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本や映画、ドラマの感想つれづれ

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#ダイバーシティ

『愛という名の支配』

『愛という名の支配』

ドイツの精神学者エーリッヒ・フロムによると、愛とは「愛する者の生命と成長を積極的に気にかけること」であり、その要素は「配慮、責任、尊重、知」だという。しかし本書のタイトルにある「愛」とは、それとはまったく別物の、なんとなく幻想として漂っている概念としての「愛」である。

それは抑圧者にとっては都合のよい隠れ蓑になり、被抑圧者にとってはその立場で満足するための言い訳になり、両者にとって他人または自分

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アメリカ人が描く在日のストーリー『PACHINKO』

アメリカ人が描く在日のストーリー『PACHINKO』

2017年にアメリカでベストセラーになったこの本を手に取ったきっかけは、2019年の秋にコリアンアメリカンの友人から勧められたことだった。それまで学校の課題以外で英語の長編小説を1冊読んだことはなかったのだが、植民地時代の朝鮮半島から日本に移住した家族4世代の話という、内容があまりにも身近であったことから興味を持ち、英語で読み始めたのが2020年の頭である。夏には日本語版も発売されたので、日本語で

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『愛の不時着』の女性に見る脱ジェンダーステレオタイプ

『愛の不時着』の女性に見る脱ジェンダーステレオタイプ

普段私がよく見るのは主にアメリカのドラマだ。それも、現実にありそうな話ばかりを好む(ちなみに大好きなのは『This Is Us』)。そんな私が初めて韓国のドラマ、それも現実にありえなさそうな設定のストーリーを見て、ハマった。その理由の1つが、女性の描かれ方が新しかったことだ。

(ちなみにこれから書く内容は個人的な感想である。「こんな見方をする人もいるのか」という観点で読んでいただけると幸いだ。ま

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差別をふんわり覆ってしまう残念な「映画の邦題」

差別をふんわり覆ってしまう残念な「映画の邦題」

今、改めてアメリカの人種問題が注目されている。

私たちが生きる社会には、色んな不平等があり、色んな差別や偏見が根濃く残っている。日本も例外ではない。これは残念ながら否定しようもない事実だ。けれど、日本では「なるべくその事実を見たくない」「差別なんかない」「まあまあ、落ち着いて」という風潮が強いように思う。どうも、差別や社会問題を前にしたときの居心地の悪さや他人事感が風潮としてあるような気がするの

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『The Bold Type』が描く、身近な人間関係における多様性の摩擦

『The Bold Type』が描く、身近な人間関係における多様性の摩擦

最近の欧米の映画やドラマを見ていると、多様性への配慮がありありとわかる。その一方で、時間的制約からか、あるいはストーリーの本筋との兼ね合いなのか、その多様性が日常レベルで起こす摩擦については描かれていないことが多い。

たとえばNetflix映画『好きだった君へのラブレター』の主人公はアジア系だ。母親が韓国系という設定で、韓国の文化を継承していることはアクセサリー的に描かれているのだが、オレゴン州

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