるように誘導していく文章で騙すことを叙述トリックという。殺人事件でよく聞く密室トリックとは違うものだ。

言ってみれば、先に挙げた二作品も叙述トリックが使われた小説である。
文字を読み、読者が勝手に想像することで成立するトリックは、読者の数だけ衝撃があり、驚きが生まれる。映画とは違う、想像力の豊かさが物語の奥行きを決める。だから画一的な映像化は難しい。

本作は、タイトル通りの叙述トリックが全編にわたって使われている。
「読者への挑戦状」と、冒頭でこの作品について説明してくれているという親切設計から始まる。読んでみると確かに読み切り短編集で、数話すべてに様々な種類の叙述トリックが仕掛けられており、騙されるものかと読み始めて気持ちよく騙された一冊だった。


最後の最後まで気を抜けないのが叙述トリックの使われた物語だと実感した。でも気を抜けないのは物語以上に現実だ。現実に溢れるトリックという名の罠に引っかからないために、日頃から気を抜かず、物語を読んで修行してみてはいかがだろうか。

ちなみに、ここに挙げた三作品は、騙されたと気づいた後の爽快感がたまらなく気持ちよかった。活字の楽しさはこうでなくては。ある意味、私も酔狂な部類なのかもしれない。

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佐藤ユンコ@ゑまふ
読んだ人が笑顔になれるような文章を書きたいと思います。福来る、笑う門になることを目指して。よかったら、SNSなどで拡散していただけると嬉しいです。