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とても短いお話

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超短編小説。気が向いたら書きます。
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2017年4月の記事一覧

夢は鏡

鏡に映る自分を見る。見飽きたはずのソレは未だ不思議と私を困惑させる。

ところで、私の夢は三人称視点である。いつも自分の後頭部のやや上から、私を見下ろす形で進行する。
この前、夢に鏡が出てきた事がある。だが、夢の中の私は、私の事など気遣わないので、三人称視点の私からは、鏡に映る私は見えなかった。はなして、夢の中でも、『そう』なのだろうか。

なるほど、そうか。

確かにいつも、夢の中の私は、後頭部

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滅亡の運命

運命を司る女神は、サイコロを振った。幾つもの面を持つそれは、コロコロと転がり、やがてピタリと止まる。止まった面には『滅亡』と書かれていた。

女神は頭を悩ました。運命のサイコロには、結果のみが書かれていて、方法が書かれていないのだ。女神は神々を集め、どうやって人類を滅亡させるかについて話し合う事にした。

神々による議論では、如何に少ないコストで目的を達成させるかの一点について、何日も検討が繰り返

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記憶珈琲

その喫茶店は、ひっそりとした住宅街に、これまたひっそりと営業をしています。他のお店には無い特別な珈琲を出すので、街のみんなはお洒落なチェーン店などには行かず、この喫茶店で珈琲を飲みます。
もともと珈琲は、その成分と香りから、様々な記憶を呼び覚ます効果がありますが、この喫茶店が出す珈琲は、なんと本人以外の記憶をも呼び覚ますのです。それも、圧倒的に明確で詳細な記憶を。

街のみんなは、この喫茶店が出す

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五年前ボタン

話はとても長くなるんですが、僕がそのボタンを初めて手に入れたのは、ちょっと計算が難しいけれど、世界の時間で考えると、えっと、あ、今から三年前の事です。そうです、そうです。
僕にとっては、もう・・・、
何年前の事かなんて、わかりません。

駅前の喫茶店で、古い友人から貰ったんです。そりゃ、初めは信じませんでしたよ。こんな玩具みたいな、よくわからないボタンが、押すと五年前に戻るボタンだなんて。

友人

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星の子供

博士は隕石を調べていた。
昨日、博士の家の庭に落ちたのだ。

博士は街から離れて暮らし 小高い丘の上にぽつんと立つ家に住んでいた。隕石は直径30cm程の小さな石。黒くて硬くて、光をよく反射させキラキラと光る。宝石のような見た目だが、専門家の博士は、全く別の結論を出していた。

「これは、卵だ。」

博士は物質としての調査だけではなく、生物の卵として、孵化を試みた。地球外生命体となれば、歴史に残る大

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命をかける

「命をかける」
その行為の見返りとして得られる報酬は、当然、命である。

ここは死神の賭場。
不良な死神達が、日夜、命を賭けた勝負事に興じている。賭ける命は他人から奪った他人の物で、賭けの内容もまた、他人事だ。
他人の命をいくら賭けても、スリルも何もあったものじゃない。他人事の内容では、情熱も湧かない。死神達は、持ち前の生気の無い死んだ目をして、淡々と命を賭ける。

こうして人々の命懸けの生き死に

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カエルの王様と森の魔女と兵士

カエルの姿をした王様は、兵士達に命令を出しました。

「森の魔女を探し出し、この呪いを解き、私を元の姿に戻してくれ。見事やり遂げたものには、褒美として我が娘との結婚を約束しよう。」

兵士達は皆、我先にとお城を飛び出し、魔女を探しに出ました。

兵士のジャックが魔女を見つけたのは、お城から遠く離れた深い森の奥の奥の小さな小屋でした。
ジャックは疲れ果て、へとへとでしたが、王様の呪いを解き王女と結婚

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白いチョーク

その少年が白いチョークで道路に描いた落書きは、父親にバレないように助けを求める精一杯の叫びであり、悪の組織の情報を記したスパイ仲間への秘密の暗号であり、遥か宇宙の果ての母星への緊急連絡信号だった。

つまり、こういう事だ。

少年が地球に降り立ったのは三日前の事、乗っていた宇宙船が故障し地球へ不時着をした。

--
何とか母星へ連絡をとる必要がある。自らは星に帰れなくても良い。
これは、緊急事態だ

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小さな世界

物が存在する。それは、そういうデータが設定されているに過ぎない。

人類がこの事実に気付いてから、科学は加速的に進歩した。
間もなく、物質転送装置が発明される。存在データをコピー&ペーストするだけだ。
同様の方法で、クローンや不老不死などといった、過去の倫理を破壊するテクノロジーが次々と生まれた。

それから人類は、転送装置を使って、軽々と宇宙に進出した。
人体を弄っているので危険は少ない。その上

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夢の始まり

夢の中で迷子になったとき、けっして来た道を戻ってはいけません。その場所までやってきた道は、夢の始まりに繋がっているのですから。

祖母からそう聞いた事がある。別に信じていたわけではなかったが、長い間ずっと気になっていた。夢でなくとも、迷子になったら来た道を戻らないようにしていた。なんとなく、怖かったんだ。

夢の始まりって、どこだろう。
夢の終わりはよく解る。目覚めの直前だ。
「~ってところで目が

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死神と贅沢

男はビルの屋上から飛び降りた。借金に困った末の決断だ。地面まで落ちるまでが己の残りの人生、男はそう考えて疑わなかった。死ぬ直前には走馬灯が流れる、などと言うことを思い出し、今までの人生を振り返ってみたが、楽しい時など何一つなかった。とうとう、つまらない人生を振り返りきってしまう。

まだ地面は遠い。

男は異変に気付くと空中で器用に体をひねり、周りを見渡す。すると、男の頭の上に、濃い紫色のフードを

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溜め息

「困ったな。どうしたものか。」

男は絶望した表情で深い溜め息をついた。すると、部屋の鏡から全身が真っ黒なおかしな格好をした男が現れた。

「なんだお前は。どこからきた。泥棒か。金ならないぞ。出ていけ。」

--まあ、そう言うな。俺は悪魔だ。人間よ、随分困っているようだな。どうだ、悪魔と契約をしないか。--

「悪魔が私に何をしてくれるというのだ。どうせ、悪い事だろう。私はそんな事はしないぞ。」

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変化の日々

男は必死に探していた。より有能な人間を。より新しい人間を。
それが世の中を勝ち抜く唯一の方法だからだ。

科学の進歩により、人は他の誰にでも成れるようになった。見た目だけでは無く、中身も自由に他人に変わる事が出来る。才能は勿論、性格や人格、思想まで他人になれるようになったのだ。
脳変化と呼ばれたその技術は世の中を大きく変えた。
当初は、この技術により人々の個人間の差が無くなり、平等で平和で進歩的な

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